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その12

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いつもは一人で帰ってくる家に今日は予想もしていなかった人物と共に帰ってきた。
暗闇の部屋に足を踏み入れ、電気を点ければいつもと変わらない風景が広がっていた。
とりあえずペットボトルの入った袋は台所に避けて、部屋の中に入ってサイドテーブルの上に先輩が持ってきてくれた袋を置いてみる。
がさばってるわりには重くないなと思い、袋の中を見てみれば調理器具が入っていた。
確かに俺の家、ろくに調理器具ないもんな。
包丁すらないし。


「お邪魔します」


「どうぞ、狭くて汚いですが」


「ホントだ、狭」


そりゃ稼ぎが違いますからね。
こんなセキュリティも何もないどこにでもあるアパートと先輩が住んでいそうな高そうな家と比べないでいただきたいものだ。


「部屋1つ?」


「この部屋だけっすよ。ベッドはこれだけで、ソファとかないっす」


掛け布団の予備とかあったかなと、クローゼットの上の辺りを見てみるも冬掛けしかない。
ないよりマシかとそれを出せば、後ろから汚ねぇ、という声が聞こえてきた。


「お前布団の上くらい整えてから寝ろよ。これじゃ逆に疲れるだろ」


確かに洗濯物を畳まず、布団の上に放り投げたものが山となって置いてあったな。
靴下とか朝、そこから発掘させてたりする。


「すんません、今どかします」


「いや、それは後で良いや。先に冷蔵物を冷蔵庫に入れるか」


「はいっす」


そこから車と家を2往復くらいし、冷蔵庫に物を入れ、洗濯物も片付け、布団も出し終えた。
俺がそれでバタついている間に先輩はいつの間にか風呂を沸かしてくれていたようで、先に入れと言ってきた。
よく初めてなのに入れ方分かったな、と思って久しぶりに入る湯船に浸かっていたら、お風呂の蛇口のところに俺の字で入れ方が書いてあった。
滅多に風呂とか入らないし、基本シャワーで終わらせるからたまに入ろうとすると入れ方忘れるんだよな。


「暖かいなぁ…」


久しぶりに入るお風呂にのんびり浸かり、風呂から出れば、袋の中の整理を済ませた先輩が布団の上に座ってスマホを弄っていた。
背景はいつも見慣れた俺の家なのに、様になるとかいる人間が違うだけで華やいで見えるんだなぁ、とか思ってしまう。


「風呂次どうぞ」


「サンキュー」


警戒心もなくサイドテーブルにスマホを置き、風呂に向かった先輩を見送り、冷蔵庫を開けてみると普段すかすかな中身がぎゅうぎゅうに押し込められていた。
ここに住んで以来、初めてじゃないだろうか。
こんなに満帆なの。


「あれ」


ペットボトルを取ってカーテンの方へと視線を向ければ、干していた洗濯物は畳まれ、ベッドにあった筈の山も綺麗に畳まれてクローゼットの下にある小さいケースの上に置かれていた。
そして、もともとあった洗濯物干しには洗濯機の中に入れていたものたちが干されていた。
いつの間に洗濯して干したの。
先輩有能すぎませんか。
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