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王女の婚約者 ルーカス・サロント
しおりを挟む予定通りというか、私が10歳の時に弟ミシェルが生まれた。それによって私は王太子代理となり、ミシェルは8歳になったら王太子となる事が正式に決まった。
私はミシェルが成人するまでは、王太子補佐として仕事を続ける予定だけど、学園卒業後はすぐにルカと結婚式を挙げる事が決まっている。
ルカから『絶対に変更出来ない大事な事だ』と強く言われたからだ。
私が王家とサロント公爵家の秘密を知ったのは、ルカが15歳になり、王都の学園に入学する時だった。
ルーカスからは、サロント家の教育が終わったから、学園に通いながら家の仕事の手伝いをすると聞いていた。
ある日、国王の執務室に呼ばれた。そこにはルカの父のサロント公爵も居た。
二人以外、部屋には誰も居らず、そこで語られたのは驚くべき事実だった。
サロント公爵家は『王家の影』として、代々、王家を陰で支えてきたのだという。
サロント公爵家は古くからの中立派の貴族で知られているが、重要なポストに付く事の無い、公爵家ではあるが目立たない存在だった。
しかしそれも敢えて、の事だったのだ。サロント公爵家には王家の血が薄くなり過ぎないように、2代~3代に一人は王家の男子と婚姻を結ぶ事が義務付けられているらしい。
そしてこの秘密は王家直系の男子とサロント公爵家直系の男子しか教わらない事なのだそうだ。
勿論、影として働く者たちはサロント家が『王家の影』をしている事を知っている。雇い主なのだから当たり前だろう。
しかし、影たちがそれを他人に洩らす事は無い。いや、出来ないらしい。
何故なら、影たちはサロント公爵家と誓約魔法の契約によって、外部に秘密を洩らさないように制限されているからだ。
誓約魔法、これは魔女が使える事の出来る古い魔法の一つだ。魔女の存在が絶え、魔法が使われなくなった今、この魔法を使用出来るのは王族の血を継ぐ者のみなのだそうだ。
だからこそ、サロント公爵家は王族の血が薄まらないようにしなければいけないのだ。
「今は王太子とはいえ、ミシェルが居るのに、何故、この話を私に?」
直系男子にしか伝えられていない話を私にしたのは何故だろうか。
疑問に思うのも当たり前だと思う。それとも私も誓約魔法とやらで契約させられるのだろうか?
「あぁ、大丈夫だ。お前に誓約魔法を使用するつもりは無いよ。」
お父様が安心しろ、とばかりに普段でも滅多に見せない優しげな表情で言った。
「サーシャ様は、ルーカスから家の仕事を手伝うとお聞きしたでしょう?」
国王の椅子に座っているお父様の隣に立っていたサロント公爵が微笑みながら言った。
もしかしたら、それも聞いてはいけない事だったのかしら?
「いえ、大丈夫ですよ。ルーカスからも報告は受けていますし許可も出しています。何より、お二人は4年後には結婚する予定なのですから。」
結婚の話を口にした時だけ、サロント公爵の顔が引き攣ったように見えたのは気のせいだろうか?
私は王太子補佐を降りるのを待ってからの婚姻でも良い、とルーカスには伝えていたのだけど。
「いえいえ、結婚については何の問題も無いのですよ。私たちもサーシャ様がルーカスの伴侶となって頂ける事を大変感謝しているのです!」
私はそんなに顔に出していたのかしら?サロント公爵も慌てたように仰っているわね。
「ん、コホンっ。兎に角、サロント公爵家は王族にとって大事な家なのだ。
まぁ、このご時世だ、『王家の影』と言っても謀叛の企みや不正を調べる諜報活動が主な仕事だが。」
確かに今は諸外国との関係は良好で、戦の話などは国外で多少の内乱はあれど、100年ほどは戦争も起こっていない、と歴史学でも学んだ。
それでも直系のサロント家は、今も男子は皆、表では普通の貴族として過ごし、裏では影の仕事も兼任している。
嫡男は『王家の影』のトップとなる為に、実戦の技術はそこそこに、頭脳面の能力と話術などの教育を施される。
そして二男以降は実戦と諜報活動を主に、現場のリーダー的役割をするらしい。
という事はルカも実戦に出るという事なの?
