226 / 329
ハドソン領 領都
もう一つの問題
しおりを挟む
まだ塞がっていなかったらしいクリスの心の傷?を抉ってしまったのは申し訳なかったけれど、魔法付きの誓約書を使用人たちにサインさせたかったのだから許して欲しい。
ふと視線を感じて前を向くと、ハドソン伯爵もバーナード様も私の方を気遣わしげな目で見ていた。
あ、またやらかしちゃった?
ついクリスの方に気を取られてしまったけれど、よくよく思い出してみれば、誘拐事件はロイドさんたちの配慮で公にはなって無かったんだった。
誘拐した人が悪い人じゃなかった事と、救出が早かった事で私は無事だった。
まぁ、前世の事を思い出しちゃったりして精神的には色々とキツい部分はあったけれど。
それでも若い女性が誘拐されるというのは、無事であってもそれだけで傷モノ認定されてしまうらしいんだよね。
「あ、攫われかけた、というだけで、もう全然、本当に大丈夫だったんで。
本当に本当に平気だったんですよ?」
慌てて言ってみたけれど、何のフォローにも説明にもなってないね。ちょっと自分でも酷いレベルだと思う。
だって爽やかハドソン伯爵の眉間に皺が寄ったままだもん。バーナード様でさえ、『何か声を掛けた方が良いのか?』、みたいな表情になっているぐらい。
「分かった!誓約魔法付きの誓約書に署名させよう!
なに、それ以外に重い罰が無いと聞けば、ホイホイと署名をする奴はそれなりにいるだろうから問題ない。」
それはちょっと、、、ハドソン伯爵家の使用人の質に問題があり過ぎない?
ジョセフさんがショックを受けたような顔をしているよ。 伯爵家に相応しい者をキチンと人選したつもりだったんだろうからねぇ。
「今日明日にでも署名させるとして、養蚕事業についてはこれぐらいしかまだ決まってないんだ。
三週間後に絹糸作り要員の国の者がハドソン領に来る事になっているが、それまでに準備の為にログワ村に行く予定なんだ。」
ハドソン伯爵の言葉に今度は私がビクリと肩を揺らした。
私は、、、もう行かなくてもいいよね?
「本当はティアナにももう一度行って貰いたいんだけれどね。養蚕の件もそうだけど、クワーの実のレシピを村の女性たちに教えてあげて欲しいが難しいかな?」
「無理です。」
「うわっ、即答だ。やっぱりアレの問題で?」
ハドソン伯爵は前回一緒に行って私の様子見ているからね。
思い出し笑いをしているような感じがちょっとイラッとしてしまうけれど、分かっていて何度もあの地に行く勇気は私にはないな。
「クワーの実に関してはそんなに難しいものではないんです。ジャムやジュースは他の果物で作っている所もあると思いますよ。
一度、レシピとして登録されているかどうかを確認してみて下さい。
あ、ドライフルーツもそうかも。
ログワ村に行かれる前に、見本のような形で他の果物で作った物とレシピをお渡しします。」
ジャム、ジュース(シロップ)、ドライフルーツは、他の果物でも作っていそうだからねぇ。
単にクワーの実が今まで使われていなかっただけだと思う。果実酒は作られていたからね。
やはり砂糖を気軽に大量に使える環境かどうかで、" 作る、作らない "というのがあるのだと思う。
「そうなのかい?後で調べさせるよ。
ティアナたちはもう少ししたら次の街へ行くつもりなんだよね?
でもあと一月ぐらいはこの地に留まって欲しいなぁ。」
最初の話ではそう言っていたんだよねぇ。
養蚕事業の具体的な話はこれ以上は聞かされても私にはどうしようもないけれど、もう一つ、もう少しこの地に留まる理由が出来てしまった。
「あの、その事なんですが、少し状況が変わりまして。
養蚕事業についてはここから先は私は立ち入らない方が良い思うので、意見を求められたら答えるぐらいしか出来ないと思います。
ただ、実はもう一つ、新たにお話したい案件が出てきてしまいまして、、、。
私がお世話になっているクレア孤児院から、ハドソン伯爵様宛に手紙が来ていると思います。
バーナード様か伯爵様はもうお読みになっているでしょうか?」
伯爵はまだ領地に戻って来たばかりだから、もしかしたらまだ目を通していない可能性があると思う。たぶん重要案件だとは認識されていないと思うし。
「直ぐには判断が必要なものには昨夜の内に目を通したが、クレア孤児院からの手紙はまだ見ていないな。バーナードは?」
少し思案するような仕草になった後、伯爵は隣のバーナード様を見た。
「領内から届いた陳情書は確認して重要度の高い案件のみ、叔父上が戻られたら直ぐに確認出来るように資料とともに纏めておきました。その中にはクレア孤児院のものは無かったかと。
手紙というからには大した内容では無かったのでしょう。」
確かに陳情書のような文章で送ってはいないけれど、手紙だから重要ではないと判断するなんて次期伯爵としてどうなのよ。内容も覚えていないのかな?
「これが手紙と同じ内容のものです。伯爵様、是非ここでお読み下さい。」
私は鞄から手紙を出して伯爵が座る目の前のテーブルに置いた。
伯爵までまだ届いていないのを見越して、同じ内容の手紙をもう一通用意していた事にバーナード様は少し不快そうな顔をしていたけれど、実際に届いていないのだから仕方がないじゃん。
重要度も緊急度も無いと判断された手紙を伯爵が読むのを待っていたら、いつになるのか分からないから用意してあったんだよ?
その意味を理解している?
