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ハドソン領 領都
初対面の人と相変わらず残念な人
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「また私の勝ちですね。」
「くっ。ティアナ嬢、もう一度だ!」
いや、このやり取り、もう十回目なんだけど。
今日はアターミまで同行してくれる家令補佐のアシュトンさんとの顔合わせを含め、契約内容の再確認、そしてケインさんに依頼していたリバーシなどを持ってハドソン伯爵邸に来ている。
カレー効果なのか、超特急で作ってくれた注文品はどれも満足のいく出来栄えで、リバーシの盤の側面など細かな部分で家具職人のケインさんの匠の技がさり気なく披露されていた。
リバーシについては携帯しやすい折り畳みタイプも依頼していて、こちらは平民でも気軽に購入出来るような安価な木材を使っていてシンプルな見た目になっている。
最初にリバーシを見せて遊び方の説明をした時に、『これは子どもの遊びだろう。』とちょっと馬鹿にしたような言い方をしたのは、例の如くバーナード様だった。
「バーナード様。そろそろ打ち合わせを再開しませんと、チャールズ様の仕事に差し支えます。」
テーブルの向かい側から前のめりになって再戦を挑んでくるバーナード様を嗜めるように声を掛けたのはアシュトンさんだった。
バーナード様の乳兄弟だと自己紹介で言っていたアシュトンさんは、スラリとした長身で肩より少し長めの黒い髪を後ろで一つに縛っているエリートサラリーマンの雰囲気のあるイケメンさんだ。
バーナード様より二つ上だというアシュトンさんは仕事柄なのか、薄く笑みを浮かべていながらも表情からは感情の読めないタイプの人だった。初めて対面した時以外は。
ハドソン伯爵の隣に立っていたアシュトンさんは、軽い自己紹介とともに挨拶をした私と目が合った瞬間、僅かに目を見開き、赤い瞳がほんの少し揺らいでいた気がする。
気のせいかな、と思うぐらいの一瞬の出来事で、その後は薄い笑みを浮かべてバーナード様の後ろに控えていた。
「うん、バーナード。リバーシは大人もハマるゲームだと証明出来たようで何よりだよ。」
「あっ、いえ、そのっ。」
クスクスと笑いながらハドソン伯爵に言われて、顔を真っ赤にしてしどろもどろになるバーナード様は、私だけでなくこの部屋に居た全員と対戦して負けている。
ハドソン伯爵やカーターさんは兎も角、まさか私には負ける筈はない、と油断していたのだろう。
バーナード様は、初対戦では私に盤面を真っ黒にされて絶句していた。そこから私と対戦し続けて、休憩時間はとっくに過ぎていたのだ。たぶんバーナード様の様子が可笑しくてハドソン伯爵も止めなかったのだと思う。
見ている分には面白かっただろうけれど、バーナード様はたぶん賭け事はやっちゃいけないタイプだと思うな。
打ち合わせが終わった後、なんちゃってトランプでババ抜きを皆でやった時も、表情が百面相状態でビリにならないように必死だったし、インディアンポーカーなんてバーナード様の顔が面白い事になりすぎていて、笑いを堪えるのが大変だった。
ケインさんに依頼して製作した物は開発費や玩具に合った材料を探すの面倒だったりしたので、『街道沿いの改革の依頼に含まれるから。』、とハドソン伯爵に譲渡する事にした。リバーシなんて絶対流行るだろうから、『考案者は誰?』とか注目されるのも嫌だったしね。
その結果、打ち合わせでは街道沿いの改革の資金をハドソン伯爵の個人資産で行うとなっていたけれど、領内の予算から出す事になり、リバーシなどの登録者名はハドソン領になった。そうすれば利益がレシピ販売の利益はハドソン領の資産となる。
出た利益は領内の他の場所の改革・改善の費用や将来的には私が提案した福祉などに使われる事になった。
福祉という言葉も仕組みもこの国には無いものだったらしい。大雑把な説明になったけれど、仕組みや内容については理解してくれたみたい。
別に大体的にやらなくても良い。立派な校舎や病院ではなくて、部屋数が二、三部屋で二、三十人ぐらいが学べる学校。
子どもが小さい内は診察料が無料になるとか、安い運賃でハドソン領内を循環してくれる乗り合い馬車だとか。領民の暮らしが良くなる、便利になる。
そういう物理的、精神的な支援や援助がリバーシなどの利益で領民の為に使われるなら、リバーシに関する利益が大きく見込まれようが、別に譲渡する事に何の躊躇いもない。
リバーシを含めて玩具の権利を簡単に渡してしまう私はバーナード様からすると商売をする人間の行いではないらしい。
私の気持ちをちゃんと言葉にしたのに、バーナード様の口から出てきた言葉はー。
『・・・君はやっぱりおかしい。』
バーナード様と私の相性って、本当に悪すぎない?
