上 下
271 / 288
ハドソン領 領都

初対面の人と相変わらず残念な人

しおりを挟む
「また私の勝ちですね。」

「くっ。ティアナ嬢、もう一度だ!」


いや、このやり取り、もう十回目なんだけど。

 今日はアターミまで同行してくれる家令補佐のアシュトンさんとの顔合わせを含め、契約内容の再確認、そしてケインさんに依頼していたリバーシなどを持ってハドソン伯爵邸に来ている。

 カレー効果なのか、超特急で作ってくれた注文品はどれも満足のいく出来栄えで、リバーシの盤の側面など細かな部分で家具職人のケインさんの匠の技がさり気なく披露されていた。

 リバーシについては携帯しやすい折り畳みタイプも依頼していて、こちらは平民でも気軽に購入出来るような安価な木材を使っていてシンプルな見た目になっている。

 最初にリバーシを見せて遊び方の説明をした時に、『これは子どもの遊びだろう。』とちょっと馬鹿にしたような言い方をしたのは、例の如くバーナード様だった。

「バーナード様。そろそろ打ち合わせを再開しませんと、チャールズ様の仕事に差し支えます。」

 テーブルの向かい側から前のめりになって再戦を挑んでくるバーナード様を嗜めるように声を掛けたのはアシュトンさんだった。

 バーナード様の乳兄弟だと自己紹介で言っていたアシュトンさんは、スラリとした長身で肩より少し長めの黒い髪を後ろで一つに縛っているエリートサラリーマンの雰囲気のあるイケメンさんだ。
バーナード様より二つ上だというアシュトンさんは仕事柄なのか、薄く笑みを浮かべていながらも表情からは感情の読めないタイプの人だった。初めて対面した時以外は。

 ハドソン伯爵の隣に立っていたアシュトンさんは、軽い自己紹介とともに挨拶をした私と目が合った瞬間、僅かに目を見開き、赤い瞳がほんの少し揺らいでいた気がする。
気のせいかな、と思うぐらいの一瞬の出来事で、その後は薄い笑みを浮かべてバーナード様の後ろに控えていた。


「うん、バーナード。リバーシはゲームだと証明出来たようで何よりだよ。」

「あっ、いえ、そのっ。」

 クスクスと笑いながらハドソン伯爵に言われて、顔を真っ赤にしてしどろもどろになるバーナード様は、私だけでなくこの部屋に居た全員と対戦して負けている。
 ハドソン伯爵やカーターさんは兎も角、まさか私には負ける筈はない、と油断していたのだろう。
バーナード様は、初対戦では私に盤面を真っ黒にされて絶句していた。そこから私と対戦し続けて、休憩時間はとっくに過ぎていたのだ。たぶんバーナード様の様子が可笑しくてハドソン伯爵も止めなかったのだと思う。

 見ている分には面白かっただろうけれど、バーナード様はたぶん賭け事はやっちゃいけないタイプだと思うな。
打ち合わせが終わった後、なんちゃってトランプでババ抜きを皆でやった時も、表情が百面相状態でビリにならないように必死だったし、インディアンポーカーなんてバーナード様の顔が面白い事になりすぎていて、笑いを堪えるのが大変だった。

 ケインさんに依頼して製作した物は開発費や玩具に合った材料を探すの面倒だったりしたので、『街道沿いの改革の依頼に含まれるから。』、とハドソン伯爵に譲渡する押し付ける事にした。リバーシなんて絶対流行るだろうから、『考案者は誰?』とか注目されるのも嫌だったしね。 

 その結果、打ち合わせでは街道沿いの改革の資金をハドソン伯爵の個人資産で行うとなっていたけれど、領内の予算から出す事になり、リバーシなどの登録者名はハドソン領になった。そうすれば利益がレシピ販売の利益はハドソン領の資産となる。
出た利益は領内の他の場所の改革・改善の費用や将来的には私が提案した福祉などに使われる事になった。

 福祉という言葉も仕組みもこの国には無いものだったらしい。大雑把な説明になったけれど、仕組みや内容については理解してくれたみたい。

 別に大体的にやらなくても良い。立派な校舎や病院ではなくて、部屋数が二、三部屋で二、三十人ぐらいが学べる学校。
子どもが小さい内は診察料が無料になるとか、安い運賃でハドソン領内を循環してくれる乗り合い馬車だとか。領民の暮らしが良くなる、便利になる。


 そういう物理的、精神的な支援や援助がリバーシなどの利益で領民の為に使われるなら、リバーシに関する利益が大きく見込まれようが、別に譲渡する事に何の躊躇いもない。


 リバーシを含めて玩具の権利を簡単に渡してしまう私はバーナード様からすると商売をする人間の行いではないらしい。
私の気持ちをちゃんと言葉にしたのに、バーナード様の口から出てきた言葉はー。


『・・・君はやっぱりおかしい。』


バーナード様と私の相性って、本当に悪すぎない?

言った後で『しまった!』という表情になっていたので、バーナード様の言いたかった言葉は本当はもっと違うものだったのかもしれない。

でも、もし私だけでなく、他の誰にでもこんな言葉のチョイスしか出来ないのだったら、バーナード様の次期領主としての資質をマジで疑っちゃうよねぇ。




ーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...