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第36話 新しい旅立ちとやっぱり雑談

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 初めて大勢の視聴者を迎えた翌日。
 旅に出る準備は既に先日整えているので、今日は朝食を食べて昼の弁当を作ったらすぐに冒険に出発する予定である。

 今回は世界樹もどきとは垂直の方向にまっすぐ行った後は、興味の赴くままに好きな方向に行ってみようと思っている。
 以前は場所を見失わないようにと、遠くに気になるものがあってもそちらへ足を進めることは無かったのだ。

「よし、出来たぞロボ」

 今日は豪勢に、アニメに出てきそうなミートボールがたくさんのっかったスパゲティを作った。
 ロボの分は大きな鍋一杯分の特大サイズだ。
 まあ豪勢とはいうものの、ロボが大体毎日何かしら狩ってくるので毎日肉はそれなりな量食べているのだが。

 それを食べ終えたら、大量に炊いた米をおにぎりにする。
 そしてそれとは別に焼いた大量の肉に焼き肉のタレをかけていためる。
 もうこれだけでたまらない匂いがする。

 後はそれぞれに容器に入れて、容器に保存の魔法陣を書いて魔力を通しておけば、昼までいたむことのない弁当の完成だ。

「おわっ! ロボ、これは昼飯! 今食ったでしょうが!」

 俺がおにぎりを包んで袋に詰めようとしていると、ロボが鼻で肉が入った容器を突いていた。
 全く、油断も隙もない奴である。
 
 なお、朝からずっと配信はつけっぱなしにしているので、この光景は生配信で地上のお茶の間に流れている。

 :完全にペットじゃん
 :うちの犬もあんなんだわ……
 :あのサイズなのに萌えてしまった
 :でっかい犬、良いな!

 概ねロボは好評である。
 まあよほど動物嫌いの人じゃないと、人間を嫌うことは出来ても動物を嫌って攻撃的なコメントを書くのは難しいからな。

 その後荷物をロボに背負ってもらって俺も槍といっしょに担いで、出発の準備は完了だ。

「よし、それじゃあいってきまーす」

 :いってらっしゃい
 :気ぃつけてな~
 :いてらー
 :まあドローンもついていくんですけども

「そらそうね」

 決めた方角への道をのんびりと歩き続ける。
 ついでにせっかくなので、今回はドローンを高高度に飛ばして、空からの風景が見えるようにしてみた。

 :うわ、大自然だ……
 :あそこにいるの、世界樹に行った時のでかいのじゃね?
 ;こうやってみるとモンスターはダンジョン程多くないのか
 :所々に群れがいる感じか
 :凶暴なのはおらんのかね

「攻撃的なモンスターは、どうもあのダンジョンからの出口付近に近づかないみたいでな。だから俺もあそこに拠点をおいてるんだけど。だからこの前世界樹のドラゴンに近づかれたときはびっくりしたわ」

 :あれは確かにびっくりする
 :むしろびっくりしてないように見えたわ
 :人型になるドラゴンとか、まさにファンタジーだなあ。
 :あの後あのドラゴンさんとはなにか無いの?

「無い無い。またそのうち会いに行って色々聞いてみたいとは思ってるけど」

 そんな話をしながら道を歩いていく。
 今回は長い道のりだが、コメントがたくさん来ることで話が意外と途切れる暇が無い。
 その中で、気になるコメントを見つけた。

 :あ、そう言えばアメリカで探索者が深層突破したらしいよ
 :日本も追いつくために大規模なパーティーで挑むって。その中にあの二人もいるらしいよ
 :流石に実力不足だと思うけどねえ
 :それが最近メキメキ実力上げてるんだよなダンスタ全員

「ちょっと待って、あの二人って誰? 俺が知ってる人の話だよな?」

 その内容に心当たりが無かったので、ちょうど話の途中だったが中断して、その一連のコメントの方へと話を向ける。

 :名前出しても良い感じ?
 :この人配信のコメント欄でしか情報のやり取り出来ないし良いんじゃない?
 :雨空かなたと八条寺茜。ジョンが助けた二人組

「ああ、その二人か。ってえ、あの二人もう深層に挑めるレベルになったのか?」

 メチャクチャなレベリングと自己強化が出来る俺と違って、普通の探索者は地道にモンスターと戦って戦う方法を練習してスキルとレベルを挙げていくしか無い。
 その中で、当時は下層ソロも若干怪しそうだった二人がこの二週間かそこらもない短い期間で深層に挑めるレベルまで鍛え上げてきたというのは相当に厳しい環境に自分たちを追い込んだのだろう。

「いやー、そうか。なるほどねえ」

 さて、ここで少し悩む。
 おそらく彼女らがそれほどまでに爆発的に成長したのは、強い意思と厳しい環境、命のかかる状況が噛み合った結果だろうという推測は出来る。
 だが果たして俺はここでこれを口にしても良いものか。

 それはつまり、強くなりたい者たちに『死にそうになるぐらい追い込めば成長が早まるよ』と伝えるということだ。
 それでうまく成長してくれるならばそれでも良いが、下手に死地に追い込むような真似は若干気が引ける。

 が、やはり俺にはそんなことは関係ない。
 俺の望みは、一人でも多くの探索者がダンジョン内に拠点を築き、このダンジョンの先の世界に到達し、ここにも拠点を築いて生活を始めることだ。
 故に、その過程で探索者がいくらか命を落としたところで俺が知ったことではない。
 何よりちゃんと注意喚起はするし、それでもやろうという奴らがやって強さを得てくれればそれで良いのだ。

 ということで、雨宮かなたと八条寺茜、もう俺の中では思い出になりかけていた二人が強くなったからくりについて話すことにする。

「二人がそこまで強くなった理由について心当たりがあるけど、聞きたい人いる?」

 :聞きたい!
 :そりゃ探索者なら全員そうなんじゃ?
 :もしやなにかポーション系のアイテムあげたのか?
 :むしろ聞きたくない人がいないのでは?
 :なんかコツがあるのか!?

