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ハドソン領 領都
国と事業の話 2
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「ぶっ!あははははっ。」
突然、笑い出したハドソン伯爵に気持ち的には目がテン状態に。
私だけじゃなくて隣に座っているバーナード様も驚いているし立っている二人も同じような呆気に取られた表情になっている。
何故、突然笑い出したの???
「ごめん、ごめん。
ティアナの考えていることが、面白いくらいに顔に出るからつい笑ってしまったよ。
ほら、隣のクリスフォード君を見てごらんよ。必死に笑いを堪えて肩が震えているから。」
隣を見れば、私にソッポを向いて俯き気味なクリスの肩がフルフルとしている。
え?横顔でも考えている事が分かっちゃうの?
でも、ハドソン伯爵までこんなに笑い出すなんて、伯爵が言った事も冗談だったって事なの!?
私に出来る事なんて無くても、これでも心配したんだけど!
「ふっ、ごめんね、ティアナ。
軽い言い方だったけど、冗談という訳ではないんだよ。
養蚕事業の件で早々に報酬の取り分の話が出たのは、ハドソン伯爵家に逃げられない為でもあるんだよ。」
また表情に出ていたのか、伯爵は私を見て小さく笑って言った。
「逃げられない為?でも養蚕とシルクの件を報告したのは国の判断に委ねる為ですよね?」
「そうなんだけどね。国側は繭と作った絹糸を見てもまだ半信半疑で、本当にこれがシルクと呼ばれる織物になるのか?と思っていたみたいだ。
何しろ実際に見せられたのは白い繭と糸の束だけだ。いくら蚕話や絹糸の製法を知らされても本当に絹織物が出来るのか?と思ってしまうのも分からなくはない。」
あ~、確かに言われてみればその通りだね。
私は前世の記憶があるから確信を持って言えるけれど、シルクに関しては秘匿扱いで他国には知らされていないみたいだから、この国の人たちはシルクがどうやって作られるのかを知らない。
ハドソン伯爵は実際に絹糸になるまでを見ている。自分の目で確かめて実物を見て、私の話が正しいと判断して国へと報告した。
けれど知らない人たちからすれば、それだけでは判断しようがない。
もしかしたら王族の人たちだってシルク製品を実際に目にした事はなかったかもしれない。
そうなると判断する、しない以前の問題なのかも。
「もしかして報告するのが早すぎた,という事ですか?
絹糸だけではなくて、絹糸で織った何かを作ってからの方が良かったのでしょうか?」
そんな状態で養蚕事業を立ち上げるのをよく決定出来たなぁ、と思わなくもないけれど誰かの鶴の一声だった、とか?
「いや、寧ろ絹織物を作ってからでは、国に全てを献上させられていたと思うよ?」
「えぇっ!?どうして?
だって実物があれば信用してもらえたんですよね?」
「例えば布の面積が小さいハンカチでも、その技術が無ければ完成までに時間がかかるだろう?
まず、一つの繭からは800メートルから1200メートルの糸がとれるんだよね?
