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第12話 まあそう使うよなって話
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「お疲れ様です」
「お疲れ様です。今日も《始まりの森》でトレーニングしてただけなんでドロップアイテムは無いです。すいません」
ロビーに戻って、受付で武器とステータスカードを提出する。
ステータスカードをちらっと見た坂井さんの表情がピクリと動いた。
ばれてるよなあ絶対。だってレベルの上昇幅おかしいもの。
まあ自分からそれについて言及するつもりはないけど。
「今日ここでステータスカードを返却してしまうと新人冒険者向けの買取増額キャンペーンが終わりになります。それでも大丈夫ですか?」
「あー……ありましたね」
忘れてたわ。
そういや。途中からスキルのことで頭がいっぱいになって色々と考えてたから吹っ飛んでた。
金自体は今後も稼いでいけるわけだし、気にしないと決めたのだ。
「でも大丈夫です」
「わかりました。ではステータスカードを預かります」
ステータスカードを受け取った藤澤さんは目を丸くしている。
坂井さんはうまいこと取り繕ってくれるけど、藤澤さんは素直に表情に出てしまう子なんだろう。
「それじゃあまた来ますんで」
「はい。またのお越しをお待ちしています」
2人に見送られてギルドを出る。
おそらく今日のことで完全にこの支部内では目立ってしまっただろう。
まあ俺この支部に来てる人俺以外に1人しか見たこと無いんだけど。
《写身》という他に確認が出来ていないスキルに加えて、レベルの異常な上昇。
更にこれからは、スキルを荒稼ぎしていくつもりである。
どっちにしろいずれ目立つのだ。気にしても仕方がない。
さて、おじじのところに行って今後のプランでも相談してみるかなあ。
******
「坂井さん、これ……」
「まだ、ありえる範囲ですよ」
ステータスカードを見た後輩が、口をワナワナさせながら問いかけてくる。
「いや、でも……」
「もしかしたら、大きな穴にスライムが何千匹も溜まっていたのかもしれません」
そんな無茶な、という目線で後輩が見てくるが、そもそも無茶なことが置きているのだから無茶な想定になるのは仕方ないのであって、それを無茶と判断する方が無茶……
あれ、無茶ってなんだっけ?
「《始まりの森》でレベル6って、一週間はかかるんじゃありませんでした?」
「レベル5まで一週間、レベル6にはプラス2週間ですね」
それぐらいの時間がかかる。
ここで冒険者になってからまだ半月ほどの新人冒険者の高杉さんは、多分そのことを知らないのだろう。
だからあんな風になんでもないような表情をしていた。
「大量の耐性系スキルでただでさえ目立っているというのに」
「支部長も気にしてましたね。やっぱりすごい人なのかな……」
まだこの仕事を初めて日の浅い藤澤さんは、この異常さがわかっていないのだろう。
以前一時期だけ他の大きな支部で研修をしたが、こんな短期間で《始まりの森》だけでここまでレベルを上げて来た冒険者も、耐性系スキルをここまで上げてきた冒険者も見たことがない。
支部長も注目しているらしいがさもありなん。
普通ではないというのはすなわち『何かしら他とは違うものを持っている』ということの証左なのだ。
所属している冒険者が一桁のこのギルドに有望な新人がやってきたとなれば、支部長としてはどうしても捕まえておきたいはずだ。
ギルド、支部は実績が無くても潰れるようなものではない。
国内にあるゲートは、活用されているにしろ活用されていないにしろ全て管理しておかなければならないからだ。
国内に開いたゲートの数だけギルド支部は存在する。
だが実績、具体的には所属する冒険者の数とランク、それにそのギルドに納品されたアイテムの種類と量などによってギルドごとに評価がされるし、それが職員の給料にも反映される。
特に業務委託を受ける形になっている支部長はそうだろう。
他にも最近はないが、新しいエリアが発見されたときの合同探索とかでの主導権を握りやすかったりもする。
特にうちみたいな出せる人員も無いギルドだと、最悪支度金だけ持ってかれて終わり、なんてことも普通にありえる。
そんな中で、田舎の人がほとんどいないギルドの評価というのはとんでもなく低い。
