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南の街、イケアに向けて

村の子どもたちと話をしよう

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「見れば分かるだろっ!川が綺麗なだけの何にも無い村だから、若いやつは成人になると村から出て働きに行っちまう。

親父たち大人だって街に出稼ぎに行ったり朝から夜遅くまで森に入ってる。隣の村にも働きに出てる人も居るんだ。昼間居るのは年寄りと女子どもだけなんだよっ!」


「トール、怖~いっ。」

「トールったら何怒ってるの?」

「あのね、トールは村長さんの子どもなんだよー。」


トールと呼ばれた男の子の投げやりな言葉と温度差のある女の子たちの言葉。トールは若い人たちがどんどん居なくなるこの村でどうにかしたくて頑張っていたんだろうなぁ。

でも思うようにならなくて、その気持ちを周りには分かってもらえなくて余計にやるせない気持ちになってるのかもなぁ。


「川が綺麗って誇れる事だと思うよ。」


私はトールに向かって話しかける。

この世界ではそれは結構普通の事なのかも知れないな。でも環境破壊や自然が汚染されてから慌ててなんとかしなくては、なんて大騒ぎしている世界もあるんだよ。


「川が綺麗でも何の役にも立ちゃしねぇよ。」

ソッポを向くトール。きっと当たり前すぎて気付かないんだろうなぁ。


「川が綺麗なら魚はたくさんいるんじゃない?綺麗な川で泳ぐ魚って美味しそう。」


昔、食べた鮎の塩焼きの味を思い出して言ったら


「そうそう!あの川で取れる魚は美味しいよ!毎日食べてたって飽きないもんっ。」


いつの間にか冒険者の所から戻ってきた赤髪の男の子が笑って答えた。そうだよねぇ、取れたての新鮮な魚ってだけで何もしなくても美味しいよね。


「じゃ、それを立ち寄った馬車のお客さんに出すと良いかもね。木の枝に刺してちょっと塩振ったのを乗り合い馬車が停まる近くで焼けば良い匂いに釣られて冒険者や男の人は食べたくなるんじゃない?」


「・・・そんな簡単に売れるかよっ。」


ちょっと考えながらそれでも否定的な言葉を吐くトールは彼なりに努力してダメだった経験がたくさんあるのかも知れない。


「うん、商売って簡単じゃないよね。でも川で魚を取ってくるならお金も掛からないし君たちでも出来るでしょ?罠を仕掛けておけばずっと川にいなくてもいいしさ。」


この世界に鰻っているのかな?確か鰻を捕る仕掛けって編んだ籠だか壺みたいなのを川に沈めてなかった?あれは御伽噺の話の中だけ?

でも石とか竹を使った仕掛けで魚を捕る方法もあったよね。この世界でもやっていそうな気がするけど。


「うん、俺、魚釣り得意~。」

「俺の方がケンよりも得意だよっ。」


男の子3人がわちゃわちゃと言い合っている姿は可愛いなぁ。やっぱり女の子たちに比べると相応というか精神的に幼いよね。


「あぁ、私、焼きりんごも好きだなぁ。魚を人前で齧り付くのはちょっと恥ずかしいかも知れないけれど、果物なら甘い匂いに釣られて食べたくなるかも。」


バターを乗せた焼きりんごを想像して顔がニヤける。

「りんごなんてこの村の周りじゃ取れないよ。木苺が春に取れるくらいだよね~。」


女の子たちが顔を見合わせながら笑って言っている。ホラ、やっぱり何かあるじゃない。森が近くにあるなら色々あると思うんだよね。植物も動物も。


「あら、木苺もいいじゃない!ジャムにしても良いし焼き菓子なんかに混ぜてもいいかも。果物自体に甘味もあるだろうからねぇ。

それに綺麗な川って水も冷たそうだし川の水でキンキンに冷やした木苺って美味しいんじゃない?

