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その22

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シワの目立つスーツ、荒れ果てた家の中、積もり積もった洗濯の山。
先輩がこれを見たら何の言うか予想してみようと思う。

『汚ねーな…身だしなみくらいしっかりしとけ』


だと思う。
先輩は覚えているか分からないけれど、俺に色々とあぁしろこうしろと言っていたけれど、何一つ守れていない自信がある。
守りたくないのかというとそうではなくて、やる気が起きない。
そこまでのゆとりが俺にはない。
じゃあゆとりが出来たらやれるのかというと怪しい所だけど、今よりかは出来るんじゃないかとは思う。
思うだけだけど。
相変わらず、今日も夕食は仕事しながら食べたから家に帰ったらまた少し仕事して寝るだけか。
今日もスマホには連絡入ってなかったし、いつになったらあの言葉の意味を俺は知ることが出来るのか。
そもそもそんな日が来るのかすら危うい。
だって相手は芸能人であり、ゆくゆくは社長でもあるのだ。
そんな相手とおいそれと会えるはずがない。
あの共に過ごせた時間こそが奇跡に近いのだ。
忘れよう、先輩のあの言葉は。
聞かなかったことにしよう。
そもそもあの再会さえなければ、聞くこともなかった言葉であり、時間だったのだ。
そう思って自宅へと向かうと俺の家のドアの前にフードを深く被って座り込む男性の姿が見えた。
一体誰なのかと恐る恐る近付いてみるも顔が全く見えず誰だか分からない。
まさか家を間違えていたりとかしないよな。
それは勘弁してほしいんだが。


「遅い……」


あと一歩でドアの前に辿り着こうとした瞬間、ドスのきいた声がその人物から発せられ、思わず持っていた家の鍵を落とす所だった。


「また帰り時間遅くなってるなぁ、笠原」


俯いていた顔が上に向けられ、フードを取ったその人は突然姿を消し、挙げ句の果てには連絡まで取ることの出来なかった先輩の姿があった。
思わぬ登場人物に驚きつつも、後退ればその分先輩が立ち上がってすぐに俺を見下ろしてきた。


「まぁ、帰ってきたから良しとして。話したいことが沢山あるんだが…家に居れてくれるよな?」


拒否権なんてありませんけど何か?、という言葉が言われなくても聞こえてくるのは何故だろうか。


「いや、あの、数分待っていただきたいなぁなんて」


待って貰っている間に部屋を片付けたいし。
今日の朝探し物をしたからいつもより汚いし、とか思っていたのが。


「俺、散々待ってたのに更に待たせるの?」


いや、それは貴方が勝手に待っていたたけでしょうと言いたい。
言いたいけど怖くて言えない。
昔なら怖さ知らずに言えたんだろうけどな。
後先考えずに行動してたし。


「もしかして彼女でも居るの?」


「いや、いませんけど」


もし居たとしたら人の部屋の前でずっと座り込む人がいたら怖くて110番されていたと思うなぁ、とか思っても言えません。


「そ。それかエロ本が散らばってるとか?」


「いや、そんなものないですけど。違くてですね、今朝探し物していて、前より部屋が荒れていると言いますか……」


「はぁ?また汚したのかよ、お前」


「すんません…」


来ると分かっていたら少しは綺麗にしていたのに。
いや、そこじゃないだろう。


「とにかく、話を中でするのは良いのですがとにかく汚いので待っててください!」


「汚くても良いから入れろ、外寒い」


えぇ………?と言いたい口を閉じ、無言で部屋の鍵を開けた。
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