例えば仕事で他所の支部に行ったりすると、『あーあの……レベルの低い支部ね』みたいな目で見られるわけだ。
形容のしようが無くて言葉を濁されるあたりがまた腹立たしい。
まあ私はお給料がもらえるならそれで良いんだけど。
ギルド職員は冒険者みたいに命がけではないし、お給料も業務内容の割に普通に良い。
ただ支部長としては気に入らない状況だろう。
よその支部長からは見下されるし、時にはこっちも仕事をしているのに人員をよこせという連絡が来たりもする。
加えてこの支部は立地的に、どれだけ頑張っても人を増やしようが無い。今の市長に代わってから支部長と連携して他所の地方都市には無いギルドという利点を活用しようとしていたが、キャンペーンを打ち出したところでそれが終われば冒険者は電車で25分の街にある大きめのギルドに持っていかれる。
手の打ちようがない。このまま地べたを這いつくばり続けるだけ。
そんなところに、金の卵かもしれない冒険者が転がり込んできた。
手元において、出来るなら育って欲しいというのが支部長の願いだろう。
特にポーションとかアイテムバッグみたいなレアなアイテムを産出したとなれば国から支援金も出ることだし。
「それで、当の冒険者が逃げ出すようなことにならなければ良いんですけどね」
「え? 何か言いましたか?」
「いえ、何も」
まあ、このギルドの職員として、支部長が早まりそうになったときは声をかけるぐらいはしようと思う。
私も一ギルド職員として、そして一元冒険者として、高ランクの冒険者を見て、担当してみたいぐらいのは夢はあるのだ。
******
ギルドを出て再びおじじの所に来た俺は、ここまで自分のスキルについて考えたことを相談した。
《写身》スキルレベルめっちゃ稼げるよー、とか、でもレベル簡単にあげるのってどうなの? とか。
それに対するおじじの答えはシンプルだった。
「なんじゃあお前さん。死ねるなら歯が立たん相手にくらいついてから死ねばよかろう」
「ちょっと待っておじじ。話が物騒すぎてちょっとついていけない」
こんな話をしながらも、俺とおじじは並んで木刀を振り下ろし続けている。
「つまり、あれじゃろ? 実力がつかんのにレベルが上がるのは困るゆうことじゃろ?」
「そういうことだけど」
「なら簡単じゃあ。強いモンスターに挑んで、死ぬまで食らいついて、そんで殺される。そうすりゃあ戦う技術は身につくし攻めも受けも強くなろうが」
「ええ~……」
つまりあれか。
耐性系スキルを上げるために自分で写身を攻撃するのも、強いモンスターを特攻で斬ってレベルを上げるのも、そして戦う腕前、技術自体を鍛えるのも全部いっぺんにやれば良い、と。
《写身》を使った俺はレベル1で、相手はレベル40か50か、あるいはもっと上のやつらが相手するような化け物で。
そこに剣片手に挑んでいって、食らいついて殺されてこいと。
死にゲーかな? そういうゲーム昔やったことあるぞ?
相手が強くて、何回も死んで何回も繰り返して相手の動きを覚えて戦うゲーム。
いやでもあっちはちゃんと武器とか自分はレベルアップしてたはずだ。
そう考えると俺の現実の方がよっぽどマゾいな?
「いや……まじ?」
「なんじゃあ、気に入らんか?」
いやあそりゃもちろん……死ぬほど滾ってきた。
圧倒的に強い敵に剣一本で挑んで?
しかも写身だから殺されてももう一回遊べるドンだと?
「気に入ったわ、それ」
生憎と俺はファンタジーと妄想に焦がれすぎておかしくなってしまったらしい。
命を持ってイカれる苦痛の記憶が、高揚感に吹き飛ばされる。
存分に殺し合ってみようではないか。
「すすめたわしが言うのもなんじゃが、お前さん良い感じに狂っとるなあ」
「これで良い感じなの? もしかしておじじも似たようなことしてたんか?」
俺のスキル構成だからこそ出来ること。
ぶっちゃけた話、一度死んだ記憶があってなお生きているからこそ恐怖心が吹っ飛んでいたりするのだろうと思っているのだが。
むしろ同じようなことをしている人がいたら俺も『頭おかしいな』と思う。
「わしはお前さんと違って分身もでけんし死ねんからの。そこまでの無茶はせんわい。じゃが格上のモンスターに喧嘩打って腕や足を持ってかれたことは何度かあるぞ」
「よく生きてんなあんた」
「かっかっ、ポーションはよう効くわい。今でもお気に入りじゃ」
ポーションって結構レアなんじゃなかったっけ?
なんか俺の中でだんだん、おじじって実は凄い冒険者だったんじゃないかっていう想像が浮かんできてるのだが。
「だが惜しいのう」
「っ! 何が?」
いきなり俺の頭目がけて振り下ろされたおじじの木刀を受け止めてから聞き返す。
「お前さんのスキルの《写身》、じゃったか?」
「そうだよ」
「肉体に反映されるなら、無茶なトレーニングも出来ると思うたんじゃがなあ」
「何させるつもりだったのさ」
俺の《写身》スキルで本体に反映されるのは、スキルやレベルなどの経験値だけである。
肉体的なトレーニングとかは反映できない。反映できたら怪我がそもそも反映されちゃうしな。
「部位鍛錬をできんかと思ってな」
「ああ、なるほどね」
部位鍛錬。武道なんかで、身体を動かす技術ではなく純粋に身体を強化するために行われる鍛錬。
色んなものを殴って拳や手首を頑丈にしたり、相手の足を砕くために膝やスネを頑丈にしたり。
あるいは攻撃を受けるために、太ももの裏側とか腕の外側とかを自分で叩いて叩いて頑丈に育てる鍛錬のことだ。
「おじじはやってんの?」
「今はもうしとらんがの。昔は拳で木を砕いたりしたもんじゃ。特に腕周りは、モンスターを斬った時にその破片がとんできたりするからな。手の平も手の甲も腕も。全部鍛えて損は無い」
「手の甲か……手の平は剣振ってたら自然と固くなるもんじゃないの?」
「普通に剣使っとっても固くなるのには時間がかかるからの。わしは握力鍛えたかったから崖を素手で登って鍛えた」
「気合入りすぎだろ」
いやそこまでする? というか聞いてしまったから俺もやりたくなったじゃん。どうしてくれんのこれ。
今は握力や指先はボルダリングとそのトレーニングで鍛えてるけど、自然の崖の方が手のひらとか指先には効くんだろうか。
「でも、俺もそういうのやってみたいな。怪我したら……怪我してよくね?」
「なんじゃ?」
「俺のスキルさ、『ダンジョンに初めて入ったときの俺』を再現してくれんのよ。そしたらさ、俺自身って別に、怪我してても……」
問題なくない? どうせダンジョンで暴れるの写身だし。
もういっそ俺本体はダンジョンに行かないでトイレにでも隠しといたら良くない?
それかゲートに入る前に放置しとくとか。
回復不能な大怪我は駄目だが、普通にトレーニングで傷ついて回復待ちぐらいの状態になるのは全く問題ない。
「よし、おじじ、部位鍛錬やろう」
「やるんか?」
「うん。最強目指してるからな。やれること全部やる」
あと純粋に自分を鍛え上げんの好き。
俺の言葉に、おじじは楽しそうに笑った。
「お前さんは鍛えがいがあるのお。よし、わしにまかせとけ」
「お疲れ様です。今日も《始まりの森》でトレーニングしてただけなんでドロップアイテムは無いです。すいません」
ロビーに戻って、受付で武器とステータスカードを提出する。
ステータスカードをちらっと見た坂井さんの表情がピクリと動いた。
ばれてるよなあ絶対。だってレベルの上昇幅おかしいもの。
まあ自分からそれについて言及するつもりはないけど。
「今日ここでステータスカードを返却してしまうと新人冒険者向けの買取増額キャンペーンが終わりになります。それでも大丈夫ですか?」
「あー……ありましたね」
忘れてたわ。
そういや。途中からスキルのことで頭がいっぱいになって色々と考えてたから吹っ飛んでた。
金自体は今後も稼いでいけるわけだし、気にしないと決めたのだ。
「でも大丈夫です」
「わかりました。ではステータスカードを預かります」
ステータスカードを受け取った藤澤さんは目を丸くしている。
坂井さんはうまいこと取り繕ってくれるけど、藤澤さんは素直に表情に出てしまう子なんだろう。
「それじゃあまた来ますんで」
「はい。またのお越しをお待ちしています」
2人に見送られてギルドを出る。
おそらく今日のことで完全にこの支部内では目立ってしまっただろう。
まあ俺この支部に来てる人俺以外に1人しか見たこと無いんだけど。
《写身》という他に確認が出来ていないスキルに加えて、レベルの異常な上昇。
更にこれからは、スキルを荒稼ぎしていくつもりである。
どっちにしろいずれ目立つのだ。気にしても仕方がない。
さて、おじじのところに行って今後のプランでも相談してみるかなあ。
******
「坂井さん、これ……」
「まだ、ありえる範囲ですよ」
ステータスカードを見た後輩が、口をワナワナさせながら問いかけてくる。
「いや、でも……」
「もしかしたら、大きな穴にスライムが何千匹も溜まっていたのかもしれません」
そんな無茶な、という目線で後輩が見てくるが、そもそも無茶なことが置きているのだから無茶な想定になるのは仕方ないのであって、それを無茶と判断する方が無茶……
あれ、無茶ってなんだっけ?
「《始まりの森》でレベル6って、一週間はかかるんじゃありませんでした?」
「レベル5まで一週間、レベル6にはプラス2週間ですね」
それぐらいの時間がかかる。
ここで冒険者になってからまだ半月ほどの新人冒険者の高杉さんは、多分そのことを知らないのだろう。
だからあんな風になんでもないような表情をしていた。
「大量の耐性系スキルでただでさえ目立っているというのに」
「支部長も気にしてましたね。やっぱりすごい人なのかな……」
まだこの仕事を初めて日の浅い藤澤さんは、この異常さがわかっていないのだろう。
以前一時期だけ他の大きな支部で研修をしたが、こんな短期間で《始まりの森》だけでここまでレベルを上げて来た冒険者も、耐性系スキルをここまで上げてきた冒険者も見たことがない。
支部長も注目しているらしいがさもありなん。
普通ではないというのはすなわち『何かしら他とは違うものを持っている』ということの証左なのだ。
所属している冒険者が一桁のこのギルドに有望な新人がやってきたとなれば、支部長としてはどうしても捕まえておきたいはずだ。
ギルド、支部は実績が無くても潰れるようなものではない。
国内にあるゲートは、活用されているにしろ活用されていないにしろ全て管理しておかなければならないからだ。
国内に開いたゲートの数だけギルド支部は存在する。
だが実績、具体的には所属する冒険者の数とランク、それにそのギルドに納品されたアイテムの種類と量などによってギルドごとに評価がされるし、それが職員の給料にも反映される。
特に業務委託を受ける形になっている支部長はそうだろう。
他にも最近はないが、新しいエリアが発見されたときの合同探索とかでの主導権を握りやすかったりもする。
特にうちみたいな出せる人員も無いギルドだと、最悪支度金だけ持ってかれて終わり、なんてことも普通にありえる。
そんな中で、田舎の人がほとんどいないギルドの評価というのはとんでもなく低い。
例えば仕事で他所の支部に行ったりすると、『あーあの……レベルの低い支部ね』みたいな目で見られるわけだ。
形容のしようが無くて言葉を濁されるあたりがまた腹立たしい。
まあ私はお給料がもらえるならそれで良いんだけど。
ギルド職員は冒険者みたいに命がけではないし、お給料も業務内容の割に普通に良い。
ただ支部長としては気に入らない状況だろう。
よその支部長からは見下されるし、時にはこっちも仕事をしているのに人員をよこせという連絡が来たりもする。
加えてこの支部は立地的に、どれだけ頑張っても人を増やしようが無い。今の市長に代わってから支部長と連携して他所の地方都市には無いギルドという利点を活用しようとしていたが、キャンペーンを打ち出したところでそれが終われば冒険者は電車で25分の街にある大きめのギルドに持っていかれる。
手の打ちようがない。このまま地べたを這いつくばり続けるだけ。
そんなところに、金の卵かもしれない冒険者が転がり込んできた。
手元において、出来るなら育って欲しいというのが支部長の願いだろう。
特にポーションとかアイテムバッグみたいなレアなアイテムを産出したとなれば国から支援金も出ることだし。
「それで、当の冒険者が逃げ出すようなことにならなければ良いんですけどね」
「え? 何か言いましたか?」
「いえ、何も」
まあ、このギルドの職員として、支部長が早まりそうになったときは声をかけるぐらいはしようと思う。
私も一ギルド職員として、そして一元冒険者として、高ランクの冒険者を見て、担当してみたいぐらいのは夢はあるのだ。
******
ギルドを出て再びおじじの所に来た俺は、ここまで自分のスキルについて考えたことを相談した。
《写身》スキルレベルめっちゃ稼げるよー、とか、でもレベル簡単にあげるのってどうなの? とか。
それに対するおじじの答えはシンプルだった。
「なんじゃあお前さん。死ねるなら歯が立たん相手にくらいついてから死ねばよかろう」
「ちょっと待っておじじ。話が物騒すぎてちょっとついていけない」
こんな話をしながらも、俺とおじじは並んで木刀を振り下ろし続けている。
「つまり、あれじゃろ? 実力がつかんのにレベルが上がるのは困るゆうことじゃろ?」
「そういうことだけど」
「なら簡単じゃあ。強いモンスターに挑んで、死ぬまで食らいついて、そんで殺される。そうすりゃあ戦う技術は身につくし攻めも受けも強くなろうが」
「ええ~……」
つまりあれか。
耐性系スキルを上げるために自分で写身を攻撃するのも、強いモンスターを特攻で斬ってレベルを上げるのも、そして戦う腕前、技術自体を鍛えるのも全部いっぺんにやれば良い、と。
《写身》を使った俺はレベル1で、相手はレベル40か50か、あるいはもっと上のやつらが相手するような化け物で。
そこに剣片手に挑んでいって、食らいついて殺されてこいと。
死にゲーかな? そういうゲーム昔やったことあるぞ?