「そう、ルーカスも現場に出る。まだ学生の身だから出来る事は限られるがな。それにルーカスはお前と結婚したら現場を離れる予定だ。
お前に爵位が与えられたら当主はお前だ。その補佐と護衛をするのがルーカスの主な仕事となるんだ。」
でも、王配なら兎も角、当主の補佐や護衛でルーカスに不満は無いのかしら。
「ルーカスの希望でもあるので、本当にサーシャ様が気にする事は無いのです。寧ろ、、、。」
サロント公爵が最後に言いかけて止める。
随分と私に配慮してくれているけれど、何故、そんなに私に気を使うのかしら。やはり王女だから?
「まぁ、兎に角だ。ルーカスはお前の伴侶になるのだから、王家とサロント公爵家の関係についても知っておいた方が良いと思ったんだよ。ルーカスが仕事を始める前にな。」
こうして私は王家とサロント公爵家の秘密を知った。お父様たちは諜報活動が主だから血生臭い仕事はそうは無い、と言っていた。
けれど、、、、早くから実戦の為の技術を磨いていたという事は、それなりに危険な仕事はあるのでは無いだろうか?
私はルカが怪我をするのも、誰かを手に掛ける事があるかも知れないのも嫌だった。
お父様たちはそこのあたりは濁していたけれど、代々続く『王家の影』が存在しているという事は、少なからずそういう事だってある筈だ。
「ねぇ、ルカ。お父様たちから家の手伝いの話を聞いたの。私、ルカが怪我したりルカが手を汚す事をして欲しくないの。」
私はお父様から話を聞いてすぐに自室にルカを呼び出した。勿論、人払いをして。
「サーシャ?そんなに僕の心配をしてくれているの?」
私の自室に呼ばれたルカは、部屋に人が居ないコトに驚いて何故だかソワソワしていたけれど、私の言葉に目を丸くしていた。
「当たり前じゃない!ルカが怪我するのも、誰かの命、、、血を流すのも見たくないよ。」
一瞬、脳裏に初デートの時のルカの姿がよぎったのは内緒だ。
ルカには誰かを殺して欲しくない。傷つける事にも慣れて欲しくは無かった。
『王家の影』存在を知り、それを容認している、私の身勝手な願いではあるけれど。
「サーシャ。僕の心配をしてくれてありがとう。危ない事はなるべくしない。人を殺めないし仲間にもさせない。
約束するよ。僕が血で汚れるなんてヘマはしないだろうけど、、、、。」
最後の方の言葉が聞こえなかったのは、ルカにぎゅっと抱きしめられたからだ。抱きしめられて、初めて部屋には二人きりだった事を思い出して急に恥ずかしくなってしまった。
それがルカにも伝わったのか?ルカは私の顔の至る所に口付けをした後、王宮の庭園を散歩しよう、と私を部屋から連れ出してくれた。
ルカが学園を卒業後に、私にはミランダという護衛兼専属侍女が付いた。彼女は勿論、サロント公爵家の影だ。彼女は私がルカと結婚しても侍女として側に居る為に配属されたのだ。
ある時、何の話をした時だったか、ルカに『ルカの手を汚して欲しくない』と言ってしまった話をしてしまった。
恥ずかしがっている私にミランダは遠い目をして言った。
「ソウデスカ。ソウダッタンデスネ。
隊長が人を殺めない理由は、、、、。
私、世の中には死ぬより恐ろしい事があるなんて知らなかったんですよ、、、、。」
・・・・それ以上深くは聞いてはいけない、話よね?
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