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第15話 死にゲー(ガチ)開幕

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「うあああああ歯が立たねええええ」

 転げ回って痛みの記憶をなだめつつ、先の戦闘を振り返る。
 
 いやまあシンプルに歯が立たなかったのだが、詳細の分析はすべきだ。

 まず第一に、速度が違う。なんだあの腕振り下ろすスピード。
 辛うじてが残像は見えたが反応は困難だ。普通の攻撃があんなスピードで来るとは思わなかった。
 もう少し威力偏重で速度は速いとは言え回避に徹すれば避けきれそうなものだと思っていたのだ。

 あの速度で攻撃が出来るならば、おそらく飛び退いたりの回避なども出来るだろう。
 そう考えると根本的な戦闘能力の差、技術とかではなく速度が全く違うと感じる。

 ファンタジー系の作品とかゲームをやっててずっと疑問だった。
 自分や相手のモンスターのレベルが上がってステータスが高くなったときに戦闘の速度はどうなるのだろうか。

 レベルが上がるほど高速化して、次第に音速に近づき、あるいは越えたりするのか。
 あるいは攻撃力的なものだけがあがって威力は高くなるが、速度自体はさほど変わらないのか。

 フロンティアではレベルが上がるほど速度帯が上がっていくのが正解らしい。
 まあ流石に音速に至るかはわからないが。少なくともだんだんとモンスターは高速化する。

「きつー……」

 あのモンスターが本気で動いているようには見えなかった。
 なにせ俺が近づいてからあいつは立ち位置を全く変えていないのだ。
 イメージ的にはまとわりつくハエや蚊を手で追い払ってるみたいな。

 つまり俺はハエ蚊と変わらないと。

「腹たってきた。絶対マラリア運んでやる」

 無謀な戦いなのだが、無謀に突っ込み続けるだけなのは違う。
 策を練って、試して、敵を知って。そしてまた策を練る。

 あのモンスターを倒すために出来る全力を考えねば。

「うし、とりあえず速度と行動に慣れるところからだな」

 写身を出して再び《バラティア諸島》に。
 今更思うが、一回大怪我して死んだ体験をしたのに立ち直りが早いな俺。
 いい感じに狂って来てる気がする。

 さっき森に入った方向を思い出してそっちに再び踏み込んでいく。
 同じ場所にモンスターが居続けるとは思わないが、まだ近くにはいるのではないだろうか。

 そんなことを考えながら10分ほど歩いていると、案の定またバキバキと木を押しのける音と草を踏みしめる音が聞こえてきた。

「索敵負けしてんな」
 
 鼻が効いているのか気配的なあれそれなのか知らないが、あのモンスターの方が先に俺に気づいている。
 これでは奇襲なんてものが出来ないが、気配を消すみたいなことが出来るのか、あるいはレベルが同じぐらいになってくると自然に同じぐらい索敵出来るようになるのか。
 もし猟師がやるみたいに気配を殺したりするなら、後でおじじに聞いてみよう。
 
 今度はあえて引き付けることなく、自分から走って移動してモンスターがどういう動きを取るか確認する。
 あんまり移動しすぎると他に冒険者がいたときになすりつけてしまう殺人行為になってしまうのでそこは気をつけつつ、音のする方向に対して垂直に20メートルほど移動してみる。

「こっち来てますねえ!」

 若干ふざけた台詞を吐きつつ、モンスターの接近に備える。

 そして音が目の前まで近づいた直後に、大きな物体が目の前の木々を飛び越えた。

「上か!?」

 思わず一瞬見上げてしまってから、そんな場合ではないと全力で回避行動を取る。
 
 こういう行動も、おじじなら無様に飛び込み回避するようなことなく一歩の踏み込みとかで避けてしまうんだろうか。
 まだおじじの強さははっきりとは知らないが、おじじならファンタジーでよくある縮地ぐらいしそうな凄みがあるのはこういうモンスターを相手してたのなら納得だ。
 
 勢いよく木をなぎ倒しながら着地したモンスターがこっちを振り返る。
 すぐに攻撃してこないのは、こっちを警戒しているというよりは弱いと知ってのことだろう。

「っし、今度はこっちから行くぞい!!」

 前回同様モンスターが口を開き始めたところで、俺は腰から斧を抜いてぶん投げ、次いで剣を引き抜いてモンスターへとダッシュした。
 
 ブレスもどきは駄目だ。何を吐き出しているのか知らないが、あれを離れたところからぶっ放されてはどうしようも無い。
 だからこそ斧で出だしを一瞬でも潰して接近する。
 ちなみに投げ斧と投げナイフはおじじのところでちょこちょこ練習している技術だ。

『GRRRUUAAA!!』

 モンスターが吠えている。シンプルにうるせえ。声がでかい。
 耳を抑えたくなるのを我慢しつつモンスターの足元まで接近する。

「でけえなおい……!」

 やっぱりでかい。モンスターの足による叩きつけを、足の力を抜いて身体を沈めることで躱す。
 さっきは急な攻撃で焦ってしまって力んだ動きをしてしまった。ただ力で回避したり踏み込むのではなく、脱力を交えて身体を動かす。
 最近ネットで調べてそれをやってみているのだ。全部おじじに聞くのは違うと思うのでね。


 さて、攻撃を辛うじて避けたところでどうやってこのモンスターを倒すかだが、まずは俺の持っている中で一番鋭いショートソード。
 これがあいつの腹に通じるかどうか試してみる。

