44 / 82
44
しおりを挟む
「勢いよく切りすぎたかしら………」
あの後も口々と私を馬鹿にするような発言が見られていたが、相手にするのも面倒で演奏に没頭した。
一度は止めた先生もそれ以上私たちに介入することはなく、床に散っていた髪を集めて捨てていただけだった。
やっと授業が終わり、お手洗いにある鏡で自分の姿を見てみれば、前髪は斜めに切れており右頬も切れていた。
まさかこんな形で髪を切ることになるとは予想していなかったが、仕方ない。
あとで前髪は切り揃えるにして。
「…………この顔」
久しぶりに見る『ローレンス』の顔。
そこに映り込んでいるのは私の知っている『ローレンス』の顔つきではない。
パーツは同じだけれど、目付きは異なっているし、表情も違う。
丸々として綺麗な黄緑色の瞳ではなく、鋭さがあり凍てついた黄緑色の瞳がそこにはあった。
表情豊かな顔付きではなく、何を考えているのか分からない表情をしている。
中にいる自分が異なるだけでここまで違うのかとじっと己の顔をまじまじと見てから廊下に出れば何故かびしょ濡れのアルレートがそこにいた。
何が一体あったのだろうか。
まさかグレゴリーに何かされたのか。
見なかったことにしておきたいが、そうもいかないかと嫌々ながら声をかけることにした。
「あの、大丈夫ですか?」
ポケットからハンカチを取り出して差し出せば、俯いていた顔を勢い良く私に向け睨み付けられた。
「『大丈夫か?』ですって?!見りゃ分かるでしょう?!散々馬鹿にされた挙げ句水かけられたのよ、こっちは!」
かけられたのが水でまだ良かったじゃないかと思ってしまった私は少しずれているかもしれない。
昔の私なら塩素やら毒薬やら混ぜたものをかけていたことだろう。
「それは散々な目に合いましたね。風邪を引く前に着替えられた方が良いかと存じます」
無表情のままそう言い、ハンカチを差し出すも受け取らなかった。
「同情なんていらない!」
これはただの八つ当たりだな、と思いながら怒り狂うアルレートを見た。
濡れている以外は特に目立つ外傷は見当たらない。
ストレスはかなり溜まっているみたいだけれど、それだけのようだ。
以前は『私』に散々いじめられ、下手すれば殺されかけられたのに、今度はグレゴリーという新たな人物に目をつけられるとは、可哀想な人物だ。
「あらあら、揃いも揃って惨めな格好ですこと」
嫌みたらしく聞こえた声の方向へ顔を向ければ、そこにはグレゴリーと取り巻き三人の姿があった。
あの後も口々と私を馬鹿にするような発言が見られていたが、相手にするのも面倒で演奏に没頭した。
一度は止めた先生もそれ以上私たちに介入することはなく、床に散っていた髪を集めて捨てていただけだった。
やっと授業が終わり、お手洗いにある鏡で自分の姿を見てみれば、前髪は斜めに切れており右頬も切れていた。
まさかこんな形で髪を切ることになるとは予想していなかったが、仕方ない。
あとで前髪は切り揃えるにして。
「…………この顔」
久しぶりに見る『ローレンス』の顔。
そこに映り込んでいるのは私の知っている『ローレンス』の顔つきではない。
パーツは同じだけれど、目付きは異なっているし、表情も違う。
丸々として綺麗な黄緑色の瞳ではなく、鋭さがあり凍てついた黄緑色の瞳がそこにはあった。
表情豊かな顔付きではなく、何を考えているのか分からない表情をしている。
中にいる自分が異なるだけでここまで違うのかとじっと己の顔をまじまじと見てから廊下に出れば何故かびしょ濡れのアルレートがそこにいた。
何が一体あったのだろうか。
まさかグレゴリーに何かされたのか。
見なかったことにしておきたいが、そうもいかないかと嫌々ながら声をかけることにした。
「あの、大丈夫ですか?」
ポケットからハンカチを取り出して差し出せば、俯いていた顔を勢い良く私に向け睨み付けられた。
「『大丈夫か?』ですって?!見りゃ分かるでしょう?!散々馬鹿にされた挙げ句水かけられたのよ、こっちは!」
かけられたのが水でまだ良かったじゃないかと思ってしまった私は少しずれているかもしれない。
昔の私なら塩素やら毒薬やら混ぜたものをかけていたことだろう。
「それは散々な目に合いましたね。風邪を引く前に着替えられた方が良いかと存じます」
無表情のままそう言い、ハンカチを差し出すも受け取らなかった。
「同情なんていらない!」
これはただの八つ当たりだな、と思いながら怒り狂うアルレートを見た。
濡れている以外は特に目立つ外傷は見当たらない。
ストレスはかなり溜まっているみたいだけれど、それだけのようだ。
以前は『私』に散々いじめられ、下手すれば殺されかけられたのに、今度はグレゴリーという新たな人物に目をつけられるとは、可哀想な人物だ。
「あらあら、揃いも揃って惨めな格好ですこと」
嫌みたらしく聞こえた声の方向へ顔を向ければ、そこにはグレゴリーと取り巻き三人の姿があった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?
ぽんぽこ狸
恋愛
仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。
彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。
その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。
混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!
原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!
ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
男がほとんどいない世界に転生したんですけど…………どうすればいいですか?
かえるの歌🐸
恋愛
部活帰りに事故で死んでしまった主人公。
主人公は神様に転生させてもらうことになった。そして転生してみたらなんとそこは男が1度は想像したことがあるだろう圧倒的ハーレムな世界だった。
ここでの男女比は狂っている。
そんなおかしな世界で主人公は部活のやりすぎでしていなかった青春をこの世界でしていこうと決意する。次々に現れるヒロイン達や怪しい人、頭のおかしい人など色んな人達に主人公は振り回させながらも純粋に恋を楽しんだり、学校生活を楽しんでいく。
この話はその転生した世界で主人公がどう生きていくかのお話です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
この作品はカクヨムや小説家になろうで連載している物の改訂版です。
投稿は書き終わったらすぐに投稿するので不定期です。
必ず1週間に1回は投稿したいとは思ってはいます。
1話約3000文字以上くらいで書いています。
誤字脱字や表現が子供っぽいことが多々あると思います。それでも良ければ読んでくださるとありがたいです。
奥様はエリート文官
神田柊子
恋愛
【2024/6/19:完結しました】
王太子の筆頭補佐官を務めていたアニエスは、待望の第一子を妊娠中の王太子妃の不安解消のために退官させられ、辺境伯との婚姻の王命を受ける。
辺境伯領では自由に領地経営ができるのではと考えたアニエスは、辺境伯に嫁ぐことにした。
初対面で迎えた結婚式、そして初夜。先に寝ている辺境伯フィリップを見て、アニエスは「これは『君を愛することはない』なのかしら?」と人気の恋愛小説を思い出す。
さらに、辺境伯領には問題も多く・・・。
見た目は可憐なバリキャリ奥様と、片思いをこじらせてきた騎士の旦那様。王命で結婚した夫婦の話。
-----
西洋風異世界。転移・転生なし。
三人称。視点は予告なく変わります。
-----
※R15は念のためです。
※小説家になろう様にも掲載中。
【2024/6/10:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる