上 下
1 / 8

しおりを挟む
 気がつくと人魚姫だった。

(ウソでしょ?)

 昔、絵本で読んだ悲恋の主人公。
 よりによって、そんなキャラに私は転生したらしい。

 鏡を見ると、水色の腰までの髪がまっすく伸び、同じ色の大きな瞳は宝石のようにキラキラ。瞬きのたびにバサバサと音がしそうな長いまつげは、くっきりした二重の目をびっしり囲っている。そして、愛くるしい顔立ちは十人が十人とも見惚れるほどだった。
 
(わぉ、なんて美少女!)

 自分で自分にうっとりしてしまう。

 転生した認識があるってことは、前世を覚えているかというとまったくで、本が好きな女の子だったということしか覚えていない。
 でも、人魚姫のストーリーはバッチリだ。
 読んだ当初、ツッコミまくっていた覚えがある。
 もっとガンガン王子様にアタックすればいいのにって。
 この容姿なら可能じゃない?

 オーケーオーケー。
 私は物語の人魚姫の二の舞になんかならない。
 まずは王子様に会わなければいいんじゃない?
 これで完璧。
 王子様に恋して泣くこともないし、海の泡になることもない。
 快適な海の中で面白おかしく過ごせるってものよ。


 わざわざ海上に出なくても、王宮生活は快適だった。
 珊瑚やパールに彩られた宮殿は豪華で、なにもしなくても美味しい食事が出てくるし、鯛や平目が舞い踊り……って、それは違う話か。
 でも、実際、お魚や人魚以外にもカニ、サメ、イルカなど友達はいっぱいいたから退屈しなかった。
 特に、カメのオーフェンとは気が合って、いつもおしゃべりしていた。

「たまには地上を見るのも面白いよ。こことは違った景色が見られる。一度、夕陽の沈む海をサーナに見せたいなぁ。それは美しいんだ」
「絶対イヤ! オーフェンは私を不幸にしたいの?」
「そんなわけないだろ。俺はいつだってサーナの幸せを祈っているよ」

 そんなことを言われて、カメに対して、ドキリとしてしまう。
 オーフェンはカメのくせにときどき男前なセリフを言うのよね。


 こんなふうに私は頑なに海上に出ないようにしてきた。なのに、ある日、お姉様たちとの追いかけっこに夢中になって、うっかり海上に出てしまった。
 運悪く、そこには大きな船。
 よりによって、その甲板に、王子様がいた。

 風になびいて煌めく金髪、光に反射してキラリと輝く海の色の瞳、微笑みを浮かべた口もと。デッキの手すりに腕を乗せて、遠くを眺めている横顔は見たことがないくらい整っている。

(ズッキュ~ン!)

 心臓が撃ち抜かれた音がする。
 好みど真ん中の美形男子。
 これはヤバいわ。
 まんまと私は恋に落ちた。
 やっぱりストーリーからは離れられないのかしら……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

もふきゅな
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

処理中です...