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その21

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先輩にメールを送っても返事は来ないまま月日は経過していく。
早めに帰っていたのがまた遅くなり、片付いていた部屋はまた荒れ果て、洗濯物は溜まっていく。
料理は作らず、仕事をしながら食べる日常へと逆戻りしていた。
その間、ずっとあの時の言葉が忘れられなかった。
あれはどういう意味の『好き』なのだろうか。
俺と同じ『好き』だとしたら嬉しいけれど、それはないだろう。
嫌われてはいなかったと思うけれど、だからって好かれていたとも思えない。
特別扱いされたことなんてなかったし、どちらかというと弄られていた記憶の方が多いと思う。


「………先輩のばーか」


こんな一方的に言うだけ言って逃げるとか、先輩らしくないっすよ、と自分のスマホを指で弾いてみた。

翌朝、いつものように出社すると女の子たちが先輩の話をしていた。


「逞生、今の事務所辞めて新しい事務所作るらしいよ」


「みたいだね、でも随分前からこの話ってファンの間だと出てたよね?」


「本格的に動き出したってことだね」


そうなのか、と盗み聞きしながら手だけは動かす。
新しい事務所を作るってことは社長になるってことか?
そうなると今より更に手の届かない人になるのか。
ただでさえ、芸能人ってだけでも本来手の届かないはずの人なのに。


「デマでも変なスクープされちゃったから話が流れちゃったのかな?」


「かもね……」


その後も女の子たちは話していたようだけど、俺はあんなに触れるほど側にいた人が離れていく寂しさをじわじわと感じ、胸元を握りしめた。
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