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ハドソン領 領都

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「さて、もう少しについて具体的な話をした方がいいいかな。

ジョセフ、領都の街でこの屋敷に関する噂が流れているのは知っているかい?」


「この屋敷の噂、ですか?

いえ、まさかハドソン伯爵家に対する悪い噂が流れている、とでも?」


 急に違う話題を振られて戸惑っている様子のジョセフさんは、どうやら" 噂 "には心当たりが無いらしい。

ハンナさんの様子を見ても同じような態度なので、ハドソン伯爵家の者の耳には入らないように流れているのか。
それとも噂されるような覚えはない、と市井の噂などに興味が無い為に気付かなかっただけなのか。


「うん。この屋敷の下働きの者は商業ギルドを通して紹介され者を雇っているだろう?

ここ数年、随分と入れ替わりが激しいようじゃないか。特に下女として雇われた者に解雇が多いようだが。

下働きの者については、君たちの裁量で面談し採用するのを許可していたし、私たちの前には姿を見せないようにしているから私も噂を耳にするまで気付かなかったよ。」


「はい、その通りです。確かに下女は自分に与えられた仕事も満足に出来ない者や、使、と判断した者については解雇した覚えがあります。」

さも当たり前、というような表情で言ったジョセフさんと、それについて同意する様に頷いているハンナさん。


あぁ、この人たちは本当にについても、それによってされるような事態になっているのにも気付いていなかったのか。

この屋敷のについては知らないけれど、私はこの屋敷からを知っているよ?

噂って、そういう話じゃないの?


「正式に抗議された訳ではないが、ニヶ月ほど前に商業ギルド長から直接、私のところに問い合わせがあった。

これまで我が伯爵家に紹介した下働きの者たちが何人か解雇されているようだが、とね。

解雇された者たちの中には解雇通知書さえ渡されていない為、泣き寝入りのような形で商業ギルドにも報告出来ない者もいたらしい。」

心当たりはあるかい?」


" 解雇通知書 "といのは、何らかの理由で契約期間中に解雇された者に雇用主から渡される書類だ。
 
この書類は紹介状を持たずに仕事先を探す際に利用される事もある。
書類には解雇理由を記載する項目があり、その内容によって新たな雇用主が雇用するかどうかを判断するからだ。

当家では紹介状を出さずに解雇したけど、解雇理由は書面に記載しているから雇うかどうかは自己責任で雇ってね。

という意味が含まれているか分からないけれど、中には解雇理由の文面から問題無し、と判断される事もあるらしい。
因みに犯罪を犯した場合などは解雇通知さえ渡されない。

という事は、ハドソン伯爵邸で解雇通知書を渡されなかった人たちは犯罪を犯した人たちだった?

いくらなんでもそんな人たちばかりが伯爵家に揃う筈はない。

それに犯罪を犯したなら、下働きの者だったとしても当主に報告するもんじゃない?

もし、軽微な罪だったとしたら解雇通知書に解雇理由を書けばいいだけでしょ。


「・・・・確かに解雇通知書を持たせずに解雇した者も、過去には居たかも知れません。」


「居たかもしれない、ではない。少なくとも下女の何人かはそうなんだよ。それも若い女の子ばかりがね。

『ハドソン伯爵邸で下働きの募集があっても、若い女性は直ぐに解雇通知書も持たされずにクビになるからよした方がいい。次に働く先も見つけられなくなるから。』

と噂されているそうだ。しかも解雇された本人が納得出来ないような理由でクビになる、と言っていたようだよ。」


「そ、そんなのは解雇した者が勝手に触れ回っているだけでしょう。

私たちはこの屋敷を任されている立場上、伯爵家に害を成す者を雇用し続ける事は出来ませんわ。」

ハンナさんが口を挟んできたのは、直接、下女とやり取りする事が多いのはメイド長であるハンナさんだからだろう。

「具体的にはどういう害があったんですか?」

思わず聞いてしまったのは、の話を既に聞いていたから。

「なっ!ハドソン伯爵家の話にあなたが口を挟むなんて!」


「いや、ハンナ。私も解雇理由を知りたいな。だって解雇通知書さえ渡さなかったという事は何かの犯罪を犯した者なんだろう?

それは邸内での事か?それとも外での事か?」


この伯爵の言い方だと、もう調べて解雇の理由を知っているよね。
敢えてジョセフさんたちの口から言わせようとしているんだろう。

でも、自分たちから白状するかな?そうだといいのだけど、、、。


「い、いえ、それは、、、。」

「どうした、ハンナ。犯罪者ならば解雇通知書を渡さないのは当たり前だ。
ハドソン伯爵家の家令とメイド長がそうと判断したならば、それがだったのだろう?

下女名前は覚えていなくとも、どんな犯罪を犯したのかぐらいは覚えている筈だよね。」


自分たちの罪を認める気はない、かぁ~。
もしかしたら罪と思っていないかもしれないけど。

伯爵は、、、グイグイと攻めるね。

 最初から私抜きでそうして欲しかったけれど、きっと普通に言っても自分たちに非がある、と納得しないと思ったのかな。

だから丁度良いタイミングで屋敷を訪ねてきた私を利用しようと思ったんだろうなぁ。
ジョセフさんたちが暴走するキッカケの憎き女の娘だったのだから。


伯爵の笑顔で口撃 ーー 但し、口調も声音も至って普通 ーー に、バーナード様もまるで自分が責められているかの表情になってきている。

コーナン侯爵令嬢は、、、また目をキラキラさせて事の成り行きを見守っているね。
楽しい話じゃないんだけどなぁ。

ジョセフさんたちは自分たちの口から解雇理由を言う事はないなら、もう私が言っちゃってもいいよね?


「あのぉ~。解雇された人が犯した罪を知っていますよ?

ハドソン伯爵様をジッと見つめていた罪です。」

正確には、庭にある四阿で寛ぐハドソン伯爵を偶然見かけて見惚れていた、だね。


これがミリーさんが犯した罪で、いきなりハドソン伯爵邸の下女をクビにされた理由だ。



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ここまでお読み下さりありがとうございます。

「いいね」及びエールでの応援もありがとうございます。


(本編補足)

" 解雇通知書 "については独自設定になります。

解雇した者に解雇通知書を渡す事が義務化されている背景には、不当解雇を無くす目的があります。

過去に紹介状を出して欲しければ、、、というような脅迫があったり、雇用主の気分次第での不当解雇などが多かった為に、解雇する場合には例外を除いて必ず解雇通知書を渡す事になりました。

この解雇通知書があれば、解雇理由に不服があった場合などは、簡易裁判所のような場所で異議申し立てをする事が出来ます。

また、解雇を頻繁に行う雇用主のところには調査が入る事もあります。
ハドソン伯爵家はハドソン領の領主であり伯爵自身は領民に慕われていたので、表立って訴える人もいませんでした。

そろそろマズイのでは?とギルド長が噂を伯爵の耳に入れる事にした、という背景があります。
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