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第29話 思い返してみても凄い

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 大量のベーコンガーリックライスを作りまくって、俺もロボもお腹一杯になったところでようやくポーチからドローンを取り出して浮かべた。

「はい、どーも」

 “配信放置して何してたん?”
 “なんか急いでたけど、なんかあったんか?”
 “ジョンさんはしゃいでなかった?”
 “後ろの白いのってロボか?”
 “待ちわびたぞ!”
 “おかえりなさい”
 “急いでたけどやばいことあったんですか?”

 しばらく配信を中断して放置したためか、コメントがいつもより多い。
 それを聞きつつ、俺はスマホで配信の設定を操作して変更した。

「その話の前に、以前から言ってた配信の制限解除したんでこれからは他にも人が来ると思います。まあやってくことは変わらないけど、人が増えたらコメント全部に返せるわけではなくなりそうなんで、それだけ理解しておいてください」

 思わぬ形で探索が終わってしまったが、有言は実行せねばね。
 

 “これは広めた方が良い感じ? それとも開放しただけで待ち?”
 “ぼちぼち広めて欲しい感じなの?”
 SNSとかにのせて良い感じなの?”
 “そもそも今情報提供に報酬出してるところもあるんだが”


 コメントを見る限り、俺が公開した意図とかそのあたりを明確にしておいてほしい、というのが視聴者たちの声のようだ。

「そのあたりも考えないとだめか。拡散についてはもうほんとに皆さんご自由にって感じだな。配信の視聴制限外したからどうせ見たい人は見つけるだろうし、遅かれ早かれよ。んで情報提供なあ……俺は別に貰ってもらって構わんけど、知ってたのに教えなかった、みたいな揉め事にはならんようにな」 

 俺は結局一人でここにいるし勝手にしてもらって良いけど、それで地上で揉め事が起きたりせっかく見てくれてる人たちが騒ぎに巻き込まれるのは不本意だ。


 “了解です”
 “今回の配信終わったらまとめて拡散しとくわ”
 “なんで隠してたのかとか言われそうだから匿名かなあ”
 

「まあそのあたりは任せる。というかぶっちゃけそこまで考えるのめんどいからもうなるようになれでよろしく」

 そんなところまで考えるために配信やってるわけでもないし。地上でまだ配信サイトで動画とか見ていたころは、何かしらの行動が原因で炎上したりとかはあったが、俺にとっては炎上したところでだからどうしたねんという話だ。

 俺の話す情報が欲しいのは地上の人たちなのである。

「で、とりあえず今回の探索の振り返りね。それやって今日は配信終わり。次回はまた飯の後にでも雑談配信してどうするか決めるって感じで」

 まあどこかに冒険に行くか、また武器の紹介するか、戦い方のレクチャーになるかどれかだと思うが。折角配信しているので、昔見つけた景色が綺麗なところに行ってみたりするのも良いかな。

「そんで、ドローンしまってから何があったかの話ね」


 “待ってました!”
 “それが一番気になる”
 “ジョンさんが急ぐって相当では?”
 “なんかモンスターが凄い数溢れてなかった?”
 

「うん、そう。まあ単純な話なんだけど。ユグドラシルにはニーズヘッグが住み着いてた、ってわけ。それで慌てて逃げ出したのよ」

 この言い回しちょっと気に入ったので、ちゃんと説明する前に使ってみることにする。まあ俺もファンタジーに憧れた少年の心を忘れられない男なので。
 
 それに、ダンジョンの先の世界で『世界樹ユグドラシル巨大な龍ニーズヘッグが住み着いている』事実が何を意味しているのか俺では判断がつかないが、情報が出回ることで多くの識者に考察してみてもらいたいのだ。

 この偶然の一致がただの偶然のなのか。あるいは故あってのことなのか。ただこの世界を探索するだけでなく、このダンジョンという存在そのものについても知りたい。俺はそういう方向には欲張りなのだ。


 “北欧神話か?”
 “中二かと思ったけどダンジョンそのものがファンタジーだったわ”
 “北欧神話において、世界樹にはニーズヘッグという邪竜が住み着いている”
 “住み着いてるっていうか噛み付いてるとかじゃなかったっけ”
 “え、そういうこと!?”
 “北欧神話がどうかしたんか?”
 

「いや、さっき考えてるときにこの表現思いついてな。ちょっと気に入ったから使ってみた。んでわかりやすく説明すると、あんとき世界樹に住み着いてたバカでかいドラゴンが動き出してたのよ。上の方に住んでるモンスターが一斉に飛び立ってたのもそいつの影響」

 多分あの巨大ドラゴンはずっと眠っていたんだろう。だから俺が大まかに気配を索敵したときは世界樹と一体化して感じられて気づけなかったし、世界樹に住んでいる他のモンスター達も普通に生活出来ていた。

 それが、目覚めた。


 “ドラゴン……ドラゴン!?”
 “普通にワクワクするんだが”
 “ずっと寝てたそいつが動いたからモンスター達が逃げ出してたの?”
 “本体見えた?”


