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イケアの街と面倒事
それは幸運な出会いだった、のか? side ロイド
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「随分と温室の方で賑やかな声がしていたな。」
朝食後、あの2人と話をした後は、これからの事で方々に指示を出したり、通常の業務に追われていた。
昼前にセバスが執務室に戻ってきたので、何か問題でもあったのか、と確認をしてみた。
「・・・・はい、ティアナ様が、、、あの方は本当に元貴族令嬢なのでしょうか?」
少し間を置いてから、珍しくセバスが続ける言葉に迷っている。ピレネー子爵家の執事であり『王家の影』のような、当家の裏の仕事も担っているセバスは、冷静沈着を絵に描いたような男だ。
その彼が困惑した表情を浮かべて、言いあぐねているとは一体、何があったんだ?
ティアナ嬢とクリス殿。昨日、乗り合い馬車で出会った時に、すぐに今抱えている問題が頭をよぎった。
彼らの力を借りなければ、と。
何の根拠もない、いつものただの勘だ。
2人は冒険者がよく着ているフード付きマントに冒険者スタイルだった。クリス殿は兎も角、ティアナ嬢の方は真新しい服で、流石に冒険者には見えなかった。そして2人とも顔を隠す様にフードを被っていた。
だが2人とも隠していても、妙に目を惹く雰囲気があった。事実、クリス殿は鼻から下しか見えていなかったが、十分に整った顔立ちだろう、と察せられる整った鼻筋と口元をしていた。
ティアナ嬢の方もフードは被っていたが、ミリアとサミュエルと話すにあたって失礼だと思ったのか、フードを取ってしまっていた。
その時にクリス殿が呆れたような視線を送っていたのを彼女は全く気づいていないようだった。
フードを外した瞬間、ミリアも一瞬、戸惑った様子だったが、すぐに表情を戻していた。
本人は自分がどのように他人から見られているのか、全く分かっていないようだったが。
本当に、どう見たって冒険者には見えないだろう!
貴族令嬢に比べたら、やや傷んでいる髪だが、それでも輝くような金色の髪と宝石のような翠色の瞳は平民ではまずあり得ない。
ただのお忍びなら、わざわざここまで服装を徹底する必要はない筈だ。容易に訳ありだろう、と察しがつく。
クリス殿は、『乗客たちには全く興味は無い』とばかりに外の景色ばかり見ているが、時折ティアナ嬢を気にしている事は隣にいて見てとれた。
そして、どうやら彼の経験からなのか、私やセバスの事も気にかけているように感じた。
前日にある情報が入った事で、乗り合い馬車に乗る事に決めたが、それでも不安が残る。
本当にこの馬車で大丈夫だろうか、と不安と緊張もあったが、それでも何事もなく時間は過ぎ、無事にイケアに辿りつける、とホッとしていた時だった。
突然、馬車が大きく揺れて、落ち着きを無くした馬の先には、前方でピレネー家の馬車がオークに襲われていた。
そこからは驚きの連続だった。ティアナ嬢の魔力と魔法を使う姿、ウェストポーチから長剣を取り出し戦うクリス殿、あり得ない場所から物を取り出すティアナ嬢、そして魔物が馬車を襲うように意図的に仕掛けられていた魔香。
馬車が再び動き出す前には、今後の事を考え、『どうやって、あの2人を引き留めるか』を素早く考えて実行した。
我ながら、強引な手段だったと自覚もしている。
「温室でサミュエル坊っちゃまが散髪をしていたのを見て、同じ長さに切ってくれ、と理容師に言っておりました。」
「は!?」
セバスの言葉に気持ちを引き戻されたが、聞こえてきた突拍子もない内容に驚くしか無かった。
「何故、いきなり・・・。」
「ええ、本当に、いきなりでした・・・。」
セバスの口調に、サミュエル以外の人間の驚く姿が容易に想像できた。
「ちょうど良かったそうですよ。バッサリ切る予定だった、と言っておりました。」
確かにあの髪の長さではこの先、平民として過ごすには目立ち過ぎる。
だが、通りがかりに、いきなり髪など切るものでもないだろう?
しかもサミュエルの髪の長さなど、平民の女性でも珍しいぞ。
結局、目立つだろうが!本当に自分の容姿に頓着ないなっ!
「まぁ、全員で全力でお止めして、肩下10センチ程度の長さで妥協して頂きました。」
・・・結局、切ったのか!躊躇なさすぎだろ。
「その後、『屋台を修理したいので、大工か工房の者を呼んで欲しい』、『後で料理をしたいから厨房の利用を許可して欲しい』、とお願いされました。」
「屋台・・・・。」
料理はまだ分かるが、屋台って、何だ?
「はい、屋台です。庭の隅に置いてありますが、ボロボロの屋台でした。」
心なしか、セバスが遠い目をしている。
「・・・・ボロボロの屋台、か。」
「どうやら修理して、何か販売したりするそうですよ。」
「はっ?何かを売る?ティアナ嬢がか?」
売るって何を?
どうして、そんな事を?
