19 / 43
19.甘い言葉
しおりを挟む
藤崎さんにもらった曲には『One-Way』というタイトルがついた。
発表までに時間があったので、『ブロッサム』の続きの曲として、藤崎さんがちょこちょことアレンジしてくれて、『One-Way』はとても素敵な曲になった。
このタイミングで藤崎さんから新曲をもらったことを社長やTAKUYAに話すことにした。
「希さん、マジで!? すげ~! ありがとう!」
小躍りしたTAKUYAは私を抱きあげるとくるくる回り、最大限の喜びを表した。
背の高いTAKUYAより視点が高くなって、事務所の景色が流れるように変わり、くらくらして彼に掴まった。
もう、藤崎さんといい、TAKUYAといい、私を気軽に抱きあげすぎだよ!
「ちょ、ちょっとTAKUYA! 目が回る~!」
「だって、本当にうれしいんだもん! あ~、マジか!」
ギュッとハグして、ようやくTAKUYAは私を下ろしてくれた。同僚がなにごとかとこちらを見ている。
興奮冷めやらぬというようなTAKUYAは置いといて、社長に向かって、『One-Way』が『ブロッサム』の続きの歌になっていて、藤崎さん側にもそういう扱いでいいと許可を取っていることを告げた。
「それはすごいな。注目作になるぞ!」
「そうですよね! SNSで連作になってるっていうのを流したり、歌詞を流したりして、ストーリーになってるのを強調しましょう!」
「希さん、すごいね! どんな魔法を使ったの? 藤崎さんにそんなことをしてもらえるなんて!」
純粋な瞳をキラキラさせて、TAKUYAがナチュラルに聞いてくる。
一瞬、ぐっと詰まるけど、なんとか言い訳をする。
「なんだろう? 『ブロッサム』の続きの歌がほしいって言ったらアイディアが湧いたみたいだから、それで早く曲を書いてくれたのかも」
「なるほどね~。先に連作のアイディアがあったのか。やっぱり希さん、すごい!」
ごまかした私を称賛するようにTAKUYAが見てくるので、ちょっと心が痛かった。
でも、藤崎さんと私の関係をばらすわけにはいかないもんね。
三人で軽く打ち合わせをして、今後の方針を立てた。
「これから忙しくなるぞ~」
社長がうれしそうに笑った。
「それでね、私がそう言うなり、TAKUYAが大喜びして私を抱えてぐるぐる回るから、驚いちゃって……」
今日は藤崎さんの家に行く日だったので、一緒に夕食をとりながら、昼間のことを藤崎さんに報告していた。
オーバーリアクションのTAKUYAがおかしくて言ったのに、藤崎さんは形のいい眉を寄せて私を見た。
思った反応と違って戸惑う私を引き寄せ、じっと見つめる。
「うれしそうだね」
「そりゃあ、TAKUYAがあんなに喜んでくれるから……」
「TAKUYAくんがうれしいと、希もうれしいの?」
「そりゃそうですよ」
「ふ~ん。TAKUYAくんはもしかして希のことが好きなの?」
「へっ? そんなわけないですよ~」
私が笑って否定すると、「じゃあ、逆に……」と言いかけて、藤崎さんは「なんでもない」と口をつぐんだ。
なんだか機嫌が悪くなった藤崎さんに、どこが癇に障ったんだろうと首をかしげたけど、わからなかった。
その日は久しぶりに抱きつぶされた。
もともとなにかあって、機嫌が悪かったのかもしれない。
♪♪♪
「なんだか結構忙しいんですけど?」
私は藤崎さんに文句を言った。
このところ、約束通り、二日おきに藤崎さんのところに来てるんだけど、『One-Way』の売り込み準備に、スタジオ収録、ジャケット写真撮影、デザイン、関係各所への根回し、プレスリリース等など、仕事が目まぐるしい中、自分の家に帰ったり、藤崎さんのところに来たりとなんだか忙しい。今日はどっちだっけ?とわからなくなることもしばしばあって、そのたびにカレンダーとにらめっこする。
と言っても、仕事が終わって藤崎さんのところに来ると、夕食は出してくれるし、片づけはしなくていいし、翌日仕事がある日は抱かれることはないし、恵比寿だから交通の便はいいし……。
(あれ? もしかして自分の家より快適じゃない?)