「そうそ、ドラゴンが動き出したから他のモンスターが一斉に逃げ出してたみたい。いや、すごかったよまじで。アニメとかでさ、モンスターの群れが多すぎて遠くから見たら黒い虫の群れみたいに見えるのあるだろ? まじであんな感じだった」

 俺はあそこにいたモンスター1体1体なら余裕で倒せる自信があるが、あの数となるとちょっとわからん。魔法でまとめて巻き込みまくってどうんかなるかといったところだろう。
 
 ……いやほんとに。世界樹周辺の魔力他エネルギー豊富すぎないか? あの数のモンスターが詰まってるのなかなかにやばいぞ。

「動いてたモンスターの本体も見えたよ。ちょうど世界樹の生えてた穴から飛び出したところで振り返ったらバッチリ目があってな。結構きつい精神干渉系の魔法使われたなあれは。一瞬ひっかかりそうになってやばかったわ」

 いやほんとに。あれはやばかった。モンスターにも精神干渉系のやつは偶にいる。精神干渉系と言っても意のままに動かすみたいな便利なやつじゃなくて、武器を放棄して動く気をなくさせている間に捕食するとか、逆に頭の中に割って入って来て乗っ取ろうとしてくるとか。後は記憶の中の恐怖を読み取って真似しようとしてくるやつとか。そういう生態に根付いたような精神干渉をする奴らだ。

 結構やばめの奴らもいるが、これまで俺は防衛用の魔法陣を使ったり、分身を先見隊として派遣したりして実際に支配下に置かれたことはない。それが今回はあっさり防壁が突破されて飲み込まれそうになった。

 普通にビビった。
 てかあれ、これ、来てないか?


 “見た目、見た目!”
 “待って精神干渉系って言った???”
 “おっとまたやばい単語が見えたぞ?”
 “全部気になるからちゃんと説明しろください”
 

「わぁったわぁった。とりあえずモンスターの外見からな。まずドラゴンって言ってる通り顔はドラゴン系だった。ドラゴン系っても色々あるけど、嘴のあるドラゴンって感じ? 待ってな、せっかくだから資料に残す用にイラスト書きながら説明するわ」

 俺は記憶力は結構良い方だ。一旦小屋に戻って、大型のノートとシャープペンを持ってくる。ダンジョンに入ってからずっと使っている俺の愛用の道具達だ。

「あ、これ宣伝ってわけではないけど一応紹介しておくな。こっちがユポ紙っていうめっちゃ頑丈な紙で出来たノート。めっちゃ頑丈で濡れても破れないしそのまま書けるしで俺のお気に入り。小さいメモ帳サイズもあってダンジョン探索のお供に最適よ。で、こっちがシャーペン。芯が2ミリかな? これも頑丈なやつネットで探して買ったやつ。俺がダンジョンに入った頃はダンジョン内で使えるスマホとか無かったから、こういうの使ってたのよ。アナログで結構俺は好き」


 “おー”
 “こういう小道具も割と気になる”
 “メモ帳持ち込むとか真面目だな”
 “初期のダンジョン開拓にはこういうの使ってたんかな”


「んじゃ、書きながら説明するぞ」

 まずは俺が見た姿を大まかに描いていく。口は嘴というか、尖った口と言えば良いか。ウツボの口をもっといかつくした感じが一番近いかも知れない。そしてドラゴンという通り体表には鱗があり、また頭には角がたくさん生えていて冠のようになっていた。

 そして身体はよくあるファンタジーのドラゴンのどっしりしているタイプではなく、どっちかというと日本の龍に近い細長い身体に翼のような者が生えているのが見て取れた。

「こんな感じ? 本当に大雑把だけど。色合いは全体的に紫っぽかったな」


 “普通にイラストうまくて草生える”
 “なんで絵まで上手いんです?”
 “ここは絵がドヘタで盛り上がるところだろ……!”
 “細い系のドラゴンかあ。リヴァイアサン的な? 今調べてるけど”
 

「あー? リヴァイアサンのイラスト思い出せんや。もう10年は見てないしなあ」
「ほう? それがわしの絵か?」
「そうそう。似てない?」
「自分で自分を見たことはないな」

 さよですか。


 “え?”
 “は?”
 “は?”
 “誰?”
 “待っていつ来た?”
 “凄い静かに入ってきたぞ”
 “えジョン以外に人おったの?”


 ノートと筆記用具を机代わりの丸太の上に置いて後ろを振り返る。そこには、俺の肩越しに覗き込む無表情の女性の姿があった。
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