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『それなら、スキンシップを多くしたらどうだ? 男なんて単純だから、可愛い子にくっつかれたら、悪い気はしないよ』
『わかったわ! ありがとう、大好き、オーフェン!』

 彼を抱きしめると、苦しかったのか、もぞもぞ動いて、迷惑そうな顔をした。
 失礼ね!


 それからというもの、私は王子様にエスコートされるときには、腕に胸を押しつけたり、ことあるごとに抱きついたりした。
 
「サラは甘えん坊だね」

 王子様に付けられた名前で呼ばれ、ニコニコと微笑まれるけれど、私にもわかった。
 王子様は私に恋していない。
 たぶん、拾った犬や猫を可愛がるように、私を可愛がっているだけ。
 命の恩人というだけで、もてなされているだけ。

『好き……』

 想いを込めて見つめても、優しく頭をなでられるだけ。
 たぶん、私の気持ちは伝わっている。
 わかっていて、流されている。
 切ない。
 やっぱり私じゃダメなの?

 それでも、可愛がられ、そばにいられるだけでいいと思っていた。
 このままじゃいられないことを忘れていたのだ。
 

~~~…~~~…~~~…~~~


 あるとき、城がざわついて、なんだろうと思っていたら、隣国のお姫様が来るという話だった。
 いつの間にか王子様との縁談が進み、初顔合わせだということだ。

(隣国のお姫様! 私の最大のライバル!)

 どうにかこの縁談を壊さなければいけない。
 でも、物語の王子様は自分を助けてくれた人に似ているって理由でお姫様を気に入っていただけだから、本人がここにいたら関係ないわよね?

 それなのに、お姫様を見た王子様は、息をするのも忘れたかのように固まった。食い入るように彼女を見ている。
 その瞬間、王子様がお姫様に恋したのがわかった。
 だって、私も同じだったんだもの。
 一目惚れ。理屈じゃなくて、ただ好きだと思う。
 好きになる理由はどうでもよかったらしい。

 お姫様のほうも王子様を気に入って、二人の縁談は成立した。 
 しかも、王子様が私を命の恩人だとお姫様に紹介してくれると、お姫様は感じよく微笑んで私を受け入れてくれた。

(もっと嫌な人だったらよかったのに)

 王子様が誘い、お姫様をエスコートしてお庭を散歩しているのを見かけた。
 お似合いのカップル。
 二人の仲睦まじい様子に、私はなにもできなかった。


~~~…~~~…~~~…~~~


 明日は二人の結婚式だ。
 物語では王子様の結婚式の翌日に、私は海の泡になる。正確に言ったら、風の精になるのかしら?
 私はあきらめの心境で、その日を過ごした。

 夜にお姉様がたが、ご自分の髪と引き換えに魔女に短剣をもらってきてくれた。

(手紙になにもしないでいいって書いたのに!)

 私を想うお姉様がたの気持ちに胸が熱くなる。
 お姉様がたはこの短剣で王子様を刺せと言う。そうしたら、王子様の血で私は人魚に戻れるのだ。
 でも……。

『そんなことできないわ! それくらいなら、私は海の泡になる!』

 泣きながらも、オーフェンを抱きしめて、宣言する。
 オーフェンは慰めるように頬の涙を舐めた。

『サーナ……。お前は可愛くて心優しくて、俺は大好きだ』
『オーフェン、私も大好きよ。今まで本当にありがとう』

 私は想いを込めて、オーフェンに口づけた。
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