相手が強くて、何回も死んで何回も繰り返して相手の動きを覚えて戦うゲーム。
いやでもあっちはちゃんと武器とか自分はレベルアップしてたはずだ。
そう考えると俺の現実の方がよっぽどマゾいな?
「いや……まじ?」
「なんじゃあ、気に入らんか?」
いやあそりゃもちろん……死ぬほど滾ってきた。
圧倒的に強い敵に剣一本で挑んで?
しかも写身だから殺されてももう一回遊べるドンだと?
「気に入ったわ、それ」
生憎と俺はファンタジーと妄想に焦がれすぎておかしくなってしまったらしい。
命を持ってイカれる苦痛の記憶が、高揚感に吹き飛ばされる。
存分に殺し合ってみようではないか。
「すすめたわしが言うのもなんじゃが、お前さん良い感じに狂っとるなあ」
「これで良い感じなの? もしかしておじじも似たようなことしてたんか?」
俺のスキル構成だからこそ出来ること。
ぶっちゃけた話、一度死んだ記憶があってなお生きているからこそ恐怖心が吹っ飛んでいたりするのだろうと思っているのだが。
むしろ同じようなことをしている人がいたら俺も『頭おかしいな』と思う。
「わしはお前さんと違って分身もでけんし死ねんからの。そこまでの無茶はせんわい。じゃが格上のモンスターに喧嘩打って腕や足を持ってかれたことは何度かあるぞ」
「よく生きてんなあんた」
「かっかっ、ポーションはよう効くわい。今でもお気に入りじゃ」
ポーションって結構レアなんじゃなかったっけ?
なんか俺の中でだんだん、おじじって実は凄い冒険者だったんじゃないかっていう想像が浮かんできてるのだが。
「だが惜しいのう」
「っ! 何が?」
いきなり俺の頭目がけて振り下ろされたおじじの木刀を受け止めてから聞き返す。
「お前さんのスキルの《写身》、じゃったか?」
「そうだよ」
「肉体に反映されるなら、無茶なトレーニングも出来ると思うたんじゃがなあ」
「何させるつもりだったのさ」
俺の《写身》スキルで本体に反映されるのは、スキルやレベルなどの経験値だけである。
肉体的なトレーニングとかは反映できない。反映できたら怪我がそもそも反映されちゃうしな。
「部位鍛錬をできんかと思ってな」
「ああ、なるほどね」
部位鍛錬。武道なんかで、身体を動かす技術ではなく純粋に身体を強化するために行われる鍛錬。
色んなものを殴って拳や手首を頑丈にしたり、相手の足を砕くために膝やスネを頑丈にしたり。
あるいは攻撃を受けるために、太ももの裏側とか腕の外側とかを自分で叩いて叩いて頑丈に育てる鍛錬のことだ。
「おじじはやってんの?」
「今はもうしとらんがの。昔は拳で木を砕いたりしたもんじゃ。特に腕周りは、モンスターを斬った時にその破片がとんできたりするからな。手の平も手の甲も腕も。全部鍛えて損は無い」
「手の甲か……手の平は剣振ってたら自然と固くなるもんじゃないの?」
「普通に剣使っとっても固くなるのには時間がかかるからの。わしは握力鍛えたかったから崖を素手で登って鍛えた」
「気合入りすぎだろ」
いやそこまでする? というか聞いてしまったから俺もやりたくなったじゃん。どうしてくれんのこれ。
今は握力や指先はボルダリングとそのトレーニングで鍛えてるけど、自然の崖の方が手のひらとか指先には効くんだろうか。
「でも、俺もそういうのやってみたいな。怪我したら……怪我してよくね?」
「なんじゃ?」
「俺のスキルさ、『ダンジョンに初めて入ったときの俺』を再現してくれんのよ。そしたらさ、俺自身って別に、怪我してても……」
問題なくない? どうせダンジョンで暴れるの写身だし。
もういっそ俺本体はダンジョンに行かないでトイレにでも隠しといたら良くない?
それかゲートに入る前に放置しとくとか。
回復不能な大怪我は駄目だが、普通にトレーニングで傷ついて回復待ちぐらいの状態になるのは全く問題ない。
「よし、おじじ、部位鍛錬やろう」
「やるんか?」
「うん。最強目指してるからな。やれること全部やる」
あと純粋に自分を鍛え上げんの好き。
俺の言葉に、おじじは楽しそうに笑った。
「お前さんは鍛えがいがあるのお。よし、わしにまかせとけ」
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