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ハドソン領 領都
ティアナの記憶と空(から)の魔石
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「それじゃ、ジョー先生、いやジョスター・ハイド氏を探し出して欲しい、というのがティアナのお願いという事かい?」
ハドソン伯爵にそう聞かれて私は大きく頷いた。そして伯爵たちに話した内容をもう一度思い出して、記憶の中のジョー先生の姿を頭の中で思い浮かべた。
小さな私と同じ目線まで腰を下ろして、自らを『ジョー先生と呼んで欲しい。』と挨拶した人は、茶色いの髪を後ろで一つに縛り、丸い眼鏡をかけて翠の瞳をしている優しげなおじさんに見えた。
歳は幾つぐらいだったのだろう。あの当時のお母様よりも十以上は年上に見えたけれど。
「はい。私の前では" ジョー先生 "と名乗っていて、母も普段はそう呼んでいましたが、一度だけ『ジョスター先生』と呼んだ事がありました。
私費で出版された本が家にあったのも著者本人から直接頂いた物だったのでは、と思います。」
「たぶん、になるが、ハイド医師が君のところに来た経緯に心当たりがある。だから探し出す事は可能だろう。
それで、その医師にクレア孤児院の子ども診てもらうという話なのかい?」
やっぱり伯爵は私が" 魔力過多 "と診断されていたのを知っていたんだ。お母様から医師を紹介して欲しい、と相談されていたとか?
「それもあるのですが、実は私を治療する際にジョー先生は特別な事はしていないんです。」
「それはおかしいだろう!だって君はその医師に診てもらったお陰で完治したと言っていなかったか?」
そう言ったけどさぁ。バーナード様はもうずっと喋らずに、最後まで大人しく聞いてくれないかなぁ。私に対してちょっと語気が強めなのがねぇ。
「それはそうですが、ジョー先生の治療では、" 魔力量過多 "用の薬を処方してくれたとか、特別な治療を受けたとかではないんです。
先生は毎日のように離れを訪れて、脈拍や心音の確認をして、熱冷ましや体の負担を減らすようなその時の体調にあった薬を出してくれる丁寧に診療をしてくれる先生でした。他の医師たちと違った診療内容は一つだけ。
でもそれはその時の私には治療とは思えないものでした。母は何かに気付いていたかもしれません。若しくは、前もってジョー先生から説明されていたかもしれませんが。」
「治療とは思えない、というと?」
◇ ◇ ◇
『よし、ティアナちゃん。腕を出して。
あぁ、もうこんなになって。ティアナちゃんは本当に魔力量が多いねぇ。
さぁ、新しい物に交換しよう。』
『せんせぇ、コレ、ふしぎだねぇ。』
『そうだね。でもコレはティアナちゃんの体を守ってくれる御守りみたいな物なんだ。役目が終わるとこんな風になるんだ。そうしたら交換しないといけなんだ。』
◇ ◇ ◇
小さなティアナと優しいジョー先生とで何度か繰り返した会話を思い出しながら口を開く。
「他の医師がしなかった事で、ジョー先生の治療でしていた事。
それはコレをブレスレットにしたものをいつも身につけていた事です。」
私はそう言って鞄の中から出したそれをテーブルの上へと出した。
「これは、、、空の魔石、かな?」
テーブルの上に幾つか置いたのは、白っぽく濁ったような石。真っ白ではなく、かと言って透明でもない石は加工されて、サイズは違うけれどどれも同じ形をしている。
「はい。生活魔道具に使われていた空の魔石を持ってきました。
魔石を使った魔道具は身近なものなのに、つい先日、私は空の魔石を初めて見ました。」
身近に使われている生活魔道具は、魔石に含まれる魔力をエネルギーとして使われる物が多い。当然、魔石に含まれている魔力も有限で魔力の量は魔石の大きさに比例する。
そして魔石の色は、含まれる魔力の属性によって異なる。火属性なら赤色、水属性なら青色、というように。そして魔力が無くなれば魔石の色も無くなる事は知識では知っていた。
魔力が空になれば、魔具は使えなくなるので魔石の交換が必要になるけど、その交換を貴族の家では貴族自身が行う事は殆ど無い。
だから知識では知っていても空の魔石を実際に見る機会は少ないんじゃないかな。身分の高い人になればなるほど。
ティアナはコスト侯爵家で使用人のような扱いを受けていたけれど、魔石の交換はした事が無かった。借金を抱える侯爵家で生活魔道具が使われている部屋は限られていたし、魔石の管理は家令のアーノルドが管理し交換していた筈だ。
今思えば、アーノルド、魔石をチョロまかしていたんじゃないかなぁ。
だって家令自らが生活魔道具の魔石の点検なんてする?魔石の中の魔力が空になる手前で交換して、自分で使うか、売って自分の小遣いにでもしてたんじゃないかな?
