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ハドソン領 花街道(仮)

 一番星食堂にて 3

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 『花街道(仮)活性化計画』を提案した時、各村や町限定の料理を、と考えはしたんだよね。ハドソン伯爵家にアイスクリームの料理レシピを売った時みたいにね。
まだ登録していない前世の料理だったらまだまだあるから余裕なんだけどさ。

でもそのレシピを誰が購入するのか、と考えたら色々問題が出てくるだろうなぁ、と思った。

単純に誰が料理レシピの購入代金を負担するのか?という問題もある。

 ハドソン伯爵家や領が負担するのなら、レシピを一般公開し販売する方法を時期をみて選択すると思う。
レシピを非公開にして、花街道(仮)に客を誘導するよりは、手っ取り早く楽に稼げるからだ。

そうなると『花街道(仮)活性化計画』の趣旨からは外れてしまうだろう。ハドソン領の良い収入源にはなるだろうけれど。
それでは街道沿いの村や町からの要望や問題は一時的にしか解決しない。

でも、街道沿いの村や町が購入代金を支払うのも現実的ではないんだよね。
レシピの予想売上などを考慮して決めるレシピの権利の売買では、言い値で取引するような、金額なんて有って無いようなもの。そして高額になる事が多い。

それでも料理レシピの権利は安くあってはならない。レシピを考案した人の才能と努力を安売りしてはいけないからだ。

まぁ、だからこそ大半の料理の考案者が、自分で商業ギルドにレシピの登録をするんだけれどね。


 料理レシピを考案者から買取りするのは、貴族か大きな商会とかなんじゃないかな?
そもそもが依頼を受けて考案し売買されているのだと思う。

 だからいきなり王都から離れた地方貴族の、そのまた小さな村や町が、料理レシピを買い取るなんていう話はたぶん前例がないと思う。

 エトリナ商会が登録した料理レシピは領主様のお墨付き、と言われても、それなりの金額を投じて料理レシピを買う事を決断するのは代表者一人だけでは出来ない。何より安くない金額のお金を工面するのは難しいだろう。


それにその方法で上手くいったとしても、レシピ非公開の料理が人気になった時、レシピを公開した方が簡単に稼げる、と考える代表者ヒトが出てきたら?

 村や町の財源が潤沢になったとしても、収入が増える住民はそう多くないと思う。

 例えば、この村には食事を提供する店は二軒だけだ。それ以外の住人は他の職業に就いていて、限定料理目当ての訪問客が増えたところで村、は賑わっていても他の職業の人たちの収入は増えない。
だから料理だけではダメなんだよね。


 昨日、アシュトンさんにアイビー村の村長さんが出した嘆願書を見せてもらったけど、『アイビー村には訪問客が来ない。何とかして下さい。』というような、本当にフワッとした内容だけが書かれたものだった。

そんなフワッとした嘆願書を出しておいて、『領主様が何とかしてくれるから!』と村内で言って回るのは如何なものかと思う。

 村長さんたちとは午後に話し合いをする事になっているから、その時に色々と確認を取ろうと思っている。


「私が代表をしているエトリナ商会はまだ作ったばかりの小さな商会で、今は料理レシピの考案と登録、そして考案した料理を宣伝する為に屋台販売をしながら旅をしている最中なんです。

 調味料のレシピ販売は珍しいかも知れませんが、商会を立ち上げてから幾つか登録しています。昨日のマヨネーズとケチャップもそうです。

一番星食堂さんでは、今までに商業ギルドで料理のレシピを購入した事はありますか?」


「え?レシピの購入はした事は無いわね。スープは昔からあるこの国の定番料理だし、ハイドの作る料理は昔から彼が作っているものよ?」

「俺が作っている料理の大半は無料公開になった料理レシピを利用している。料理人見習いの時に商業ギルドに何度も足を運んで得たレシピだな。

修行先では技術は学べても、店で出す料理のレシピは秘匿されている事もよくあるんだ。進んで教えてくれるのは無料公開されている料理ぐらいなものだ。

 自分たちが考案した料理、金を払って作っている料理のレシピは見習いなんかに無料タダで教える事はしたくねぇ、ってな。」

 ハイドさんがメアリーさんの言葉の補足しながら隣に座った。どうやら仕込みは終わったみたいだ。

けど、そっか。当たり前だけど、食事を提供する店全てが料理レシピを購入している訳じゃないんだね。
年数が経てば無料公開になるレシピもあるし、一般家庭で作られる家庭料理もレシピを買って作っている訳じゃない。

 それに商業ギルドがある街から離れた場所にある村や町に住んでいたら、料理レシピを購入する事もそう多くは無いのも分かるし、どうせなら無料公開されている料理を覚えて帰った方が使用料は掛からない。

そう考えると今回、レシピの代理購入申請が出来るように商業ギルドに掛け合ったのは正解かも。

 レシピの購入は基本は商業ギルドで行うものだけど、実は購入申請用紙の持ち出しを今回に限り、ウィリアムさんから許可を貰っていたのだ。
領主から依頼された『花街道(仮)活性化計画』をスムーズに進める為に。

 立ち会いはハドソン伯爵家の代理人のアシュトンさんが務め、契約成立となったら後日、纏めて提出する事になったのだ。

契約成立の場合は、私が直接料理の手順の説明と実践も担当する。だから態々、領都に足を運ばなくても、購入した当日に店での販売も可能になっている。

レシピを購入してくれれば、の話なんだけどね。



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