 うん、大体全員が聞きたがっているようで安心した。
 これなら伝えた俺に否はない。
 まあもともと伝えた方法を使う決断をするのは使う本人なので俺が気にすることではないのだが。

「一つ目は、少しでも強い相手に挑んだことだろうな。これは考えればシンプルな話で、強さ5の相手と強さ10の相手のどっちと戦えばより成長できるかって話。ついでに言えば、自分より格上の敵だと成長幅は更にでかい」

 :いや、それはちょっと
 :理屈はわかるけどそれは無理だろ
 :命は惜しいので……強くなりたくはあるけど
 :安定して強くなれるならそっちで良いやってなるな
 :格上挑戦はしないけどそれなりの相手と戦ってみるか

 ここで昔の視聴者が少数だった頃の視聴者たちなら、もっと前向きになんとか格上の敵をうまく倒す方法を考えたりしてくれるんだろうけどな。
 流石に俺が最初から言い続けて代わりつつあったあのレベルを求めるのは無理か。

「二つ目は意思の強さ。強くなりたい、って気持ちの強さだな。これ、不思議な話だけどほんとなんだよな。三つ目の、自分を如何に危険な状況に追い込んでそれに抗うか、っていうのともかかってくるけど、スキルのランクとか個人のレベルって、一定ごとに壁が存在してるんよ。そんでそれを地道に乗り越える人も居れば、一発でぶっ壊す人も居る。そんでその後者は大体、より厳しい状況、命がかかった状況で、『やられてたまるか』『負けてたまるか』『死んでたまるか』っていう強い感情の発露があったときに起こるんだ。逆に前者だと、途方もない時間がかかるか、一生超えられない可能性もある」

 これは俺の経験則でもある。
 ここで負けたら死ぬ、こんなところで死にたくない、意地でも勝ってやる。
 そんな気持ちがスキルやレベルに乗っかって、限界を一つ乗り越えて強くなる。
 探索者というのはそういうファンタジーの世界に生きているものなのだ。

 :急に根性論みたいなことを
 :流石にそんなことはないだろ
 :それで強くなれるとしても流石に怖くてやりづらい
 :命賭けるってことは、それで限界を乗り越えるってイメージなのか
 :まさに命がけの成長って感じだな

「これは俺の経験則だから結構本気だぞ。それにちゃんと理屈もある。レベル100のやつが、いくらレベル1のスライム殴ったってレベルは上がらないだろ? レベル100からレベル上限という扉をこじ開けてレベル101になるには、相応の経験がいるだろ。それこそ死の淵からなんとか生還するとか、絶対勝てない格上を打倒する、とかな」

 以前、確か素材買い取りショップの店長にも言った覚えがある。
 そのときとは少しばかり言い方が違うが、今回も大勢に聞かせてやろう。

「探索者の諸君はさ、丁寧に丁寧に探索してるだろ。命を掛ける必要が無いように、自分たちでも倒せるモンスターを相手にしてさ」

 でも、そんなんじゃないだろ。
 冒険者っていうのは。

「命をかけて命の危機に抗うぐらいのことをしないと、肉体も、精神も、スキルも。一つの壁を乗り越えてはくれないだろ」

 :言いたいことはわかる
 :確かに安定して倒せるモンスターばっかり相手にしてるもんな
 :それが壁を超えにくくしてたってことか
 :いやでもそれで超えられないならそれでいいわ。流石に怖い
 :ジョンはそれを乗り越えたのか。

「俺は超えたよ。何回も超えてる。それにそもそもさ、俺は思うわけよ」

 ここからは完全な持論。
 でも間違えていない自信もある。
 それは、俺が幾度もの擬似的な死を経験して、そのたびにその死因に対する耐性を得てきたから。 

「探索者化するって、多分肉体が環境に適応するようになる、ってことだと思うんだよな。打撃を受けまくってると打撃耐性スキルが取得できるし、血流しまくってると出血耐性スキルとか失血耐性スキルとかが獲得できる」

 そう、そもそも耐性スキルのあり方自体が、それを示している。
 そしてそれはきっと、攻撃系スキルでも、敵に攻撃が効かないから、効きにくいからこそ、より通用するようにとスキルが適応しランクが上がる。
 
 そういう理屈が働いているのだと思う。

「ならさ、厳しい環境に身を置かないと、体はそれに適応してくれないでしょ。いつまでもぬるま湯の中にいたらさ」

 そして最後に付け加える。

ぬるま湯そこからいい加減立ち上がってみようや。冒険者諸君。このダンジョンは、君等が思う数十倍は、過酷だぞ。挑まなければ、乗り越えられない。そんな辛いことから逃げる子供みたいなままで良いんなら、いつまでも一人ぬるま湯の中で座り込んでいれば良いさ」 
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