捨てられ令嬢は屋台を使って町おこしをする。

しずもり

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ハドソン領 領都

もう一つの問題

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 まだ塞がっていなかったらしいクリスの心の傷?を抉ってしまったのは申し訳なかったけれど、魔法付きの誓約書を使用人たちにサインさせたかったのだから許して欲しい。

ふと視線を感じて前を向くと、ハドソン伯爵もバーナード様も私の方を気遣わしげな目で見ていた。


あ、またやらかしちゃった?


ついクリスの方に気を取られてしまったけれど、よくよく思い出してみれば、誘拐事件はロイドさんたちの配慮でおおやけにはなって無かったんだった。


誘拐したラリーさんが悪い人じゃなかった事と、救出が早かった事で私は無事だった。
まぁ、前世の事を思い出しちゃったりして精神的には色々とキツい部分はあったけれど。

それでも若い女性が誘拐されるというのは、無事であってもそれだけで傷モノ認定されてしまうらしいんだよね。


「あ、攫われかけた、というだけで、もう全然、本当に大丈夫だったんで。

本当に本当に平気だったんですよ?」

慌てて言ってみたけれど、何のフォローにも説明にもなってないね。ちょっと自分でも酷いレベルだと思う。

だって爽やかハドソン伯爵の眉間に皺が寄ったままだもん。バーナード様でさえ、『何か声を掛けた方が良いのか?』、みたいな表情になっているぐらい。


「分かった!誓約魔法付きの誓約書に署名させよう!

なに、以外に重い罰が無いと聞けば、ホイホイと署名をする奴はそれなりにいるだろうから問題ない。」

それはちょっと、、、ハドソン伯爵家の使用人の質に問題があり過ぎない?
ジョセフさんがショックを受けたような顔をしているよ。 伯爵家に相応しい者をキチンと人選したつもりだったんだろうからねぇ。


「今日明日にでも署名させるとして、養蚕事業についてはこれぐらいしかまだ決まってないんだ。

三週間後に絹糸作り要員のがハドソン領に来る事になっているが、それまでに準備の為にログワ村に行く予定なんだ。」

ハドソン伯爵の言葉に今度は私がビクリと肩を揺らした。

私は、、、もう行かなくてもいいよね?

「本当はティアナにももう一度行って貰いたいんだけれどね。養蚕の件もそうだけど、クワーの実のレシピを村の女性たちに教えてあげて欲しいが難しいかな?」

「無理です。」

「うわっ、即答だ。やっぱりの問題で?」

ハドソン伯爵は前回一緒に行って私の様子見ているからね。
思い出し笑いをしているような感じがちょっとイラッとしてしまうけれど、何度もあの地に行く勇気は私にはないな。


「クワーの実に関してはそんなに難しいものではないんです。ジャムやジュースは他の果物で作っている所もあると思いますよ。
一度、レシピとして登録されているかどうかを確認してみて下さい。
あ、ドライフルーツもそうかも。

ログワ村に行かれる前に、見本のような形で他の果物で作った物とレシピをお渡しします。」

ジャム、ジュース(シロップ)、ドライフルーツは、他の果物でも作っていそうだからねぇ。
単にクワーの実が今まで使われていなかっただけだと思う。果実酒は作られていたからね。
やはり砂糖を気軽に大量に使える環境かどうかで、" 作る、作らない "というのがあるのだと思う。

「そうなのかい?後で調べさせるよ。

ティアナたちはもう少ししたら次の街へ行くつもりなんだよね?

でもあと一月ぐらいはこの地に留まって欲しいなぁ。」

最初の話ではそう言っていたんだよねぇ。
養蚕事業の具体的な話はこれ以上は聞かされても私にはどうしようもないけれど、もう一つ、もう少しこの地に留まる理由が出来てしまった。


「あの、その事なんですが、少し状況が変わりまして。
養蚕事業についてはここから先は私は立ち入らない方が良い思うので、意見を求められたら答えるぐらいしか出来ないと思います。

ただ、実はもう一つ、新たにお話したい案件が出てきてしまいまして、、、。

私がお世話になっているクレア孤児院から、ハドソン伯爵様宛に手紙が来ていると思います。
バーナード様か伯爵様はもうお読みになっているでしょうか?」

伯爵はまだ領地に戻って来たばかりだから、もしかしたらまだ目を通していない可能性があると思う。たぶん重要案件だとは認識されていないと思うし。

「直ぐには判断が必要なものには昨夜の内に目を通したが、クレア孤児院からの手紙はまだ見ていないな。バーナードは?」

少し思案するような仕草になった後、伯爵は隣のバーナード様を見た。

「領内から届いた陳情書は確認して重要度の高い案件のみ、叔父上が戻られたら直ぐに確認出来るように資料とともに纏めておきました。その中にはクレア孤児院のものは無かったかと。

手紙というからには大した内容では無かったのでしょう。」


確かに陳情書のような文章で送ってはいないけれど、手紙だから重要ではないと判断するなんて次期伯爵としてどうなのよ。内容も覚えていないのかな?

「これが手紙と同じ内容のものです。伯爵様、是非ここでお読み下さい。」


私は鞄から手紙を出して伯爵が座る目の前のテーブルに置いた。


 伯爵までまだ届いていないのを見越して、同じ内容の手紙をもう一通用意していた事にバーナード様は少し不快そうな顔をしていたけれど、実際に届いていないのだから仕方がないじゃん。

重要度も緊急度も無いと判断された手紙を伯爵が読むのを待っていたら、いつになるのか分からないから用意してあったんだよ?
その意味を理解している?


「魔力量過多、、、これはっ!」



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ここまでお読み下さりありがとうございます。

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