だからこそ私は空の魔石を見た覚えが無かったのだと思う。
ニ、三日前、クレア孤児院でミリーさんが魔石の交換をしているところに居合わせて、初めて空の魔石を目にした。
そして手に取って空の魔石を以前にも見た事があったのを思い出したんだよ。
ジョー先生の治療を受けている間、私はいつも腕に白い石のブレスレットをしていた。最初は両腕に、そして何日かするとジョー先生が新しいブレスレットに交換していた事をね。
不思議なことに、交換する際には白いブレスレットは青色か緑色になっていた。それをジョー先生は『御守りの役目が終わったから。』と言っていた。
もしかしてあの白いブレスレットが空の魔石だったのでは?と気付くと、ジョー先生の言葉に疑問が出てきた。
本当にブレスレットは御守りだったのだろうか?、と。
「私はこの空の魔石のお陰で" 魔力量過多 "が治ったのだと思っています。ですが、それは私の推測でしかありません。
だからジョー先生を探し出して確認をして欲しいんです。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もありがとうございます。
ハドソン伯爵にそう聞かれて私は大きく頷いた。そして伯爵たちに話した内容をもう一度思い出して、記憶の中のジョー先生の姿を頭の中で思い浮かべた。
小さな私と同じ目線まで腰を下ろして、自らを『ジョー先生と呼んで欲しい。』と挨拶した人は、茶色いの髪を後ろで一つに縛り、丸い眼鏡をかけて翠の瞳をしている優しげなおじさんに見えた。
歳は幾つぐらいだったのだろう。あの当時のお母様よりも十以上は年上に見えたけれど。
「はい。私の前では" ジョー先生 "と名乗っていて、母も普段はそう呼んでいましたが、一度だけ『ジョスター先生』と呼んだ事がありました。
私費で出版された本が家にあったのも著者本人から直接頂いた物だったのでは、と思います。」
「たぶん、になるが、ハイド医師が君のところに来た経緯に心当たりがある。だから探し出す事は可能だろう。
それで、その医師にクレア孤児院の子ども診てもらうという話なのかい?」
やっぱり伯爵は私が" 魔力過多 "と診断されていたのを知っていたんだ。お母様から医師を紹介して欲しい、と相談されていたとか?
「それもあるのですが、実は私を治療する際にジョー先生は特別な事はしていないんです。」
「それはおかしいだろう!だって君はその医師に診てもらったお陰で完治したと言っていなかったか?」
そう言ったけどさぁ。バーナード様はもうずっと喋らずに、最後まで大人しく聞いてくれないかなぁ。私に対してちょっと語気が強めなのがねぇ。
「それはそうですが、ジョー先生の治療では、" 魔力量過多 "用の薬を処方してくれたとか、特別な治療を受けたとかではないんです。
先生は毎日のように離れを訪れて、脈拍や心音の確認をして、熱冷ましや体の負担を減らすようなその時の体調にあった薬を出してくれる丁寧に診療をしてくれる先生でした。他の医師たちと違った診療内容は一つだけ。
でもそれはその時の私には治療とは思えないものでした。母は何かに気付いていたかもしれません。若しくは、前もってジョー先生から説明されていたかもしれませんが。」
「治療とは思えない、というと?」
◇ ◇ ◇
『よし、ティアナちゃん。腕を出して。
あぁ、もうこんなになって。ティアナちゃんは本当に魔力量が多いねぇ。
さぁ、新しい物に交換しよう。』
『せんせぇ、コレ、ふしぎだねぇ。』
『そうだね。でもコレはティアナちゃんの体を守ってくれる御守りみたいな物なんだ。役目が終わるとこんな風になるんだ。そうしたら交換しないといけなんだ。』
◇ ◇ ◇
小さなティアナと優しいジョー先生とで何度か繰り返した会話を思い出しながら口を開く。
「他の医師がしなかった事で、ジョー先生の治療でしていた事。
それはコレをブレスレットにしたものをいつも身につけていた事です。」
私はそう言って鞄の中から出したそれをテーブルの上へと出した。
「これは、、、空の魔石、かな?」
テーブルの上に幾つか置いたのは、白っぽく濁ったような石。真っ白ではなく、かと言って透明でもない石は加工されて、サイズは違うけれどどれも同じ形をしている。
「はい。生活魔道具に使われていた空の魔石を持ってきました。
魔石を使った魔道具は身近なものなのに、つい先日、私は空の魔石を初めて見ました。」
身近に使われている生活魔道具は、魔石に含まれる魔力をエネルギーとして使われる物が多い。当然、魔石に含まれている魔力も有限で魔力の量は魔石の大きさに比例する。
そして魔石の色は、含まれる魔力の属性によって異なる。火属性なら赤色、水属性なら青色、というように。そして魔力が無くなれば魔石の色も無くなる事は知識では知っていた。
魔力が空になれば、魔具は使えなくなるので魔石の交換が必要になるけど、その交換を貴族の家では貴族自身が行う事は殆ど無い。
だから知識では知っていても空の魔石を実際に見る機会は少ないんじゃないかな。身分の高い人になればなるほど。
ティアナはコスト侯爵家で使用人のような扱いを受けていたけれど、魔石の交換はした事が無かった。借金を抱える侯爵家で生活魔道具が使われている部屋は限られていたし、魔石の管理は家令のアーノルドが管理し交換していた筈だ。
今思えば、アーノルド、魔石をチョロまかしていたんじゃないかなぁ。
だって家令自らが生活魔道具の魔石の点検なんてする?魔石の中の魔力が空になる手前で交換して、自分で使うか、売って自分の小遣いにでもしてたんじゃないかな?
だからこそ私は空の魔石を見た覚えが無かったのだと思う。
ニ、三日前、クレア孤児院でミリーさんが魔石の交換をしているところに居合わせて、初めて空の魔石を目にした。
そして手に取って空の魔石を以前にも見た事があったのを思い出したんだよ。
ジョー先生の治療を受けている間、私はいつも腕に白い石のブレスレットをしていた。最初は両腕に、そして何日かするとジョー先生が新しいブレスレットに交換していた事をね。
不思議なことに、交換する際には白いブレスレットは青色か緑色になっていた。それをジョー先生は『御守りの役目が終わったから。』と言っていた。
もしかしてあの白いブレスレットが空の魔石だったのでは?と気付くと、ジョー先生の言葉に疑問が出てきた。
本当にブレスレットは御守りだったのだろうか?、と。
「私はこの空の魔石のお陰で" 魔力量過多 "が治ったのだと思っています。ですが、それは私の推測でしかありません。
だからジョー先生を探し出して確認をして欲しいんです。」
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