しかも、よく藤崎さんに後ろから抱かれて座って、彼を背もたれにテレビを見てる。寛ろぎまくってる気がする。彼の匂いにつつまれて、うとうとしちゃう時もあって、その時はいつの間にか藤崎さんがベッドに運んでくれる。
冷静に考えると、この状態に文句を言うのは、世の中の女性に怒られそうだな。
いや、ファンである私も怒る。
自分でそう思って、私は苦笑した。
「だから、一緒に暮らそうって言ってるのに。うちだと上げ膳据え膳だし、掃除洗濯は家政婦さんがやってくれるし、仕事場にも近いでしょ? 忙しいなら、なおさらここに住んだ方がいいよ」
「それはそれで社会人としてダメになりそう」
それに、そんな生活に慣れたら、元に戻った時につらすぎる。
っていうか、藤崎さんはまだそんなこと思ってたんだ。
「こうやって通うようになったから、藤崎さんの嫌いなお誘いをしなくてよくなったでしょ? それなら、一緒に住まなくても……」
「希にいつもそばにいてほしいって思ったらダメなの?」
「そんなわけ……」
契約の恋人に対して、そんな誤解しちゃいそうなことを平気で言わないでほしい。
作詞家でもあるからか、藤崎さんは甘い言葉をすぐ口にするから困る。
(作曲のため、作曲のため、作曲のため……だだそれだけ)
呪文のように頭の中で繰り返す。
それでも、その呪文はとうに効かなくなっていて、溜め息をついて、私は話題を変えた。
発表までに時間があったので、『ブロッサム』の続きの曲として、藤崎さんがちょこちょことアレンジしてくれて、『One-Way』はとても素敵な曲になった。
このタイミングで藤崎さんから新曲をもらったことを社長やTAKUYAに話すことにした。
「希さん、マジで!? すげ~! ありがとう!」
小躍りしたTAKUYAは私を抱きあげるとくるくる回り、最大限の喜びを表した。
背の高いTAKUYAより視点が高くなって、事務所の景色が流れるように変わり、くらくらして彼に掴まった。
もう、藤崎さんといい、TAKUYAといい、私を気軽に抱きあげすぎだよ!
「ちょ、ちょっとTAKUYA! 目が回る~!」
「だって、本当にうれしいんだもん! あ~、マジか!」
ギュッとハグして、ようやくTAKUYAは私を下ろしてくれた。同僚がなにごとかとこちらを見ている。
興奮冷めやらぬというようなTAKUYAは置いといて、社長に向かって、『One-Way』が『ブロッサム』の続きの歌になっていて、藤崎さん側にもそういう扱いでいいと許可を取っていることを告げた。
「それはすごいな。注目作になるぞ!」
「そうですよね! SNSで連作になってるっていうのを流したり、歌詞を流したりして、ストーリーになってるのを強調しましょう!」
「希さん、すごいね! どんな魔法を使ったの? 藤崎さんにそんなことをしてもらえるなんて!」
純粋な瞳をキラキラさせて、TAKUYAがナチュラルに聞いてくる。
一瞬、ぐっと詰まるけど、なんとか言い訳をする。
「なんだろう? 『ブロッサム』の続きの歌がほしいって言ったらアイディアが湧いたみたいだから、それで早く曲を書いてくれたのかも」
「なるほどね~。先に連作のアイディアがあったのか。やっぱり希さん、すごい!」
ごまかした私を称賛するようにTAKUYAが見てくるので、ちょっと心が痛かった。
でも、藤崎さんと私の関係をばらすわけにはいかないもんね。
三人で軽く打ち合わせをして、今後の方針を立てた。
「これから忙しくなるぞ~」
社長がうれしそうに笑った。
「それでね、私がそう言うなり、TAKUYAが大喜びして私を抱えてぐるぐる回るから、驚いちゃって……」
今日は藤崎さんの家に行く日だったので、一緒に夕食をとりながら、昼間のことを藤崎さんに報告していた。
オーバーリアクションのTAKUYAがおかしくて言ったのに、藤崎さんは形のいい眉を寄せて私を見た。
思った反応と違って戸惑う私を引き寄せ、じっと見つめる。
「うれしそうだね」
「そりゃあ、TAKUYAがあんなに喜んでくれるから……」
「TAKUYAくんがうれしいと、希もうれしいの?」
「そりゃそうですよ」
「ふ~ん。TAKUYAくんはもしかして希のことが好きなの?」
「へっ? そんなわけないですよ~」
私が笑って否定すると、「じゃあ、逆に……」と言いかけて、藤崎さんは「なんでもない」と口をつぐんだ。
なんだか機嫌が悪くなった藤崎さんに、どこが癇に障ったんだろうと首をかしげたけど、わからなかった。
その日は久しぶりに抱きつぶされた。
もともとなにかあって、機嫌が悪かったのかもしれない。
♪♪♪
「なんだか結構忙しいんですけど?」
私は藤崎さんに文句を言った。
このところ、約束通り、二日おきに藤崎さんのところに来てるんだけど、『One-Way』の売り込み準備に、スタジオ収録、ジャケット写真撮影、デザイン、関係各所への根回し、プレスリリース等など、仕事が目まぐるしい中、自分の家に帰ったり、藤崎さんのところに来たりとなんだか忙しい。今日はどっちだっけ?とわからなくなることもしばしばあって、そのたびにカレンダーとにらめっこする。
と言っても、仕事が終わって藤崎さんのところに来ると、夕食は出してくれるし、片づけはしなくていいし、翌日仕事がある日は抱かれることはないし、恵比寿だから交通の便はいいし……。
(あれ? もしかして自分の家より快適じゃない?)
しかも、よく藤崎さんに後ろから抱かれて座って、彼を背もたれにテレビを見てる。寛ろぎまくってる気がする。彼の匂いにつつまれて、うとうとしちゃう時もあって、その時はいつの間にか藤崎さんがベッドに運んでくれる。
冷静に考えると、この状態に文句を言うのは、世の中の女性に怒られそうだな。
いや、ファンである私も怒る。
自分でそう思って、私は苦笑した。
「だから、一緒に暮らそうって言ってるのに。うちだと上げ膳据え膳だし、掃除洗濯は家政婦さんがやってくれるし、仕事場にも近いでしょ? 忙しいなら、なおさらここに住んだ方がいいよ」
「それはそれで社会人としてダメになりそう」
それに、そんな生活に慣れたら、元に戻った時につらすぎる。
っていうか、藤崎さんはまだそんなこと思ってたんだ。
「こうやって通うようになったから、藤崎さんの嫌いなお誘いをしなくてよくなったでしょ? それなら、一緒に住まなくても……」
「希にいつもそばにいてほしいって思ったらダメなの?」
「そんなわけ……」
契約の恋人に対して、そんな誤解しちゃいそうなことを平気で言わないでほしい。
作詞家でもあるからか、藤崎さんは甘い言葉をすぐ口にするから困る。
(作曲のため、作曲のため、作曲のため……だだそれだけ)
呪文のように頭の中で繰り返す。
それでも、その呪文はとうに効かなくなっていて、溜め息をついて、私は話題を変えた。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~
日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。
女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。
婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。
あらゆる不幸が彼女を襲う。
果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか?
選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!
高司専務の憂鬱 (完)
白亜凛
恋愛
第16回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。
ありがとうございます!
♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡
高司颯天、三十歳。
彼は高司グループの御曹司。女子社員の憧れの的。
総務課の樋口杏香は、その日荒れていた。
「専務の部屋でまだ飲む!
じゃないと会社辞めてやる!」
偶然バーで会った高司専務に絡んだ杏香は、
そのまま深い関係に……。
専務が悪いわけじゃない。
――悪いのは私。
彼を恨んだりしない。
一大決心をして別れたはず、
なのに?
「お前は俺の女だからいいんだよ」
それってどういうことですか?
※ベリーズカフェ掲載同名小説のR18バージョンです。
描写はソフトですが、苦手な方はすみません。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
【完結】聖女が世界を呪う時
リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】
国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される
その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う
※約一万文字のショートショートです
※他サイトでも掲載中
【完結(続編)ほかに相手がいるのに】
もえこ
恋愛
恋愛小説大賞に参加中、投票いただけると嬉しいです。
遂に、杉崎への気持ちを完全に自覚した葉月。
理性に抗えずに杉崎と再び身体を重ねた葉月は、出張先から帰るまさにその日に、遠距離恋愛中である恋人の拓海が自身の自宅まで来ている事を知り、動揺する…。
拓海は空港まで迎えにくるというが…
男女間の性描写があるため、苦手な方は読むのをお控えください。
こちらは、既に公開・完結済みの「ほかに相手がいるのに」の続編となります。
よろしければそちらを先にご覧ください。
ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。
あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。
彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。
初配信の同接はわずか3人。
しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。
はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。
ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。
だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。
増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。
ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。
トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。
そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。
これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。
凌辱系エロゲの世界に転生〜そんな世界に転生したからには俺はヒロイン達を救いたい〜
美鈴
ファンタジー
※ホットランキング6位本当にありがとうございます!
凌辱系エロゲーム『凌辱地獄』。 人気絵師がキャラクター原案、エロシーンの全てを描き、複数の人気声優がそのエロボイスを務めたという事で、異例の大ヒットを飛ばしたパソコンアダルトゲーム。 そんなエロゲームを完全に網羅してクリアした主人公豊和はその瞬間…意識がなくなり、気が付いた時にはゲーム世界へと転生していた。そして豊和にとって現実となった世界でヒロイン達にそんな悲惨な目にあって欲しくないと思った主人公がその為に奔走していくお話…。
※カクヨム様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる