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ニトの街にて

女商人と肉の話

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「まさか、か?」


クリスが私に詰め寄るように近づいて聞いてきたのはきっとイケアで食べ損ねた唐揚げの事だろう。


「違うよ。それとは別の新しい肉料理。折角だからこの地に関係する肉を使った方が色々と商売展開しやすくて良いかなぁと思っているんだよね。」

クリスは私に違うと言われてガッカリした後に、新しい肉料理と聞いて途端にソワソワし始めた。


クリスって、ほんっとうに肉肉星人だよねぇ~。


「ちょっとぉ~、何、二人で話しているのよ。肉の街ニトって何?意味分からないんですけど?」

「エリス様、済みません。私はまだ始めたばかりなのですが、今までに無い料理を得意としてレシピ販売をしているんです。

それで新しい肉料理をニトから広めるのはどうかと思っています。特に冒険者の方々、男性の方たちは肉が好物な人が多いですよね。

だから肉を使った新しい肉料理をニトで販売すれば、元々ニトからダンジョンに潜っていた冒険者たちがニトに立ち寄るようになるかと。

それにイケアよりもニトからダンジョンに行き来した方が、冒険者にとっても費用的に都合が良いと思うんですよね。それで今までニトは冒険者の街と言われるほどだった訳ですし。」


「でもそれは冒険者ギルドがあったからでしょう?

それに必ずしも冒険者の興味が引けるとは限らないと思うのだけれど、何か秘策でもあるのかしら?」


それはそうなんだよね。まず食べてもらわないと始まらないけど、今のニトには冒険者は殆ど居ない。じゃあどうするかといえば、、、。


「方法は色々あるとは思いますが、ここからはエトリナ商会との取引と思って話を聞いて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」


「あら、ここからは有料ってことかしら?」

ケイト様は面白そうな表情を浮かべたので怒ってはいないかな。

勿体つけて話し始めて肝心な事は言わないでここからは有料です、って言われたら怒りだしても仕方ない。

けれどケイト様は思い当たる事があるのか、さっきから私の言葉を興味深そうな表情で聞いているんだよね。


「そうですね、有料というか新しい料理という事で料理レシピの登録が必要になると思います。それに関してはお願い、という形になるものもあります。

 例えば直ぐに新しい肉料理をお店で売れるように、料理レシピの申請について優先的に審査をしてもらいたい、というのがありますね。

私たちは旅をしながら商売をしているので審査が通るまで何十日も滞在するつもりはありません。

 ただ今回は料理レシピの権利自体をエリス様たちかニトの商業ギルドに購入してもらった方が肉の街として売り出すのに都合が良いと思っているんです。」

「「私たちに料理レシピの権利を売りたい?」」


予想外の提案だったらしく、お姉様方が二人仲良く同じ言葉を口にした。お互いの事をどう思っているのか分からないけれど、他人からは仲の良い姉妹に見えるなぁ。


「あ、勿論スピッツ子爵家でも良いですが、お二人は家の事でも少々不満がありそうかなぁ、と思って。」

「そりゃあ、たくさん不満があったから癒しを求めたんじゃない!」

「何故、私たちに売る方が都合が良いのかしら?私たちでも支払える金額なの?」


エリス様はどれだけ癒しに拘るのかな?それも後で提案はするけどさ。


ケイト様は私の提案に乗り気という事か。もしかしたらケイト様はイケアで私が屋台販売していた噂を知っているのかも知れないなぁ。


「商業ギルドが購入した場合はお二人の名は霞んでしまうかと。評価されるのは結局、ギルド長だと思いますし。

 それに私が登録してしまうと、肉の街ニト、肉料理発祥の地、という売り文句が弱くなると思うんですよ。

だってレシピの登録者が私なんですから、いずれ自分たちの方が先に売り出した、とかそういう争いが出てくる可能性があります。


そういう理由でニトの商業ギルド又はスピッツ子爵家が登録した方が、大々的に料理と一緒にニトの地名を売り出す事が出来ると思っています。


けれどお二人を蔑ろにしたり軽んじたり人たちを見返したい、という気持ちがあるのなら、お二人が登録した方が良いだろうな、と個人的にはそう思っています。

お二人が出せる金額が私にはわかりませんが、そこは応相談て事で。」


にっこり笑顔で取り敢えず言い切った。もう思いっきり私情を挟んで取引を持ち掛けている自覚はある。

けれどこの話を商業ギルドやスピッツ子爵家の当主に持ち掛けてしまったら、この二人は今と変わらない気持ちのまま行動するだろうし益々自棄を起こしてしまうかも知れない。


申請前の料理レシピの権利を直接売買する経験が無いのでその辺は私も少し不安が残る。
 どのぐらいの利益が見込めるかの試算をするには、まだ自分のレシピも売り出したばかりでどの程度売れていくのか予測がつかないので売値を決める判断基準がよく分かっていないんだよね。


その辺りのアドバイスは都合がつけばに判断してもらいたい、と密かに思っている。
 出来れば直接来て貰いたいけれどダメなら手紙でのやり取りになるかなぁ。他にも協力して欲しい人もいるし。

本当はこういうのは下準備に時間をかけないといけないんだよね。取り敢えず宿屋に戻ったら仮の計画書でも書いておこうかな。


「成る程。まぁ、その辺りは交渉次第ってところかしら。

でもその新しい肉料理とやらも食べずに売りつけるつもりじゃないでしょうね?」


「勿論です。明日、都合が宜しければ試食してみて下さい。その後にレシピの権利購入の検討をお願いします。」

購入しないとなっても私が登録すればいいだけだから損はしないし、一度食べただけならレシピを盗まれるなどの心配もないだろう。まだジパーンの調味料を知っている人も少ないからねぇ。


「明日?いいわよ。こういう事は勢いのある内に進めた方が良いからね。場所はどうするの?」


ケイト様、決断力あるなぁ。そう言い切るって事はレシピの権利を購入するなら自分達で、って事だね。
 好き勝手にやってる、と言っても流石に商業ギルドやスピッツ子爵家で購入するなら話を通さないと出来ない案件だろうからね。


「あ、この後、交渉に行こうと思っているので、許可が取れれば明日の午後に店の方で、駄目ならギルド内の部屋をお借りしたいです。」


「分かったわ。部屋は一応押さえておくけれど、店の方でやるなら明日の朝にギルドの受付に伝言を残して頂戴。他には何かあるかしら?」

「癒し、、、。」

「肉、、、、。」


・・・・エリス様。あの広場はそんなにもエリス様にとって癒しだったんですか?


そしてクリス!何故、クリスまで呟いているのっ。


「エリス様?癒しについての提案も明日、一緒にさせて頂きますね。

・・・クリス、この後、ノアさんに交渉しに行くから肉料理の試食をしてくれる?」


イケアで唐揚げを食べる事が出来なかったのがクリスにとってそんなに辛かったのかと、お預けの罰は今後は控えようと流石に思った。


肉への執着が強くなってしまった気がするよ。


だからもあるし、クリスには肉料理を思う存分満喫してもらおうか。




◆   ここまでお読み下さりありがとうございます。 ◆









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