 頭部付近では駄目だ。このモンスターは前脚の可動域と頭による噛みつき攻撃が強い。
 腹の真下あたりまで潜り込んで、思い切り剣を振るう。

「ですよねー」

 まあ5万の一番安い剣がこんな進んだエリアのモンスターに通用したら世話無いわな。
 もっと高い武器買って起こしやすということだろう。

 となると、普通に攻撃して殺せる可能性は無くなった。
 ならば次に狙うのは急所だ。

 前回の反省を活かして、尻尾の側からではなく側面からモンスターの身体の下を抜ける。
 出来るだけ体勢を低く、直後に頭上をモンスターの爪が横薙ぎにかすめた。
 
 いや危ないほんとに。
 攻撃が速いしサイズがでかいせいで近距離にいると見てから避けるのが難しい。今のもモンスターが振り向いたのでなにか来るかと警戒出来た程度だ。

「ふっ……! まじで速え……!」

 身体半分振り向いた相手を、更に旋回させるために尻の方に少しだけ移動する。
 叩きつけをサイドステップでなんとか回避して、そしてモンスターがこっちにわずかに顔を下げた。

 毛皮に攻撃が通らない。
 ならば毛皮が無いところを殴ればいいじゃない。

「もらったあっ!!」

 前脚を振り上げようとモンスターがちょうど動いた瞬間に、俺が突き出した剣がモンスターの顔に迫る。
 当然、モンスターは黙って攻撃されてくれるわけはなく、突き出した剣をガチりと歯で捉え、そのまま持っている俺ごと振り上げようとする。

 前脚が地面に踏ん張るために下ろされているのを見ていた俺は、今度は剣を手放さず、敢えて自分から地面を蹴って、剣を持つ腕が引っ張られるのに合わせて飛び上がった。
 
 さっきはここで剣を手放して噛み砕かれた。
 それでは駄目だ。何も戦況が好転しない。

 そして同時に、これはこのモンスターの口の中を攻撃するのは難しいことを示している。
 狙ったところで武器なり腕なりを噛み砕かれて終わりだ。

 だから、他を狙う。

「やっべ飛びすぎた!」

 だが得てして初めてやることはうまくいかないものだ。

 俺の想定としては、振り上げられて、ちょうどモンスターの顔面あたりに落ちてそこでナイフで目をえぐってやろうと思っていた。

 だがモンスターのパワーを見誤っていたらしい。
 気づけばかなり飛び上がって、モンスターの背中に落ちていた。
 
「うべっ……」

 頭の方から落ちそうになったので腕からうまく勢いを殺してモンスターの背中の上で転がりつつ着地。
 そしてここからでも頭部を狙ってやろうと不安定な背中の上を走り出そうとしたところで、足元がぐらりと揺れた。

 下手に踏ん張ることはせずモンスターの背中から転がり落ちつつ視線をやると、モンスターの背中の黒い毛皮の部分が何やら大きく盛り上がって、硬そうな膜のようなものが露出する。
 
 たまに恐竜の背中にある扇形のあれみたいな。

 そして俺が着地すると同時に、モンスターが開けた口をこっちに向けた。

 ブレスのチャージ用の器官かあの背中のやつ!
 
「やばっ」

 着地の衝撃でしゃがみ込む身体を左側に崩して、転がるようにして車線から逃げる。
 次の瞬間、とんでもない衝撃を足に受けて俺の身体は吹き飛んだ。

「あ゛あ゛っ゛!!」

 足が燃えている。何が起きているのかと身体を動かそうとするが、なぜか踏ん張りが効かずに起き上がれない。

 そして振り上げられたモンスターの前脚が仰向けの俺の視界に入った直後に、俺の意識は途絶えた。




「ううぅぅぅぅぅぅぅぅんんんん駄目! 痛えええええええ!!」

 今回も駄目だったよ……
 
 さっきよりもモンスターの動きが追えたと思ったが、戦闘としてはあんまり進展していない。
 結局相手に本気を出させれていないことには代わり無いからな。

 いやまあ今の俺の攻撃力では、どうあがいても相手が本気で避けるようなことにはならないのだが。

 だが、さて今回の振り返りだ。

「いでー……今のもしかして足吹っ飛んだのか?」
 
 最後俺起き上がろうと頑張ったよなあ。
 足が燃えてたとあのときは思ったが、つまり足の痛みが熱として伝わっていたのか。

 あのモンスターのブレスにはそれだけの威力があるということだ。
 そしてブレスの正体もわかった。

「あれ空気の塊吐き出してんだな。そんで背中のは給気口か」

 転がって逃げつつも、今回は視線を外さないようにしていた。まあそれで避けるのが遅くなってブレスに当たってしまった気もするが。
 
 さておき、ブレスが無形の塊だったので空気ではないかという予測と、そのブレスを吐くために展開した背中の膜のようなものは給気口かそれに近い役割を持っていたのであろうという予測が立った。

「急所になるのかねえ」

 あのパーツが攻撃が通る急所なのかどうか。
 まだ目に攻撃することすら出来てないのだが、可能性は追い求めた方がいい。

「いや、にしても……死闘ってかゾンビアタックだなこれ」

 なんか余計なことに気がついてしまったが、気にしないことにする。
 モンスターとの戦闘能力の差が多い結果、死ぬ気で食らいつくよりも死にながら隙を探す形になってしまっているのは仕方がない事だ。
 大した違いはない。

 とりあえずはモンスターの目か背中の膜を攻撃してみないことには始まらない。
 相手が本気になるにも奥の手を切るにも、まずは俺が相手を脅かさなければ動いてくれない。

 次は斧を取っておいて、剣を突き出すと同時に投擲してみるか。
 あるいは相手に剣を加えられて投げ上げてもらうのではなく、助走をつけて良い感じに剣を投げ、相手の顔が下がったところでジャンプで顔面に飛びついてみるか。

 また写身を出して、俺は死地へと赴く。

 その日俺は、全部で11回殺された。
 なおモンスターの奥の手は引き出せたが、傷はつけられなかった。
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