勇者の幼なじみ

入海月子

文字の大きさ
上 下
7 / 15

王女のお願い

しおりを挟む
「こちらは、エマーナ王女でございます。ファラとやらにお話しされたいとわざわざこんなところまで足をお運びになったのです」

 従者らしい人がそう言って、私は驚いた。
 エマーナ王女といえば、この国の王女で、セフィルと結婚すると噂されている方だった。
 そんな方がどうして私に?

 突然のことに固まっていると、エマーナ王女が口を開いた。

「ファラと話がしたいの。二人きりにしてもらえるかしら?」

 営業中のパン屋で二人きりと言われても……とみんな戸惑ったけど、お父さんもお母さんもお客さんも店から追い出された。
 護衛が扉の前に立ち、従者はエマーナ王女の横に控えたままだった。
 エマーナ王女側の人間はカウントしないようだ。

「あなたがファラね」
「はい」
「突然だけど、お願いがあるの」

 そう言って、王女は眉をひそめた。悲しげな顔で私を見る。

「なんでしょうか?」

 嫌な予感がして、心臓が跳ねた。
 王女と私を繋ぐのはセフィルしかいない。セフィルになにかあったの?

「実は勇者様が魔王を倒したときに呪いを受けて、苦しんでるの」
「えっ! セフィルが⁉ 新聞にはそんなこと……」
「隠してるに決まってるじゃない」

 セフィルが苦しんでるなんて、居ても立ってもいられなくて、私はエマーナ王女を見つめた。
 ここに来たってことは私になにかできるのかしら?
 セフィルのもとに連れていってくれるかもとも期待した。
 でも、王女は思いもよらない話をした。

「それでね。解呪方法を模索していたところに、神託がおりたの。『勇者の幼なじみの女を神の花嫁にすれば、呪いは解ける』って」
「勇者の幼なじみ……」
「それってあなたよね?」
「はい。私が神の花嫁になれば、セフィルは助かるんですか? でも、神の花嫁ってなんですか?」

 意気込んで聞いた私に、王女はにこやかに答えてくれた。

「神の花嫁っていうのはね、ここから北のゴルダス修道院に入って、神にお仕えすることよ。男子禁制で、一生神に祈って暮らすので、神の花嫁って言われているの」
「一生……」
「ねぇ、お願い。勇者様のために、神の花嫁になってくださらない?」

 王女がすがるように私の手を取った。
 セフィルのために……。

「わかりました!」 
 
 私は躊躇なくうなずいた。
 セフィルの呪いが解けるなら、なんでもやると思った。
 それに、家族や友達と会えなくなるのはさみしいけど、どうせひとりで生きていくと決めたばかりだ。そこが修道院でも大して変わらないだろうと思った。 
 私の快諾に、王女はあっけにとられていた。
 こんなにすぐに返事をするとは思っていなかったのかな。

「本当にいいの?」
「はい。それでセフィルの呪いが解けるなら」
「ありがとう。助かるわ」

 エマーナ王女は感激したように、私の手を握り、ぶんぶん振った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

【R18】英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う

季邑 えり
恋愛
とうとうヴィクターが帰って来る——シャーロットは橙色の髪をした初恋の騎士を待っていた。 『どうしても、手に入れたいものがある』そう言ってヴィクターはケンドリッチを離れたが、シャーロットは、別れ際に言った『手に入れたいもの』が何かを知らない。 ヴィクターは敵国の将を打ち取った英雄となり、戦勝パレードのために帰って来る。それも皇帝の娘である皇女を連れて。——危険を冒してまで手に入れた、英雄の婚約者を連れて。 幼馴染の騎士 × 辺境の令嬢 二人が待ちわびていたものは何なのか

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

姉の夫の愛人になったら、溺愛監禁されました。

月夜野繭
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、憧れの騎士エルネストから求婚される。しかし、年長者から嫁がなければならないという古いしきたりのため、花嫁に選ばれたのは姉のミレーナだった。 病弱な姉が結婚や出産に耐えられるとは思えない。姉のことが大好きだったリリアーナは、自分の想いを押し殺して、後継ぎを生むために姉の身代わりとしてエルネストの愛人になるが……。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷 ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。 ◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡

【R18】婚約破棄されたおかげで、幸せな結婚ができました

ほづみ
恋愛
内向的な性格なのに、年齢と家格から王太子ジョエルの婚約者に選ばれた侯爵令嬢のサラ。完璧な王子様であるジョエルに不満を持たれないよう妃教育を頑張っていたある日、ジョエルから「婚約を破棄しよう」と提案される。理由を聞くと「好きな人がいるから」と……。 すれ違いから婚約破棄に至った、不器用な二人の初恋が実るまでのお話。 他サイトにも掲載しています。

媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。

入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。

処理中です...