あ、冷やすと野菜もきっと美味しいよね。キュリやトマトを川で冷やして胡瓜は細い棒に刺して出したら食べやすくて良いかもよ?」


うん、お祭りで冷えた胡瓜って意外によく売れるよね。トマトは種の汁が飛び出たりするから女性向けではないかも知れないけど。


「野菜かぁ。俺んち野菜はじゃがいもと大根しか作ってないしなぁ。」


ケンと呼ばれていた男の子がつまんなそうに言う。


「あらっ、じゃがいもってみんな大好きな野菜じゃない。じゃがいもを蒸してバターをのせて熱々の内に食べたら美味しいじゃない。バターが無かったら塩だって美味しいし。」


これも祭りの屋台の定番だよね。この世界ではそういう食べ方をしないのかな?


「蒸すって何だ?」


あれ、この世界蒸す調理法って無いのかな?よくわからない。勉強不足だわ。


「蒸すって、うーん、お母さんたちに聞いて知らなかったらじゃがいもを4等分ぐらいに切って茹でて作ってもいいよ。」


「そうか、茹でて出してもいいのか。」


ケンがちょっと嬉しそうな顔で呟く。


「あ、料理とか火を使うのは誰か大人に見てもらって練習してからじゃないとダメだよ。あと、よく洗ってから出すとか生焼けにならないように気をつけてね。」



火傷とか怪我しても困るし食中毒とかも怖いからね。


「お姉ちゃん、何かすげぇなぁ。いろんな事が出来る気がしてきたっ!」


黒髪の男の子が目をキラキラさせて私を見てくる。純真無垢な瞳は眩しいっ!なんか過大評価されてそう。


「でも魚も野菜もいつも手に入るとは限らないんじゃないか?」


他の子たちと違ってトールの瞳には他の子たちには無い真剣さが感じられた。


「うん、そうだね。でもたくさん考えたら解決策も他の案もあるんじゃない?」


「他の案?」


「そう、1つの売れる物に頼ると何かあった時に困るよね。だから売れる物をたくさん考えて準備すればいいんじゃない?」

この子にとって馬車のお客相手に稼ぐ事は子どものお小遣い稼ぎでは無いんだろうな。


「例えば、私は初めて南の街に向けて旅をしてるんだけど、馬車に乗っているうちにだんだんと暑いなぁ、って思っていたの。カントに居た時よりも汗ばむ感じがしてる。馬車の中なんて特にね。

だから、ほら、あそこに座っているお婆さんが使っている扇かな?ああいうのがあるとちょっと涼しくなって体も楽になるなぁ、って思うよ。」


「アン婆ちゃんが使ってるの、森に落ちてるボーボー鳥の抜けた羽で作ってるやつだぜぇ。」

何でもない事だというように男の子が隣の子を見ながら言った。


ボーボー鳥?何かちょっと実物を見てみたくなるんだけど!


「そうそう。この前、ジムと俺でたくさん拾ってきたんだよな。どっちの羽が綺麗か競争したんだ~。」


ケンがジムと呼んだ黒髪の男の子を指差してニカっと笑う。


「確かに綺麗な羽だねぇ。あんな感じで作って売ったらいいんじゃない?小さな子どもが馬車に乗ってたら羽のままでも欲しがりそうな綺麗な羽だもん。」


そう言ったらケンもジムも「えっ?あれが売れるの?」って顔見合わせてる。いや、意外とそういうモノって観光地で売っていたんだよ。貝殻とかさ、石や砂だって売り物になるぐらいだし。


「馬車のお客さんが冒険者や一般の人でも、男か女かでも欲しい物って違うと思う。

そういうの関係なく誰でも欲しいと思う物だってあると思うよ。

だから相手が何を欲しがっているかよく考えて観察して売り子をすると良いと思う。」


そう言ってトールを見た。この先、トールが村をどうしていきたいか、どうやって村をよくしていけるのか、少しでも考える助けになれば良い。

『どうせ何もない村』だなんて他人にも、ましてや自分でも言わなくて済むように。


「因みに私は板張りの座席に3時間座りっぱなしでお尻が痛いの。この先、宿屋に着くまでずっと続くと思うと本当に辛いっ。

あのお婆さんが使っているクッションがあれば痛くなくなるかも。誰かお家に余っているクッション無いかな?もし有ったら売ってくれると助かるなぁ~。」


お尻を摩りながら言うと、子どもたちはハッとした顔になって家のある方向に駆け出して行った。残ったのは私とトールの2人だけになった。
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