離したくない、離して欲しくない

mahiro

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その5

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この人を一番始めに知ったのは、中学3年の頃。
とある雑誌で見かけたときにたまたま載っていたのが、先輩だった。
最有力選手と書かれたそれに吸い寄せられ、目が離せなくなった。
それから先輩の情報をあれやこれやと集めるようになり、次に先輩に会ってみたいと思うようになった。
俺は地方住みで先輩は都内に住みで選手は都内の名門校に通っていた。
俺はとても推薦を貰えるような学力もなく、都内のその高校に行くのは限りなく無理だった。
親戚が都内にいるわけでもなく、特待生として寮に住ませて貰えるわけでもない。
やはり憧れだけでは通うことは困難かと諦めかけていた所に、たまたま俺の通っていた中学にその高校の監督が講演のために訪れていた。
それを全く知らなかった俺は講演を見ず、校庭で友達と50mの競争をしていた。
遊び半分であったそれは、たまたま良いタイムを叩きだし友達と共にすげぇ、と話していた。
そんな所にたまたまそれを見ていた監督が俺に声をかけてきて、俺はなんと先輩と同じ高校でそれも同じ部活に入部することが出来た。
しかも、同じ寮生活で約2年間を共に過ごすことが出来たのだ。
生活は楽しかったし、辛かったことも沢山あったけれど、一番充実した時間を過ごせていたのではないかと思う。
あのとき、監督が俺のいた中学に来ていなければ、俺が校庭で友達と競争をしていなければ起きなかったことだ。
偶然とは恐ろしいものだと思う。


「この辺りで大丈夫です、ありがとうございました」


車で走ってからこれ15分くらいだろうか。
いつもならタクシーで帰っていた為、今日の分はタクシー代が浮いた。


「そうか?別に家の側まで送るけど?」


「いえ、この辺りから普段も歩いてますし大丈夫ですよ」


「そ、ならここで。と、あ、待った。お疲れのお前にこれやる」


そう言うと先輩は道路の端に車を止め、後ろの座席に置いてあった鞄からビニール袋を出した。
それの中身を確認した後に俺にそれを渡してきた。


「来月から売り始めるエナジードリンクだってさ。サンプルで貰ってさっき飲んだけど、後味さっぱりしてて旨かったから良ければ飲んでみな」


「ありがとうございます…」


人から物貰うとか久しぶりだ。
こうして仕事関係者以外の人と話すのも久しぶりだけど。
凄く嬉しい。


「貰い物で悪いな。そういや、連絡先って学生の頃から変わったか?」


「いえ、特に」


「なら後でメールする。気をつけて帰れよ」


「ありがとうございます、先輩をお気をつけて」


次いつ会えるか分からないから名残惜しいけど、まだ帰って仕事が待ってるし、帰ろう。
シートベルトを外し、ドアを開けて外に出れば冷たい風が身体に当たった。
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