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イケアの街と面倒事

「はい」か「いいえ」 side ロイド

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『いいか?アホの尋問は俺がやる。兄弟喧嘩はティアナを救出した後に好きなだけやれ。」


アランがルードを連れて来る間にクリス殿は私にそう言った。


兄弟喧嘩、か。


思い返してみれば、ルードと兄弟喧嘩をした事があっただろうか。

ピレネー子爵家を継ぐ嫡男としてルードは両親から溺愛されていた。無論、私の事も息子として愛情を注がれているのは理解していた。

だが、ルードとの扱いの違いは確実にあった。そして私よりも不出来なルードを理解していた父は私に事あるごとに言っていた。


『ロイド、お前はルードがこの家を継いだら、弟としてしっかり兄を支えてくれ。』


別に子爵家を継ぎたかった訳じゃない。ピレネー家を盛り立てていく事にも不満は無かった。当主になる期待や重圧が無い事にも喜んでいたぐらいだ。だがー。



「おいっ!一体、何なんだ。人をベッドから蹴り落として起こしたと思ったら、今度は部屋から一歩も出るな、と監禁紛いの事をしおって、、、。

ティアナ嬢がどうとか言ってたのは何だったんだ?」


ルードは自分の扱いに不満はあるみたいだが、態度はいつもと変わらないものだった。


「煩い、黙れ!時間が勿体ない。

俺の質問に『はい』か『いいえ』だけで答えろ。

分かったな!」


「ヒィッ。」

クリス殿の凄んだ形相と声色にルードは怯えてコクコクと首を縦に振った。


「お前はティアナが行方不明な事件に関わっているのか?」

「何っ?彼女が行方不明?何で、、、、ヒィッ!いいえ、いいえ、だっ。」

クリス殿は本当に『はい』か『いいえ』だけでルードに答えさせる気な様で、ティアナ嬢の事を尋ねようとしたルードをひと睨みする。


「男爵領に居る冒険者くずれを雇ったのはお前か?」


「冒険者?、、、いいえ、だ。預かってくれ、と頼まれただけだ。男爵領の警備にも役立つと言われて、、、。」


『いいえ』以外の言葉も口にするのを咎められると思ったのか、ルードの言葉は次第に小さくなっていく。


頼まれた?

ゴロツキどもが領の警備?

そのゴロツキに怯えて別邸に逃げていたくせに、そう思いながらもこれまでドルドからの報告とはあまりに違う内容に焦りにも似た感情が胸を過ぎる。


「じゃあ、それは誰に頼まれた?」


「い、言えない。内密に、と言われているんだ。」


クリス殿に怯えながらも『言えない』と言い切るルードは、クリス殿から目を逸らしている。

「・・・・分かった。ティアナの屋台の噂は誰に聞いたんだ?」


「?別邸に居るフットマンに聞いた。物凄い行列の出来る変わった料理を出す屋台の店主がロイドの賓客だ、と『是非、本邸に行ってみて下さい。』と言っていたな。」


クリスの質問の意図がよくわかっていないルードは首を捻りながら答える。


「そのフットマンとは仲が良かったのか?」


「いいえ、だ。あのフットマンはロイドがチャーリー先輩にお願いして私のところに寄越したのだろう?庭師もそうだ、と聞いたぞ?」




ルードの言葉で、ドルドたちがチャーリーの方に寝返っていた事が決定的になった。

まさか、と半信半疑であったが、寝返っていた、となると、が気になってくる。

「彼らはチャーリーからの伝言をお前に伝えていたのか?」


そうだ。ドルドは私がルードを疑っていると知っていたしその監視を頼んでいたが、今回の書類の件の話には関わっていない。それにティアナ嬢には会った事も無かった筈だ。
 なのに、ルードにティアナの存在を知らせてここに来るように仕向けていた。一体、何故だ?


「はい、だな。など庭師経由で連絡が来ていたぞ。」


「何故、庭師が?」


「ん、よくは知らんが庭師が魔バトを使って先輩の従者と連絡を取り合っているらしいが?」


その言葉にクリス殿が舌打ちをする。何か思い当たる事があったのだろうか。


「セバスさん。俺たちが乗った乗り合い馬車の御者がどこの所属だとか調べられるか?

魔バトを連絡手段にするなんて聞いた事がない。ティアナが言うにはというものらしいが、あの御者も宿を取るのに使っていた。

珍しがってティアナが御者に話しかけていたが、を思いついて利用しているのはだけだ、と自慢していたらしい。」


「アラン、すぐに確認を。」


セバスは私に了解を取る様に視線を合わせた後、アランに指示を出した。


「お前はに何か依頼をしたか?」


「?いいえ。」

「ロイド一家が乗った馬車が襲われた事を知っていたか?」


「っ!いいえ、、、。」

ルードが驚きに目を見開き、私の方に支線向けた。

・・・私は本当にドルドの報告を鵜呑みにしていたんだな。


ドルドが『コーギー男爵がロイド様の殺害を冒険者くずれのゴロツキに依頼したらしい。』と報告してきた時に、『まさか!』と思った。
 だが、私の周りで不穏な動きが数回続くと『やはりそうなのか。』と私は納得してしまった。

確かにルードは『レストランを私に任せろ。』『イケア領は私が継ぐ筈だった。』など何度も言ってきたし金の無心も何度もあった。

 だからって後継ぎが出来たから、というだけで私の命を狙っていると、どうして簡単に信じてしまったんだろう。

ルードが小心者だと知っていた。けれど人に乗せられ易い男だとも知っていた。


だからなのか?


いや、私がもうルードの事をでしか見ていなかったのだろうな。


「お前はティアナのレシピ登録申請書類を盗もうとしたのか?」


「・・・いいえ、だ。」

ルードはまたも驚いた表情をしたが、キッパリと言い切った。その言葉にルード以上に動揺したのは私の方だった。


「っ!じゃあ、何故、書類を持ち出したのですかっ!?」


ルードは取り乱した私の方を見ながら静かにゆっくりと言った。


「だって、?」


「ロイド、気付かなかったのか?回収した書類には付け足したり修正された箇所があったんだよ。」
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