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ハドソン領 領都
もう一つの契約成立
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「本当にこの契約内容で良いのかしら?なんだか孤児院の方にばかり都合の良い内容のような気がするのだけれど。」
書類にサインをして羽ペンを置くと、ロナリー院長が遠慮がちにそう言った。
「そんな事は無いですよ。しっかりとエトリナ商会にも利があると考えての契約です。最初はクレア孤児院で屋台を出店して貰って、エトリナ商会がレシピを登録した料理を販売して欲しいと考えていました。
ですが、子どもたちはまだ技術家庭科を始めたばかりですし、販売経験もそれ程ありません。市場で屋台を出店するにしても子どもたち以外で大人の付き添いも必要になります。現状では人員の足りていない孤児院ではそれは難しいと判断しました。
そこで来月から復活させるクレア孤児院主催のバザーで、エトリナ商会の料理又はお菓子などを一品か二品、販売して貰う事を思い付いたんです。
それに子どもたちの希望があれば、卒院する際にエトリナ商会と専属契約をして領都で屋台を出して貰う事も考えています。勿論、条件などが合えば、ですが。」
クレア孤児院で過ごしている時にロナリー院長から、昔はこの孤児院でもバザーをしていた話を聞いた。
人員問題と、年々バザー用の寄付品が減った事と、孤児院でもバザーを企画・準備をする余裕が時間的にも人員的にも難しい為に廃止したそうだ。
先代の頃から孤児院の支援者が減り、バザーを手伝ってくれるような親しい知人・友人も居なかったかららしい。
その話を聞いて、技術家庭科や刺繍や裁縫を子どもたちが習い始めたし、孤児院運営の収入源にもなるのでバザーの復活を提案してみた。
ロナリー院長もバザーの廃止をひどく残念に思っていたらしい。話はトントン拍子に進み、来月からバザーが復活する事になったのだ。
バザーにはケインさんも積み木や縄跳びなどを出店する。その他にもケインさんの知り合いの野菜売りのお店も来てくれるらしい。
そしてこのバザーではカレーの販売もする。『幻の絶品料理』と、噂ばかりが先行してしまっているカレーは、先日、商業ギルドでレシピ申請をして登録したばかりだ。
だけどカレーは匂い問題がある。美味しい、と知っている者には食欲をそそる堪らない匂いかも知れないけれど、知らない者には異臭と感じるらしい。
辛うじて領都の調味料店でも手に入る事は確認したけれど、建物が密集した店などでは作る際に苦情が出る可能性もある。
レシピには作る際の注意事項として、匂いの事は明記したし、商業ギルドでも販売する前に確認を取るようにお願いしている。更に先行して冒険者ギルドと商業ギルド内の店で出して様子を見る事になったのだ。
昨日、商業ギルド内のお店で、両ギルドの料理店の料理人に実際に作り方を教えてきた。作り始めてから漂う匂いに眉を顰めていた料理人さんたちは、実際にカレーを食べるまでは『本当にこれが絶品料理なのか?』、と怪しんでいた。
まぁ、実食したら凄く納得してくれたから良かったけど。
「確かにこの匂いはカレーの知名度が上がらないと、領都の中心街では苦情が来そうですよね。高級料理店も多いですし。」
苦笑しながら料理人さんたちが言っていた。まぁ、カレーは庶民の味だよね。
両ギルドで販売を始めたら、どれぐらいの期間で認知されるかは分からない。でも数種類のスパイスを混ぜて作るカレーは、気軽に作るには難易度が高い可能性もある。
その為、商業ギルドの方にはレシピ購入者が現れたら、両ギルドのどちらかのお店で実際の作り方を見せて貰える様にお願いをした。どちらの料理人も許可を取っている。
そして現在、カレーの作り方をクレア孤児院は知っている。街からは少々離れているが、風向きにより匂いは街にも届く。