だけどハドソン領では織物業は行われていないから、絹織物を作る事が出来ない。
絹糸にする作業だって情報漏洩を防ぐ為に最小人数で行う事になるだろうし、どこかに頼むか、職人をハドソン領に連れてこないと絹糸を織る作業も出来ない。
そうやって私たちが試行錯誤して絹糸で織物を作り上げたとして、発見してから完成までにはそれなりの時間がかかってしまうだろう。
完成してから国に報告にいけば、国も直ぐに蚕の繭からとれる糸が絹糸になるのだと認めはしてくれるだろう。
但し、掛かった時間が『何故、発見した時に直ぐに国に知らせなかった?』という奪う口実になってしまう可能性もあるんだよ。
だってそもそもが希少で価値のあるシルクだろうと、ハドソン領で発見されたのなら、国を介入させたり譲り渡す必要も無いんだよ。
それも養蚕も絹糸の製法も既に知っているのならね。
シルクほどではないが、新しい発見をして新商品を世に出すのは貴族でも商人でも普通にしている事なんだから。
そうさせない為にはこじつけだろうが、『後から態々報告してきたのは何か良からぬ事を考えていたのだろう?』などと言いがかりをつけて、情報から技術を全てを取り上げた方が楽だからね。」
そういえばそうだ。
シルクの価値の凄さに『これはマズい!』、『一貴族には手に負えない代物だ!』という雰囲気があったけれど、ハドソン伯爵家だけでは無理でも、伯爵家が所属している派閥に協力を仰いで事業を始めても良かったんだよ。
そうなっていたらその派閥全体で富も力も手に入れる事が出来たんじゃないかな。
ハドソン伯爵はたぶんそういうのも分かっていた筈だ。それら全てを考えて結局、国に報告した方が良い、と判断したんだろうなぁ。
だってその方が面倒が少なそうだもん。
同じ派閥に属する貴族たち全員が同じ考えを持つ訳じゃない。報酬の取り分だって人数が多ければ多い程、揉める原因になるだろうからね。
「まぁ、宰相や王族の方々としては、差し出された糸が本当に絹糸なのかは半信半疑だが、真偽に時間をかけていては私が話を他に持って行くかもしれない。
そう思ったんじゃないかな。
私がコーナン侯爵家にも話をしたい、と提案したから、縁戚になる予定のニ家だけで養蚕事業を立ち上げる可能性もあると焦ったのだろう。
まぁ、国側としては損はしたくないが、儲け話は逃したくないって事だったんだろうね。」
うぇっ、何それ!?
もしかして売上額の三割の報酬の中に、養蚕事業の準備から今後のログワ村にかかる経費全てが含まれているのは、自分たちが負担したくないから、って事?
だって養蚕事業の準備はほぼログワ村内での事じゃない?
それって一体どれぐらいで回収出来るものなの!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もありがとうございます。
突然、笑い出したハドソン伯爵に気持ち的には目がテン状態に。
私だけじゃなくて隣に座っているバーナード様も驚いているし立っている二人も同じような呆気に取られた表情になっている。
何故、突然笑い出したの???
「ごめん、ごめん。
ティアナの考えていることが、面白いくらいに顔に出るからつい笑ってしまったよ。
ほら、隣のクリスフォード君を見てごらんよ。必死に笑いを堪えて肩が震えているから。」
隣を見れば、私にソッポを向いて俯き気味なクリスの肩がフルフルとしている。
え?横顔でも考えている事が分かっちゃうの?
でも、ハドソン伯爵までこんなに笑い出すなんて、伯爵が言った事も冗談だったって事なの!?
私に出来る事なんて無くても、これでも心配したんだけど!
「ふっ、ごめんね、ティアナ。
軽い言い方だったけど、冗談という訳ではないんだよ。
養蚕事業の件で早々に報酬の取り分の話が出たのは、ハドソン伯爵家に逃げられない為でもあるんだよ。」
また表情に出ていたのか、伯爵は私を見て小さく笑って言った。
「逃げられない為?でも養蚕とシルクの件を報告したのは国の判断に委ねる為ですよね?」
「そうなんだけどね。国側は繭と作った絹糸を見てもまだ半信半疑で、本当にこれがシルクと呼ばれる織物になるのか?と思っていたみたいだ。
何しろ実際に見せられたのは白い繭と糸の束だけだ。いくら蚕話や絹糸の製法を知らされても本当に絹織物が出来るのか?と思ってしまうのも分からなくはない。」
あ~、確かに言われてみればその通りだね。
私は前世の記憶があるから確信を持って言えるけれど、シルクに関しては秘匿扱いで他国には知らされていないみたいだから、この国の人たちはシルクがどうやって作られるのかを知らない。
ハドソン伯爵は実際に絹糸になるまでを見ている。自分の目で確かめて実物を見て、私の話が正しいと判断して国へと報告した。
けれど知らない人たちからすれば、それだけでは判断しようがない。
もしかしたら王族の人たちだってシルク製品を実際に目にした事はなかったかもしれない。
そうなると判断する、しない以前の問題なのかも。
「もしかして報告するのが早すぎた,という事ですか?
