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イケアの街と面倒事

食べ物で絆された訳ではない、はず。

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ラリーはひとしきり笑った後、部屋の隅に置かれたチェストの様な家具の方に立ち上がって歩いていった。


「高貴な身分のお嬢様には口に合わないかも知れないけど、腹の足しにはなるぜ。」


戻ってきたラリーは丸い重箱のような形の木箱の蓋を開けながら言った。


「何か勘違いしているのかも知れないけど、私は高貴な身分じゃ無いし商会を作っただけの平民だし。」

誤解はきっちり解いておいた方がいい。彼に依頼した人は私を何処かの貴族のご令嬢だと思って身代金目当ての誘拐を依頼したのかも知れないから。


「そうなのか?どう見ても何処かのご令嬢だろ。ただの平民がピレネー子爵邸に賓客として滞在してんのもおかしいしどう見たって平民にゃ見えないぞ。」


うーん、この髪色か瞳の色か。ずっと淑女教育を受けていた訳じゃないから、所作はよくて裕福な商人の娘ぐらいだと思うのだけど。


「いえ、本当に(今は)平民ですから。ところでそれは何ですか?」


お腹空いたと自覚したらもう無理だよね。取り敢えず何か食べたい。食べてからこの状況の打開策を考えたい。食い意地はってるみたいになってるけど、空腹だと思考も鈍るんだよ。


「あぁ、これ?これはククリの実を潰して小麦粉と混ぜて焼いたやつ。割と美味いし腹持ちもいい上に日持ちもするから非常食代わりに良いんだぜ。」


ラリーはそう言いながらクッキーの様なそれを一つ手に取って自分の口に入れた。


「ククリの実?でもあれは食べれないんじゃ、、、。」


ククリの実と聞いてふと浮かんだのはどんぐりのような木の実だ。確かすり潰して薬か何かに使われる事もあるみたいだけれど、兎に角苦いらしい。それぐらいの用途しか聞いた事のない木の実だった。


でも、もしかしてラリーはそれを知っていて、大丈夫だと示す為に先に口に入れた?


「あぁ、そうらしいな。けど俺の居た村じゃ食う物に困るとこれを食べてたんだ。村の先にある森にククリの木がいっぱいあってさ。

村の土地じゃあまり作物は取れないし他には何も無い村だったよ。

それでも腹は減るだろ?子どもでも簡単に確保出来る食べ物がククリの実だったんだよなぁ。親たちも『腹が減ったらククリを食っとけ。』とか言うんだ。苦くて子どもには特に不評だってのに。」


苦労話を始めた割にはなんかちょっと嬉しそうに村の話をするよなぁ。まぁ、生まれ育った場所って思い入れがあるよね。

「苦いのは嫌だからガキの頃に色々試してみたんだよ。それで苦味や渋味を取る方法を見つけて、調理法も色々考えたんだぜ?その中じゃこれが一番オススメだ。ほれっ。」

そう言ってラリーは私の目の前にククリクッキー(仮)を一つ取って差し出した。


いや、目の前に差し出されても手を縛られてるしぃ。これ、そのままパクつけばいいの?

なんか恥ずかしくない?


でもそれ以外食べる方法無いよね?もう差し出してるしなぁ。


えぇぃっ!


思い切ってそのまま差し出されたククリクッキー(仮)に顔を寄せてパクついて一口で全部口の中に入れた。


んんっ!美味しいっ!


なんだろ?クッキーというよりはカ○リーメ○トとかちょっと固くなったカ○トリーマ○ムみたいな感じ?

ククリの実を砕いて練り込んてあるから食感もしっかりあるんだけど、確かに苦くないしほんのり甘みもあって美味しい。
これ砂糖を使って無いよね?ククリの実って苦味を取ると甘くなるの?それとも別の何かも入っているのかなぁ?


「おぉっ!思い切りがいいなぁ。ちょっと口の中がパサつくけど、少し甘味があって美味いだろ?」


得意げにそう言いながらラリーは次のククリクッキー(仮)を差し出してくる。


本当、この人なんなの?誘拐犯の割に全然怖く無いし足が見え無い様に配慮してくれたり確認取ってから体を動かしてくれたりの気遣いが全く悪い人に見えないんですけど。

お腹空きすぎて『食べ物くれる人はいい人』補正が入って判断力が鈍ってるのかな。

次から次へと差し出されるククリクッキー(仮)をパクついて食べてる私って餌付けさてちゃってる!?




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