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ニトの街にて

女商人と肉を堪能する男

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只今、絶賛肉祭り中です。


あれっ?試食ってこんなに長い間、食べ続けるものだったっけ?


私は味見で一口食べただけで、今も見ているだけなのに胃もたれしてきた気がするんだけど。


ノアさんは試食よりも肉についての探究心に火がついたのか、さっきの部位のイラストについてあれこれ聞いてきたり、試食の合間に店の奥に戻っては肉を切ってきて味を確かめていた。


流石にボアやオーク肉などの魔物系の肉の部位の名称に関しては私も知らない。けれど美味しさや肉質などはノアさんの方が専門家な訳だから、牛や豚の部位を参考に名付けては、と提案してみた。


最初はボア肉、オーク肉、牛肉を薄く切ってしゃぶしゃぶを試食してもらった。当然、牛肉が一番美味しかったけど、ノアさんの目利きで仕入れたボアもオークの肉も普段食べている物よりもずっと美味しかった。


タレはポン酢とごまダレの二種。しゃぶしゃぶについては肉や野菜を湯に通してタレにつけて食べるだけだから料理レシピとして申請が通るか微妙な気もする。


申請が通らなければタレでのレシピ申請になりそう。でもポン酢もごまダレも色々な他の料理に使える筈だから大丈夫かな。

取り敢えず、料理名と食べ方だけでも登録出来るか確認してもらおう。ついでに冷しゃぶもまとめて一緒に紹介すればいいかな。


後は専用の鍋だよね。元々、しゃぶしゃぶって鍋料理の一つみたいだから、新しく鍋を作っても他の鍋料理にも使用できるし使い道は色々あると思う。


取り敢えず普通の鍋でやったけれど、普通の丸型の鍋を一人様サイズで欲しいし、もう少し浅い鍋の方がいいだろう。他にも煙突形とか二食鍋とかもいいよね。

『ニトのしゃぶしゃぶ』という特別感を出したいなら、今までにない煙突形や二食鍋の方が話題性もあるかもしれないなぁ。
あ、どちらかの鍋をニト鍋と名付けて売り出してみたらいいんじゃない?


思いついた事をメモしながらクリスとノアさんの様子見ていると、ノアさんはポン酢の方を気に入ったみたい。

クリスは、、、、まぁ、どっちも好きそうだね。


すき焼きは関西風と関東風の二種類を作る事にした。関西風は牛脂で肉を焼いてから砂糖と醤油で味付けしていくんだよね。
 牛脂も一応作ってみたけれど少し時間を置かないといけないので、今日は普通の油で代用。
牛脂はステーキや焼肉の時にも使用出来るから是非とも牛脂を使って貰いたい。


割り下は標準の作り方で作ってみたけれど、出汁については入手出来ないところも出てくるかも知れない。
 今まで出回っているジパーンの調味料を調べた中では鰹節は取り扱いが少なかったんだよね。まぁ、きのこ類などを入れておけば有っても無くても良い気もするな。


すき焼きの具材については焼き豆腐としらたきが無いのが悔しい。豆腐作りにはにがりが必要だからなぁ。
 ひよこ豆でも作れるらしいんだけれど、ひよこ豆の実物を見た事が無いからこの世界にも有るのかどうか分からない。


その内、海辺の街とかに行ってみたいなぁ。そうすればにがりも作れるしオイスターソースだって手作り出来る。
 何より魚介類が恋しい。海辺の街ではどうか知らないけれど、どうやら魚を生で食べる習慣は無いらしいんだよねぇ。刺身、美味しいのになぁ。


まぁ、具材は割と自由だと思うし、まずは白葱や葉物野菜やきのこ類が有ればいいか。


ノアさんはポン酢同様、割り下の味に驚いていたけれど、溶いた卵に煮込んだ具材を入れる食べ方が気に入った様だった。

クリスはもう無言だよね。無言で食べてちゃ料理の感想が分からないんだけれど。

似た様な物だから牛丼を作って出したら凄い速さで無くなってお代わりを要求されてしまった。


最後に即席のタレに漬け込んだ肉で、焼き肉を披露した。漬け込み時間は足りないとは思うけれど、漬け込まなかった肉との比較が出来たからいいかな。

焼肉のたれは基本のレシピを登録したら、後はお店独自で創意工夫をしていってくれれば良いと思う。
それがお店のウリになるだろうからね。

焼肉は網やプレートで焼くイメージがあったけれど、それは直ぐには用意出来ないからしゃぶしゃぶの鍋同様に今後、開発していってくれればいいかな。



結局、三大肉料理に関連して牛丼の他にしぐれ煮も作った。しぐれ煮はおにぎりの具材にもなるし野菜と一緒にパンに挟んでも美味しいと思う。


他にはガーリックステーキやソースを作って味見をしてもらっている。塩胡椒でも十分ではあるけれど、色々な味付けがあった方が飽きないし何より美味しい肉を更に楽しめる。

それにステーキ丼や弁当を出すならステーキソースで出した方が、お米にソースが絡んで美味しいと思うんだよね。


ノアさんのお店だけを改善するならステーキか焼肉だけでもいい。


でも、客足が減ったのは他のお店も一緒だし宿屋や鍛冶屋など他のお店もそう。
広場周辺以外の場所はこの半年ほどで活気が無くなってしまっているらしい。


即席の提案ではあるけれど、それを改善する為の『肉の街ニト計画』だ。


料理での町おこしなら手を付け易いと思うんだよね。前世でテレビ番組でご当地グルメの紹介とかって人気があった事を覚えている。


それに町の特産品を使った食材で料理を作って、料理名に町の名前を入れて町おこしをしている所もあった。○○コロッケみたいな感じで。


勿論、そういう時の料理の開発にはレシピ開発の為の試行錯誤の時間やお金も掛かっているから簡単に出来るものでは無い事も分かっている。


けれど、私が提案するのは、だ。


だから一から料理を考える事も思考錯誤の時間も必要無い。作り方と食材があれば直ぐに誰でも出来るので開発費なんかも不要だ。


前世の世界の料理は私が作り出した料理ではないから、それを私が考えたモノとして出すのは後ろめたい気持ちが無いでもない。


けれど、この国で私が食べたい料理を食べるには、料理が世に出回らないと食べられない。

私の希望はどこに行っても前世の料理を食べられるようになる事、だからね。


だから、まぁ、ちょっと?私欲も入っている肉の街ニト計画だったりする。


とは言っても、活気の無い商店街や飲食街が潰れていくのは寂しいし力になれる事があるなら力になりたい。
それに折角の美味しい肉が食べられなくなるのも勿体無い。


期待した成果が出るかは分からないけれど何もしないよりは良いと思う。


出来る限りは協力する。後はお姉様方やノアさんたちのやる気次第だ。


それにはノアさんのお店を含んだ飲食店街にある他のお店にも協力してもらわないとダメなんだよね。


その辺りはノアさんにお願いしてこの飲食店街を中心に声を掛けてもらおうかな。


お姉様方から話を持っていくより、先に仲間のノアさんから話をしてもらった方が印象は良さそう。


何しろ、本題に入ろうとお姉様方の名前を出した途端にノアさんの表情が曇ってしまったからね。
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