聞けば聞くほど、意味が分からない。
「どうやらティアナ嬢は、自分で商会を立ち上げて商人として生きていくそうです。」
「商会、、、、商人?」
・・・・・俺の勘の上を行く、予想のつかない存在なのかも知れないな、ティアナ嬢は。
朝食後、あの2人と話をした後は、これからの事で方々に指示を出したり、通常の業務に追われていた。
昼前にセバスが執務室に戻ってきたので、何か問題でもあったのか、と確認をしてみた。
「・・・・はい、ティアナ様が、、、あの方は本当に元貴族令嬢なのでしょうか?」
少し間を置いてから、珍しくセバスが続ける言葉に迷っている。ピレネー子爵家の執事であり『王家の影』のような、当家の裏の仕事も担っているセバスは、冷静沈着を絵に描いたような男だ。
その彼が困惑した表情を浮かべて、言いあぐねているとは一体、何があったんだ?
ティアナ嬢とクリス殿。昨日、乗り合い馬車で出会った時に、すぐに今抱えている問題が頭をよぎった。
彼らの力を借りなければ、と。
何の根拠もない、いつものただの勘だ。
2人は冒険者がよく着ているフード付きマントに冒険者スタイルだった。クリス殿は兎も角、ティアナ嬢の方は真新しい服で、流石に冒険者には見えなかった。そして2人とも顔を隠す様にフードを被っていた。
だが2人とも隠していても、妙に目を惹く雰囲気があった。事実、クリス殿は鼻から下しか見えていなかったが、十分に整った顔立ちだろう、と察せられる整った鼻筋と口元をしていた。
ティアナ嬢の方もフードは被っていたが、ミリアとサミュエルと話すにあたって失礼だと思ったのか、フードを取ってしまっていた。
その時にクリス殿が呆れたような視線を送っていたのを彼女は全く気づいていないようだった。
フードを外した瞬間、ミリアも一瞬、戸惑った様子だったが、すぐに表情を戻していた。
本人は自分がどのように他人から見られているのか、全く分かっていないようだったが。
本当に、どう見たって冒険者には見えないだろう!
貴族令嬢に比べたら、やや傷んでいる髪だが、それでも輝くような金色の髪と宝石のような翠色の瞳は平民ではまずあり得ない。
ただのお忍びなら、わざわざここまで服装を徹底する必要はない筈だ。容易に訳ありだろう、と察しがつく。
クリス殿は、『乗客たちには全く興味は無い』とばかりに外の景色ばかり見ているが、時折ティアナ嬢を気にしている事は隣にいて見てとれた。
そして、どうやら彼の経験からなのか、私やセバスの事も気にかけているように感じた。
前日にある情報が入った事で、乗り合い馬車に乗る事に決めたが、それでも不安が残る。
本当にこの馬車で大丈夫だろうか、と不安と緊張もあったが、それでも何事もなく時間は過ぎ、無事にイケアに辿りつける、とホッとしていた時だった。
突然、馬車が大きく揺れて、落ち着きを無くした馬の先には、前方でピレネー家の馬車がオークに襲われていた。
そこからは驚きの連続だった。ティアナ嬢の魔力と魔法を使う姿、ウェストポーチから長剣を取り出し戦うクリス殿、あり得ない場所から物を取り出すティアナ嬢、そして魔物が馬車を襲うように意図的に仕掛けられていた魔香。
馬車が再び動き出す前には、今後の事を考え、『どうやって、あの2人を引き留めるか』を素早く考えて実行した。
我ながら、強引な手段だったと自覚もしている。
「温室でサミュエル坊っちゃまが散髪をしていたのを見て、同じ長さに切ってくれ、と理容師に言っておりました。」
「は!?」
セバスの言葉に気持ちを引き戻されたが、聞こえてきた突拍子もない内容に驚くしか無かった。
「何故、いきなり・・・。」
「ええ、本当に、いきなりでした・・・。」
セバスの口調に、サミュエル以外の人間の驚く姿が容易に想像できた。
「ちょうど良かったそうですよ。バッサリ切る予定だった、と言っておりました。」
確かにあの髪の長さではこの先、平民として過ごすには目立ち過ぎる。
だが、通りがかりに、いきなり髪など切るものでもないだろう?
しかもサミュエルの髪の長さなど、平民の女性でも珍しいぞ。
結局、目立つだろうが!本当に自分の容姿に頓着ないなっ!
「まぁ、全員で全力でお止めして、肩下10センチ程度の長さで妥協して頂きました。」
・・・結局、切ったのか!躊躇なさすぎだろ。
「その後、『屋台を修理したいので、大工か工房の者を呼んで欲しい』、『後で料理をしたいから厨房の利用を許可して欲しい』、とお願いされました。」
「屋台・・・・。」
料理はまだ分かるが、屋台って、何だ?
「はい、屋台です。庭の隅に置いてありますが、ボロボロの屋台でした。」
心なしか、セバスが遠い目をしている。
「・・・・ボロボロの屋台、か。」
「どうやら修理して、何か販売したりするそうですよ。」
「はっ?何かを売る?ティアナ嬢がか?」
売るって何を?
どうして、そんな事を?
聞けば聞くほど、意味が分からない。
「どうやらティアナ嬢は、自分で商会を立ち上げて商人として生きていくそうです。」
「商会、、、、商人?」
・・・・・俺の勘の上を行く、予想のつかない存在なのかも知れないな、ティアナ嬢は。
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