絹糸だけではなくて、絹糸で織った何かを作ってからの方が良かったのでしょうか?」
そんな状態で養蚕事業を立ち上げるのをよく決定出来たなぁ、と思わなくもないけれど誰かの鶴の一声だった、とか?
「いや、寧ろ絹織物を作ってからでは、国に全てを献上させられていたと思うよ?」
「えぇっ!?どうして?
だって実物があれば信用してもらえたんですよね?」
「例えば布の面積が小さいハンカチでも、その技術が無ければ完成までに時間がかかるだろう?
まず、一つの繭からは800メートルから1200メートルの糸がとれるんだよね?
だけどハドソン領では織物業は行われていないから、絹織物を作る事が出来ない。
絹糸にする作業だって情報漏洩を防ぐ為に最小人数で行う事になるだろうし、どこかに頼むか、職人をハドソン領に連れてこないと絹糸を織る作業も出来ない。
そうやって私たちが試行錯誤して絹糸で織物を作り上げたとして、発見してから完成までにはそれなりの時間がかかってしまうだろう。
完成してから国に報告にいけば、国も直ぐに蚕の繭からとれる糸が絹糸になるのだと認めはしてくれるだろう。
但し、掛かった時間が『何故、発見した時に直ぐに国に知らせなかった?』という奪う口実になってしまう可能性もあるんだよ。
だってそもそもが希少で価値のあるシルクだろうと、ハドソン領で発見されたのなら、国を介入させたり譲り渡す必要も無いんだよ。
それも養蚕も絹糸の製法も既に知っているのならね。
シルクほどではないが、新しい発見をして新商品を世に出すのは貴族でも商人でも普通にしている事なんだから。
そうさせない為にはこじつけだろうが、『後から態々報告してきたのは何か良からぬ事を考えていたのだろう?』などと言いがかりをつけて、情報から技術を全てを取り上げた方が楽だからね。」
そういえばそうだ。
シルクの価値の凄さに『これはマズい!』、『一貴族には手に負えない代物だ!』という雰囲気があったけれど、ハドソン伯爵家だけでは無理でも、伯爵家が所属している派閥に協力を仰いで事業を始めても良かったんだよ。
そうなっていたらその派閥全体で富も力も手に入れる事が出来たんじゃないかな。
ハドソン伯爵はたぶんそういうのも分かっていた筈だ。それら全てを考えて結局、国に報告した方が良い、と判断したんだろうなぁ。
だってその方が面倒が少なそうだもん。
同じ派閥に属する貴族たち全員が同じ考えを持つ訳じゃない。報酬の取り分だって人数が多ければ多い程、揉める原因になるだろうからね。
「まぁ、宰相や王族の方々としては、差し出された糸が本当に絹糸なのかは半信半疑だが、真偽に時間をかけていては私が話を他に持って行くかもしれない。
そう思ったんじゃないかな。
私がコーナン侯爵家にも話をしたい、と提案したから、縁戚になる予定のニ家だけで養蚕事業を立ち上げる可能性もあると焦ったのだろう。
まぁ、国側としては損はしたくないが、儲け話は逃したくないって事だったんだろうね。」
うぇっ、何それ!?
もしかして売上額の三割の報酬の中に、養蚕事業の準備から今後のログワ村にかかる経費全てが含まれているのは、自分たちが負担したくないから、って事?
だって養蚕事業の準備はほぼログワ村内での事じゃない?
それって一体どれぐらいで回収出来るものなの!?
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ここまでお読み下さりありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もありがとうございます。
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