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ハドソン領 領都
" 可哀想 "という感情(気持ち)に思うこと
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「わたくしはそんなつもりは、、、。」
思ってもみなかった私の言葉に驚いて肯定も否定の言葉も出てこないロナリー院長は本当に無自覚だったのだと思う。
「勿論、ロナリー院長がそう思っていたとしても、そういう目で子どもたちを見ていたわけではない、と理解してます。無意識に気持ちが出てしまっていたのでしょう。」
「ティアナさん、あなたがどうしてそう思うのか私には分からないわ。確かにあの子たちは色々な事情でここに来た親のいない子どもたちです。心の中で可哀想だと思ってしまうのは仕方のない事だと思うの。
だってあの子たちは当たり前に受け取れる筈だった親の愛情を得られないのよ?
だからといって、わたくしは本当にそういう目で子どもたちを見ていたつもりはないわ。」
ロナリー院長の言葉に嘘は無いのだろう。だけど一度" 可哀想 "だと思ってしまった気持ちを無くすのは難しい。
そしてロナリー院長がこのクレア孤児院を引き受ける動機の中にその気持ちがあったからこそ、このクレア孤児院は今も存続している。だから" 可哀想 "だと思ってしまった事が決して悪いというつもりもない。それを子どもたちに悟らせないならば、の話だけれど。
だって人が心の奥底で感じる感情はコントロール出来ない本音だから。その感情に気付いても、気付いていなくても人は理性で感情をコントロールしようとする。それでも無意識でその感情が表に出てしまう時もあるのだ。
無意識に出てしまう感情は、確かに本人が意図していた事ではないから仕方のない事ではあるんだよね。
「ロナリー院長はとてもお優しい方だと思います。クレア孤児院を存続させる為に、私財を投げうってまで引き受けたのですから。これは誰にでも出来る事ではありません。素晴らしい事だと思います。
でも、親がいない事が必ずしも可哀想な事ではないんですよ。」
「ティアナさん、あなた何を言っているの?親がいない事が不幸ではなく、良かった事があるとでも言うつもりなのかしら?
そんな気持ちであなたは子どもたちと接していた、と?」
少しだけ怒りを滲ませた声で、私を咎めるような表情になるロナリー院長は本当に良い人だ。だからこそちゃんと子どもたちと向き合って欲しいと思う。
「私は、あなたたちは可哀想な子どもではない、という気持ちで接していました。だってそうでしょう?
あの子たちは確かに親はいませんが、今はこのクレア孤児院で育てられているんです。明日も明後日も、この孤児院を出るまでずっと守られて育つのですよ?
それのどこに" 可哀想 "な要素が?」
今の状態で勉強も生きる術も、心構えも教わらずに、十六歳になったらいきなり外の世界へと放り出されてしまうのは、可哀想と言えなくもないけど、取り敢えずその問題は端に置いておこう。
「それは確かにそうかもしれないわ。けれど、あの子たちに親がいない事も事実でしょう?
あの子たちは子どものうちに、自分を庇護し愛してくれる存在を失っているのよ?」
「ロナリー院長。
親がいれば、子どもは幸せですか?
親がいるなら、子どもは可哀想ではないと言い切れるのですか?」
「当たり前でしょう?だって親が傍にいてくれるのなら、愛され守られ幸せな毎日を送る事が出来るのですもの。子どもにとってそれこそが一番の幸せな環境だと思うわ。」
ロナリー院長は恵まれた環境に育った、という事が分かる言葉だよね。とても幸せな事だと思う。
でもね。
「私はこの孤児院に居る子どもたちが、どのような理由でここに来たのかは知りません。
両親との死別や経済的事情から養育が困難になってここに預けられたとか、大抵の子どもは親又はその親族がやむを得ず孤児院に預けたのでしょう。
それを第三者から見たら" 可哀想 "や" 不幸せ "な事だと思ってしまう気持ちも理解出来ます。
ですが、世の中には親元に居るからこそ、可哀想な目に遭ったり不幸せな日々を送る子どもたちもいます。
もしかしたらこのクレア孤児院の子どもたちの中にも、ここに来た事で救われた子どもも居るかもしれませんよ?」
「あなたが勝手にそう思うのは個人の考えですからわたくしも否定はしません。ですが、それと私が子どもたちを可哀想という気持ちで見ていた、というのはあなたの思い込みであって事実ではありませんわ。」
流石のロナリー院長もいつものような笑顔が消えて不機嫌そうな表情になっている。
確かに私が勝手にそう感じただけ、と言われればその通りなんだよね。だってロナリー院長は無自覚だったんだから。
だけどわたしはその目で何度も見られた事があるんだよ。
「確かに私がその目を知っている、という思い込みから言っているだけかも知れません。
でも私は親のいない子、親に捨てられた子たちが、可哀想と言われる事、そういう目で見られる事をどう思うかを知っています。
大抵の子どもは、『可哀想』と言われる事を受け入れません。受け入れるとそれは呪いの言葉のように心を縛られてしまうんですよ。」
「の、呪いだなんてっ!それこそ思い込みがすぎますわ。勝手な憶測でそんな事まで仰るなんて、あなたは何の目的があってそんな事を言うのかしら?