しかし、前回の異臭騒ぎで、匂いが届く範囲の人たちは、その匂いが『幻の絶品料理』だと知っている。カレーの匂いがしても苦情を言ってくるどころか、寧ろ食べに来る人が居るだろう。それを利用しない手はないよね。
だからバザーでカレーを出す事をロナリー院長に提案した。それが今回の契約に繋がった。
契約料はエトリナ商会の料理一品に付き、銀貨十枚の報酬。食材は自己負担になるが、売上金は全て孤児院のものとなる。
原則、エトリナ商会側から販売して欲しい料理を依頼するが、クレア孤児院からの要望も受ける。
レシピについては、エトリナ商会側からの依頼の場合は購入代金は不要だが、一回のみでなく、孤児院が継続して販売する場合はレシピを購入してもらう。
エトリナ商会が依頼した料理で、調達が難しい、又は高価な調味料は商会側が事前に用意し代金も商会負担とする。
契約内容には、そういった取り決めをした。
そして一回目のバザーでカレーとククリクッキーを販売が決定している。
ククリクッキーについては、クレア孤児院の定期的収入になる様に、クレア孤児院として商業ギルドでレシピを購入する事になった。クッキーはバザーじゃなくてもどこかのお店に委託販売をしても良いからね。
カレーについては、中辛、子ども向けの二種類を販売する予定で、スパイスを事前に混ぜ合わせて、カレー粉みたいにしたものを孤児院に渡した。孤児院にはそれ以外の食材を用意して貰う事にした。いずれはカレー粉の形で一般販売してもいいかも知れないね。
スパイスについては、エリックさんにも連絡を取っていて、カレーの材料となるスパイス数種類を追加注文をした。スパイスの送り先はイケアのピレネー子爵家別邸、ラリーさん宛で。
この前、ピレネー子爵家に積み木と縄跳びを送った時のお礼の手紙をロイドさんから受け取った。その時にピレネー子爵家別邸にエトリナ商会の拠点となる事務所を作った、と事後報告で知った。
手紙を読んだ時に思ったよね。
エトリナ商会の事務所の件、初耳なんですけど!?
ーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
書類にサインをして羽ペンを置くと、ロナリー院長が遠慮がちにそう言った。
「そんな事は無いですよ。しっかりとエトリナ商会にも利があると考えての契約です。最初はクレア孤児院で屋台を出店して貰って、エトリナ商会がレシピを登録した料理を販売して欲しいと考えていました。
ですが、子どもたちはまだ技術家庭科を始めたばかりですし、販売経験もそれ程ありません。市場で屋台を出店するにしても子どもたち以外で大人の付き添いも必要になります。現状では人員の足りていない孤児院ではそれは難しいと判断しました。
そこで来月から復活させるクレア孤児院主催のバザーで、エトリナ商会の料理又はお菓子などを一品か二品、販売して貰う事を思い付いたんです。
それに子どもたちの希望があれば、卒院する際にエトリナ商会と専属契約をして領都で屋台を出して貰う事も考えています。勿論、条件などが合えば、ですが。」
クレア孤児院で過ごしている時にロナリー院長から、昔はこの孤児院でもバザーをしていた話を聞いた。
人員問題と、年々バザー用の寄付品が減った事と、孤児院でもバザーを企画・準備をする余裕が時間的にも人員的にも難しい為に廃止したそうだ。
先代の頃から孤児院の支援者が減り、バザーを手伝ってくれるような親しい知人・友人も居なかったかららしい。
その話を聞いて、技術家庭科や刺繍や裁縫を子どもたちが習い始めたし、孤児院運営の収入源にもなるのでバザーの復活を提案してみた。
ロナリー院長もバザーの廃止をひどく残念に思っていたらしい。話はトントン拍子に進み、来月からバザーが復活する事になったのだ。
バザーにはケインさんも積み木や縄跳びなどを出店する。その他にもケインさんの知り合いの野菜売りのお店も来てくれるらしい。
そしてこのバザーではカレーの販売もする。『幻の絶品料理』と、噂ばかりが先行してしまっているカレーは、先日、商業ギルドでレシピ申請をして登録したばかりだ。
だけどカレーは匂い問題がある。美味しい、と知っている者には食欲をそそる堪らない匂いかも知れないけれど、知らない者には異臭と感じるらしい。
辛うじて領都の調味料店でも手に入る事は確認したけれど、建物が密集した店などでは作る際に苦情が出る可能性もある。
レシピには作る際の注意事項として、匂いの事は明記したし、商業ギルドでも販売する前に確認を取るようにお願いしている。更に先行して冒険者ギルドと商業ギルド内の店で出して様子を見る事になったのだ。
昨日、商業ギルド内のお店で、両ギルドの料理店の料理人に実際に作り方を教えてきた。作り始めてから漂う匂いに眉を顰めていた料理人さんたちは、実際にカレーを食べるまでは『本当にこれが絶品料理なのか?』、と怪しんでいた。
まぁ、実食したら凄く納得してくれたから良かったけど。
「確かにこの匂いはカレーの知名度が上がらないと、領都の中心街では苦情が来そうですよね。高級料理店も多いですし。」
苦笑しながら料理人さんたちが言っていた。まぁ、カレーは庶民の味だよね。
両ギルドで販売を始めたら、どれぐらいの期間で認知されるかは分からない。でも数種類のスパイスを混ぜて作るカレーは、気軽に作るには難易度が高い可能性もある。
その為、商業ギルドの方にはレシピ購入者が現れたら、両ギルドのどちらかのお店で実際の作り方を見せて貰える様にお願いをした。どちらの料理人も許可を取っている。
そして現在、カレーの作り方をクレア孤児院は知っている。街からは少々離れているが、風向きにより匂いは街にも届く。
しかし、前回の異臭騒ぎで、匂いが届く範囲の人たちは、その匂いが『幻の絶品料理』だと知っている。カレーの匂いがしても苦情を言ってくるどころか、寧ろ食べに来る人が居るだろう。それを利用しない手はないよね。
だからバザーでカレーを出す事をロナリー院長に提案した。それが今回の契約に繋がった。
契約料はエトリナ商会の料理一品に付き、銀貨十枚の報酬。食材は自己負担になるが、売上金は全て孤児院のものとなる。
原則、エトリナ商会側から販売して欲しい料理を依頼するが、クレア孤児院からの要望も受ける。
レシピについては、エトリナ商会側からの依頼の場合は購入代金は不要だが、一回のみでなく、孤児院が継続して販売する場合はレシピを購入してもらう。
エトリナ商会が依頼した料理で、調達が難しい、又は高価な調味料は商会側が事前に用意し代金も商会負担とする。
契約内容には、そういった取り決めをした。
そして一回目のバザーでカレーとククリクッキーを販売が決定している。
ククリクッキーについては、クレア孤児院の定期的収入になる様に、クレア孤児院として商業ギルドでレシピを購入する事になった。クッキーはバザーじゃなくてもどこかのお店に委託販売をしても良いからね。
カレーについては、中辛、子ども向けの二種類を販売する予定で、スパイスを事前に混ぜ合わせて、カレー粉みたいにしたものを孤児院に渡した。孤児院にはそれ以外の食材を用意して貰う事にした。いずれはカレー粉の形で一般販売してもいいかも知れないね。
スパイスについては、エリックさんにも連絡を取っていて、カレーの材料となるスパイス数種類を追加注文をした。スパイスの送り先はイケアのピレネー子爵家別邸、ラリーさん宛で。
この前、ピレネー子爵家に積み木と縄跳びを送った時のお礼の手紙をロイドさんから受け取った。その時にピレネー子爵家別邸にエトリナ商会の拠点となる事務所を作った、と事後報告で知った。
手紙を読んだ時に思ったよね。
エトリナ商会の事務所の件、初耳なんですけど!?
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