言った後で『しまった!』という表情になっていたので、バーナード様の言いたかった言葉は本当はもっと違うものだったのかもしれない。
でも、もし私だけでなく、他の誰にでもこんな言葉のチョイスしか出来ないのだったら、バーナード様の次期領主としての資質をマジで疑っちゃうよねぇ。
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
「くっ。ティアナ嬢、もう一度だ!」
いや、このやり取り、もう十回目なんだけど。
今日はアターミまで同行してくれる家令補佐のアシュトンさんとの顔合わせを含め、契約内容の再確認、そしてケインさんに依頼していたリバーシなどを持ってハドソン伯爵邸に来ている。
カレー効果なのか、超特急で作ってくれた注文品はどれも満足のいく出来栄えで、リバーシの盤の側面など細かな部分で家具職人のケインさんの匠の技がさり気なく披露されていた。
リバーシについては携帯しやすい折り畳みタイプも依頼していて、こちらは平民でも気軽に購入出来るような安価な木材を使っていてシンプルな見た目になっている。
最初にリバーシを見せて遊び方の説明をした時に、『これは子どもの遊びだろう。』とちょっと馬鹿にしたような言い方をしたのは、例の如くバーナード様だった。
「バーナード様。そろそろ打ち合わせを再開しませんと、チャールズ様の仕事に差し支えます。」
テーブルの向かい側から前のめりになって再戦を挑んでくるバーナード様を嗜めるように声を掛けたのはアシュトンさんだった。
バーナード様の乳兄弟だと自己紹介で言っていたアシュトンさんは、スラリとした長身で肩より少し長めの黒い髪を後ろで一つに縛っているエリートサラリーマンの雰囲気のあるイケメンさんだ。
バーナード様より二つ上だというアシュトンさんは仕事柄なのか、薄く笑みを浮かべていながらも表情からは感情の読めないタイプの人だった。初めて対面した時以外は。
ハドソン伯爵の隣に立っていたアシュトンさんは、軽い自己紹介とともに挨拶をした私と目が合った瞬間、僅かに目を見開き、赤い瞳がほんの少し揺らいでいた気がする。
気のせいかな、と思うぐらいの一瞬の出来事で、その後は薄い笑みを浮かべてバーナード様の後ろに控えていた。
「うん、バーナード。リバーシは大人もハマるゲームだと証明出来たようで何よりだよ。」
「あっ、いえ、そのっ。」
クスクスと笑いながらハドソン伯爵に言われて、顔を真っ赤にしてしどろもどろになるバーナード様は、私だけでなくこの部屋に居た全員と対戦して負けている。
ハドソン伯爵やカーターさんは兎も角、まさか私には負ける筈はない、と油断していたのだろう。
バーナード様は、初対戦では私に盤面を真っ黒にされて絶句していた。そこから私と対戦し続けて、休憩時間はとっくに過ぎていたのだ。たぶんバーナード様の様子が可笑しくてハドソン伯爵も止めなかったのだと思う。
見ている分には面白かっただろうけれど、バーナード様はたぶん賭け事はやっちゃいけないタイプだと思うな。
打ち合わせが終わった後、なんちゃってトランプでババ抜きを皆でやった時も、表情が百面相状態でビリにならないように必死だったし、インディアンポーカーなんてバーナード様の顔が面白い事になりすぎていて、笑いを堪えるのが大変だった。
ケインさんに依頼して製作した物は開発費や玩具に合った材料を探すの面倒だったりしたので、『街道沿いの改革の依頼に含まれるから。』、とハドソン伯爵に譲渡する事にした。リバーシなんて絶対流行るだろうから、『考案者は誰?』とか注目されるのも嫌だったしね。
その結果、打ち合わせでは街道沿いの改革の資金をハドソン伯爵の個人資産で行うとなっていたけれど、領内の予算から出す事になり、リバーシなどの登録者名はハドソン領になった。そうすれば利益がレシピ販売の利益はハドソン領の資産となる。
出た利益は領内の他の場所の改革・改善の費用や将来的には私が提案した福祉などに使われる事になった。
福祉という言葉も仕組みもこの国には無いものだったらしい。大雑把な説明になったけれど、仕組みや内容については理解してくれたみたい。
別に大体的にやらなくても良い。立派な校舎や病院ではなくて、部屋数が二、三部屋で二、三十人ぐらいが学べる学校。
子どもが小さい内は診察料が無料になるとか、安い運賃でハドソン領内を循環してくれる乗り合い馬車だとか。領民の暮らしが良くなる、便利になる。
そういう物理的、精神的な支援や援助がリバーシなどの利益で領民の為に使われるなら、リバーシに関する利益が大きく見込まれようが、別に譲渡する事に何の躊躇いもない。
リバーシを含めて玩具の権利を簡単に渡してしまう私はバーナード様からすると商売をする人間の行いではないらしい。
私の気持ちをちゃんと言葉にしたのに、バーナード様の口から出てきた言葉はー。
『・・・君はやっぱりおかしい。』
バーナード様と私の相性って、本当に悪すぎない?
言った後で『しまった!』という表情になっていたので、バーナード様の言いたかった言葉は本当はもっと違うものだったのかもしれない。
でも、もし私だけでなく、他の誰にでもこんな言葉のチョイスしか出来ないのだったら、バーナード様の次期領主としての資質をマジで疑っちゃうよねぇ。
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