一体、私にどうして欲しいの?」
" 呪い "なんて言い方はちょっと言い過ぎたかもなぁ。でも私が気付いたように、ロナリー院長が、" 可哀想な子どもたち"という目で見る事があるのに気付いていた子もいると思う。
だってそういう目で見られたくない子は、そういう態度や視線にとても敏感だから。
私もそうだった。だって私は" 母親に捨てられた可哀想な子 "だなんて、自分をそう思った事はない。
「ロナリー院長。ロナリー院長から見て、私は" 可哀想な子 "に見えますか?」
ーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
思ってもみなかった私の言葉に驚いて肯定も否定の言葉も出てこないロナリー院長は本当に無自覚だったのだと思う。
「勿論、ロナリー院長がそう思っていたとしても、そういう目で子どもたちを見ていたわけではない、と理解してます。無意識に気持ちが出てしまっていたのでしょう。」
「ティアナさん、あなたがどうしてそう思うのか私には分からないわ。確かにあの子たちは色々な事情でここに来た親のいない子どもたちです。心の中で可哀想だと思ってしまうのは仕方のない事だと思うの。
だってあの子たちは当たり前に受け取れる筈だった親の愛情を得られないのよ?
だからといって、わたくしは本当にそういう目で子どもたちを見ていたつもりはないわ。」
ロナリー院長の言葉に嘘は無いのだろう。だけど一度" 可哀想 "だと思ってしまった気持ちを無くすのは難しい。
そしてロナリー院長がこのクレア孤児院を引き受ける動機の中にその気持ちがあったからこそ、このクレア孤児院は今も存続している。だから" 可哀想 "だと思ってしまった事が決して悪いというつもりもない。それを子どもたちに悟らせないならば、の話だけれど。
だって人が心の奥底で感じる感情はコントロール出来ない本音だから。その感情に気付いても、気付いていなくても人は理性で感情をコントロールしようとする。それでも無意識でその感情が表に出てしまう時もあるのだ。
無意識に出てしまう感情は、確かに本人が意図していた事ではないから仕方のない事ではあるんだよね。
「ロナリー院長はとてもお優しい方だと思います。クレア孤児院を存続させる為に、私財を投げうってまで引き受けたのですから。これは誰にでも出来る事ではありません。素晴らしい事だと思います。
でも、親がいない事が必ずしも可哀想な事ではないんですよ。」
「ティアナさん、あなた何を言っているの?親がいない事が不幸ではなく、良かった事があるとでも言うつもりなのかしら?
そんな気持ちであなたは子どもたちと接していた、と?」
少しだけ怒りを滲ませた声で、私を咎めるような表情になるロナリー院長は本当に良い人だ。だからこそちゃんと子どもたちと向き合って欲しいと思う。
「私は、あなたたちは可哀想な子どもではない、という気持ちで接していました。だってそうでしょう?
あの子たちは確かに親はいませんが、今はこのクレア孤児院で育てられているんです。明日も明後日も、この孤児院を出るまでずっと守られて育つのですよ?
それのどこに" 可哀想 "な要素が?」
今の状態で勉強も生きる術も、心構えも教わらずに、十六歳になったらいきなり外の世界へと放り出されてしまうのは、可哀想と言えなくもないけど、取り敢えずその問題は端に置いておこう。
「それは確かにそうかもしれないわ。けれど、あの子たちに親がいない事も事実でしょう?
あの子たちは子どものうちに、自分を庇護し愛してくれる存在を失っているのよ?」
「ロナリー院長。
親がいれば、子どもは幸せですか?
親がいるなら、子どもは可哀想ではないと言い切れるのですか?」
「当たり前でしょう?だって親が傍にいてくれるのなら、愛され守られ幸せな毎日を送る事が出来るのですもの。子どもにとってそれこそが一番の幸せな環境だと思うわ。」
ロナリー院長は恵まれた環境に育った、という事が分かる言葉だよね。とても幸せな事だと思う。
でもね。
「私はこの孤児院に居る子どもたちが、どのような理由でここに来たのかは知りません。
両親との死別や経済的事情から養育が困難になってここに預けられたとか、大抵の子どもは親又はその親族がやむを得ず孤児院に預けたのでしょう。
それを第三者から見たら" 可哀想 "や" 不幸せ "な事だと思ってしまう気持ちも理解出来ます。
ですが、世の中には親元に居るからこそ、可哀想な目に遭ったり不幸せな日々を送る子どもたちもいます。
もしかしたらこのクレア孤児院の子どもたちの中にも、ここに来た事で救われた子どもも居るかもしれませんよ?」
「あなたが勝手にそう思うのは個人の考えですからわたくしも否定はしません。ですが、それと私が子どもたちを可哀想という気持ちで見ていた、というのはあなたの思い込みであって事実ではありませんわ。」
流石のロナリー院長もいつものような笑顔が消えて不機嫌そうな表情になっている。
確かに私が勝手にそう感じただけ、と言われればその通りなんだよね。だってロナリー院長は無自覚だったんだから。
だけどわたしはその目で何度も見られた事があるんだよ。
「確かに私がその目を知っている、という思い込みから言っているだけかも知れません。
でも私は親のいない子、親に捨てられた子たちが、可哀想と言われる事、そういう目で見られる事をどう思うかを知っています。
大抵の子どもは、『可哀想』と言われる事を受け入れません。受け入れるとそれは呪いの言葉のように心を縛られてしまうんですよ。」
「の、呪いだなんてっ!それこそ思い込みがすぎますわ。勝手な憶測でそんな事まで仰るなんて、あなたは何の目的があってそんな事を言うのかしら?
一体、私にどうして欲しいの?」
" 呪い "なんて言い方はちょっと言い過ぎたかもなぁ。でも私が気付いたように、ロナリー院長が、" 可哀想な子どもたち"という目で見る事があるのに気付いていた子もいると思う。
だってそういう目で見られたくない子は、そういう態度や視線にとても敏感だから。
私もそうだった。だって私は" 母親に捨てられた可哀想な子 "だなんて、自分をそう思った事はない。
「ロナリー院長。ロナリー院長から見て、私は" 可哀想な子 "に見えますか?」
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