「魔力量過多、、、これはっ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もありがとうございます。
ふと視線を感じて前を向くと、ハドソン伯爵もバーナード様も私の方を気遣わしげな目で見ていた。
あ、またやらかしちゃった?
ついクリスの方に気を取られてしまったけれど、よくよく思い出してみれば、誘拐事件はロイドさんたちの配慮で公にはなって無かったんだった。
誘拐した人が悪い人じゃなかった事と、救出が早かった事で私は無事だった。
まぁ、前世の事を思い出しちゃったりして精神的には色々とキツい部分はあったけれど。
それでも若い女性が誘拐されるというのは、無事であってもそれだけで傷モノ認定されてしまうらしいんだよね。
「あ、攫われかけた、というだけで、もう全然、本当に大丈夫だったんで。
本当に本当に平気だったんですよ?」
慌てて言ってみたけれど、何のフォローにも説明にもなってないね。ちょっと自分でも酷いレベルだと思う。
だって爽やかハドソン伯爵の眉間に皺が寄ったままだもん。バーナード様でさえ、『何か声を掛けた方が良いのか?』、みたいな表情になっているぐらい。
「分かった!誓約魔法付きの誓約書に署名させよう!
なに、それ以外に重い罰が無いと聞けば、ホイホイと署名をする奴はそれなりにいるだろうから問題ない。」
それはちょっと、、、ハドソン伯爵家の使用人の質に問題があり過ぎない?
ジョセフさんがショックを受けたような顔をしているよ。 伯爵家に相応しい者をキチンと人選したつもりだったんだろうからねぇ。
「今日明日にでも署名させるとして、養蚕事業についてはこれぐらいしかまだ決まってないんだ。
三週間後に絹糸作り要員の国の者がハドソン領に来る事になっているが、それまでに準備の為にログワ村に行く予定なんだ。」
ハドソン伯爵の言葉に今度は私がビクリと肩を揺らした。
私は、、、もう行かなくてもいいよね?
「本当はティアナにももう一度行って貰いたいんだけれどね。養蚕の件もそうだけど、クワーの実のレシピを村の女性たちに教えてあげて欲しいが難しいかな?」
「無理です。」
「うわっ、即答だ。やっぱりアレの問題で?」
ハドソン伯爵は前回一緒に行って私の様子見ているからね。
思い出し笑いをしているような感じがちょっとイラッとしてしまうけれど、分かっていて何度もあの地に行く勇気は私にはないな。
「クワーの実に関してはそんなに難しいものではないんです。ジャムやジュースは他の果物で作っている所もあると思いますよ。
一度、レシピとして登録されているかどうかを確認してみて下さい。
あ、ドライフルーツもそうかも。
ログワ村に行かれる前に、見本のような形で他の果物で作った物とレシピをお渡しします。」
ジャム、ジュース(シロップ)、ドライフルーツは、他の果物でも作っていそうだからねぇ。
単にクワーの実が今まで使われていなかっただけだと思う。果実酒は作られていたからね。
やはり砂糖を気軽に大量に使える環境かどうかで、" 作る、作らない "というのがあるのだと思う。
「そうなのかい?後で調べさせるよ。
ティアナたちはもう少ししたら次の街へ行くつもりなんだよね?
でもあと一月ぐらいはこの地に留まって欲しいなぁ。」
最初の話ではそう言っていたんだよねぇ。
養蚕事業の具体的な話はこれ以上は聞かされても私にはどうしようもないけれど、もう一つ、もう少しこの地に留まる理由が出来てしまった。
「あの、その事なんですが、少し状況が変わりまして。
養蚕事業についてはここから先は私は立ち入らない方が良い思うので、意見を求められたら答えるぐらいしか出来ないと思います。
ただ、実はもう一つ、新たにお話したい案件が出てきてしまいまして、、、。
私がお世話になっているクレア孤児院から、ハドソン伯爵様宛に手紙が来ていると思います。
バーナード様か伯爵様はもうお読みになっているでしょうか?」
伯爵はまだ領地に戻って来たばかりだから、もしかしたらまだ目を通していない可能性があると思う。たぶん重要案件だとは認識されていないと思うし。
「直ぐには判断が必要なものには昨夜の内に目を通したが、クレア孤児院からの手紙はまだ見ていないな。バーナードは?」
少し思案するような仕草になった後、伯爵は隣のバーナード様を見た。
「領内から届いた陳情書は確認して重要度の高い案件のみ、叔父上が戻られたら直ぐに確認出来るように資料とともに纏めておきました。その中にはクレア孤児院のものは無かったかと。
手紙というからには大した内容では無かったのでしょう。」
確かに陳情書のような文章で送ってはいないけれど、手紙だから重要ではないと判断するなんて次期伯爵としてどうなのよ。内容も覚えていないのかな?
「これが手紙と同じ内容のものです。伯爵様、是非ここでお読み下さい。」
私は鞄から手紙を出して伯爵が座る目の前のテーブルに置いた。
伯爵までまだ届いていないのを見越して、同じ内容の手紙をもう一通用意していた事にバーナード様は少し不快そうな顔をしていたけれど、実際に届いていないのだから仕方がないじゃん。
重要度も緊急度も無いと判断された手紙を伯爵が読むのを待っていたら、いつになるのか分からないから用意してあったんだよ?
その意味を理解している?
「魔力量過多、、、これはっ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もありがとうございます。
159
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説



かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。



【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された
杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。
責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。
なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。
ホントかね?
公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。
だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。
ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。
だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。
しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。
うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。
それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!?
◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。
ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。
◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。
9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆)
◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。
◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる