やっと、

mahiro

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翌日。
買い物に行くチャンスが訪れた。
町で売っているテーブルクロスの購入を依頼されたのだ。
その帰りにこのドレスを売り捌いて何か買ってこよう。
そう思って城を出ようとしたらエディスに止められた。


「………ミュライユちゃんじゃなきゃ駄目なの?」


今にも泣きそうな顔でそう言われ、頭を悩ませながら細い肩に手を置いた。


「皆、二人の結婚式の準備で大忙しなんだ。エディスも今、準備で大変だろう?私も少しはみんなの役に立ちたいんだ」


だから行かせてくれ、と言えば、渋々頷いてくれた。
ここでエディスを泣かせれば忙しさなんて関係なくノエリア王子が飛んでくるに違いない。
下手すればまた牢屋入りだ。


「絶対買い物終わったら帰ってくるから安心してくれ」


「絶対?」


「絶対」


何度も頷けば、曇っていた表情を晴れやかな笑みに変えてエディスは私を見送ってくれた。
何とか城を出れた私はまず、テーブルクロスから探し出すことにした。
パーティーで使用するテーブルクロスは全部で30枚。
本日購入したとしても納品は別日になるだろうから、とりあえず注文だけでもしておこう。
アルノルフさんに指定された店に行き、必要枚数と納品日を確認し、店を出た。
さて、次は自分の用を済ませるか。
そう思って町を歩けば、目的の店を見つけて中に入った。
昼間なのに店の中は薄暗く、本当に営業しているのか怪しい店だ。
でも、入り口には『営業中』と書かれていたような。


「めっずらしーい。お客さんだよ、ジュリー」


部屋の置くから前髪が長く目の見えない青年が出てきたと思ったら、その置くから可愛いというより綺麗な女性が出てきた。
まるで何処かのお嬢様と言われても頷けるような上品さを感じさせる女性に見える。


「変わり者だな」


鼻で笑われたような気がするが、そこはあえて気にしない。
こっちはドレスが売れればそれで良いのだから。


「すまんが、これって買い取って貰えるか?」


手に持っていた全てのドレスを店のテーブルに並べて見せれば、前髪の長い青年が大きく口を開いた。


「わー、珍しい素材ばっかりじゃん。こんな良いもの売っていいの?」


「もう着ないものだし別にいい。今はとにかく金が必要なんだ」


だってさ、ジュリー?と呼ばれた女性は私が見せたドレスを見て整った眉を寄せたが、すぐに元に戻して手のひらを私に見せた。


「そんなに傷もないし、そのままでも十分価値のあるものだ。まぁ、ざっとこんなもんだがどうだ?」


ジュリーが提示してきた額は私が思っていた以上の金額で、思わずジュリーと金額を交互に見て、単位を数え直して見たが変わらなかった。


「良いのか?そんないい値で買い取って貰って」


「それくらい価値のあるもんなんだよ。この刺繍部分ひとつ取り上げても特殊で良い額だ」


「ありがとう………助かる」


これだけあれば値の張るものだって買えそうだ。
思わず顔を弛ましていると、視界の端にオレンジ色に輝くものが移り込んできた。
何だろうとそれを見に行こうとすれば、それを察したジュリーが椅子から立ち上がってそれを手にして持ってきてくれた。


「プロエヌというこの国の花をモチーフに作られたブローチで、お祝いで使用されることの多いものだな」


ひとつひとつの花が小さく、実の中心には綺麗なオレンジ色に輝いて見えた。
その色がドレスの色とノエリア王子の髪と瞳の色に似ているように思えた。


「花言葉は『永遠の愛』や『私はあなたを愛しています』、『わたしにはあなたしかいない』」


花言葉も結婚式にもってこいじゃないか!と喜んで視線をジュリーに向ければ、何故か顔色が悪く見えた。
もともと色が白いのだろうが、青白く見えるのは気のせいだろうか。
それにブローチを持っている手なんて傷だらけだ。


「どうした?買わないのか?」


長い睫を上に上げ、頭を傾けるジュリーにその後ろで心配そうにソワソワし始めた青年の姿が目に入った。
これは訳ありだな、と思ったが下手に口を挟めばまた町に出てこなきゃいけなくなるし、エディスまで巻き込むことになりそうだ。
ここは一旦引くしかないか。


「買う」


「そうか。今包むから待ってろ」


そう言って店の奥に去っていくジュリーを見送り、ソワソワしている青年に視線を向ければ、今度は何でもないような素振りを見せるので逆に怪しさが増した。


「ほらよ。どうせノエリア王子とエディス様の結婚式のお祝いだろ?」


そんでこっちが残りのお金な、と渡されたお金の入った袋と綺麗にラッピングされたものを手にした。
何で分かったんだと、ジュリーを見れば悲しみの混ざった笑みを浮かべられた。
その意味が分からず、その表情を見ていると。


「お買い上げありがとうございました」


深々と頭を下げたジュリーに倣うように青年も頭を下げてきたので、私は止まっていた足を動かすことにした。
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