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前編
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ポンポンと青空に打ち上がる白煙の花火、園内に流れる軽快なメロディ、それに合わせて踊りながら愛嬌を振りまくマスコットキャラクター達。
誰もが知らず知らずのうちに笑顔になってしまう夢の国――アルヴィスランド。
それは東京湾に浮かぶ人工島、竜宮島《りゆうぐうじま》の上に設けられた巨大遊園地だ。
真壁《まかべ》マコトと遠見《とおみ》マリカの二人は高校の春休みにそこを訪れていた。
「よし、真壁くん。次はあれに乗ろう!」
マリカは絶叫系マシンを指さしながらマコトの腕を引く。
栗色のセミロングの快活そうな少女だ。高校に入学した際、隣の席になったのが縁で仲良くなった。インドア派のマコトをいつもグイグイと引っ張ってくれる。内気なマコトがそれなりに高校生活を楽しめているのも彼女のおかげだ。
「俺、絶叫系は苦手なんだけど……」
「いいからいいから」
一応口では抵抗しながらも、マコトはマリカに引っ張られていく。
そんなこんなで内心はデートにしか見えない状況を楽しみながらも、マコトは彼女に連れ回されてアトラクションを巡った。
元々入場チケットを用意したのはマコトの方だ。ここの職員である父親の伝手で格安でペアチケットを手に入れたのだ。
今日のマコトには胸に秘めた決意がある。
夜のナイトパレードの時、マリカに告白しようと思っていた。
二年生に進級すればクラス替えがある。マリカと離ればなれになってしまうかもしれない。その前に彼女としっかりとした絆を結びたかった。
そんな思いを抱きながらマリカと二人昼食をとる。
「よし! 本日のメインイベントが始まるよ。行こう真壁くん!」
食後のコーヒーを飲み終わった辺りで、スマホで時間を確認したマリカが勢いよく立ち上がる。
「メインイベント?」
「マクガインショーだよ!」
「マクガイン?」
「え!? 知らないの? アルヴィスランドのオリジナルヒーローマクガイン! すっごい人気なんだから!」
そう言えばパンフレットに載っていた気もするが、子供向けのショーと思ってスルーしていた。
「え~と……遠見さんヒーローとか好きなの?」
マコトの問いにマリカはしまった! という顔をする。
「ち、違うの! 弟が好きだから……」
「確か遠見さんの兄弟ってお兄さんだけじゃなかったっけ?」
「うっ……そうですよ! ウルドラマンも鬼面ライダーもハイパー戦隊シリーズも全部観てます! 特撮ヒーロー大好きですよ!」
マリカは逆ギレ気味に開き直って叫んだ。
「お兄ちゃんの影響だったんだけど……今ではすっかりハマってて……」
涙目になりながら顔を伏せる。
「真壁くん、この事は誰にも言わないでくれる?」
「も、もちろん!」
上目遣いに視線を向けられ、マコトは何度も頷く。
彼女の意外な一面を知る事が出来たし、何より二人だけの秘密なんて本当に恋人同士の様だと胸が高鳴った。
「ありがと。――よーし! じゃあマクガインに会いに行こう!」
マリカは元気な笑顔を取り戻し、拳を天に突き上げるのだった。
◆
マクガインショーの会場は人でごった返していた。
子供とその親ばかりかと思ったが、カップルの姿も多い。本当に人気があるようだ。
チケットの席は後ろの方だった。中には朝から並んで最前列の席を確保する猛者もいるらしいとはマリカの弁だ。腰を下ろした二人はショーの始まりを待つ。
始まったショーの筋書きはオーソドックスなものだ。ステージに現れた怪人とその手下達がアルヴィスランドの征服を宣言、司会のお姉さんを人質に取る。
そこでお姉さんが観客に呼びかける。
「大変だ。みんな! マクガインを呼ぼう!」
子供達がヒーローの名前を呼ぶ。マコトの隣のマリカも大声を張り上げていた。
そして現れる赤いスーツのヒーロー・マクガイン。何やら鋭角的な意匠が所々に施されてトゲトゲしているが、なかなか格好いい。
マクガインは悪の手下達をバッタバッタとなぎ倒していく。マコトの目から見てもその動きはキレキレだった。
意味もなくバク転やジャンプを繰り出すのだが、何らかの仕掛けはあるにしてもその高さが半端じゃない。
最後には五メートル程もジャンプして必殺キックで怪人を倒す。もちろん実際に当ててはいないが、普通ジャンプしたら真下に落ちるはずが斜めに落下している。ここにも何か仕掛けがあるのだろう。
最初はマリカに付き合って観ていたマコトだったが、いつの間にか手に汗握って心の中でマクガインを応援していた。
ちなみにマリカは周囲の目など気にせず、子供達と共に大声でエールを送っていた。
見事怪人を倒したマクガインはステージの上から子供達の声援に応えて手を振り、ショーは幕を閉じる。
その後、サービスとしてマクガインとの握手会が開催される。チケットの番号で抽選がかけられ、三十名が権利を得る事が出来た。
その抽選になんとマコトとマリカも当たってしまった。マリカはもちろん大喜びだったが、マコトとしてもあれだけの動きを見せるスーツアクターに興味が湧いて列に並ぶ。
そしていよいよマコトの順番が回ってきたその時――
「なんだ、あれ?」
誰かが空を見上げながら声を上げた。
周囲の皆も上を向いてそれを指さす。
「とうとう来たか……オーバースキン共め」
目の前のマクガインも空を見上げて呟いた。
「え?」
マコトも振り返って天を仰ぐ。
真っ青な空に浮かぶ一本の銀色のライン。
そのラインは無数の歯の様な部品が互いに噛み合って構成されていた。
それは蒼穹を繋ぎ合わせるかのような巨大なファスナー。
――西暦2146年3月24日。その日、人類とナノマシン生命体〈オーバースキン〉との戦いが幕を開けた。
誰もが知らず知らずのうちに笑顔になってしまう夢の国――アルヴィスランド。
それは東京湾に浮かぶ人工島、竜宮島《りゆうぐうじま》の上に設けられた巨大遊園地だ。
真壁《まかべ》マコトと遠見《とおみ》マリカの二人は高校の春休みにそこを訪れていた。
「よし、真壁くん。次はあれに乗ろう!」
マリカは絶叫系マシンを指さしながらマコトの腕を引く。
栗色のセミロングの快活そうな少女だ。高校に入学した際、隣の席になったのが縁で仲良くなった。インドア派のマコトをいつもグイグイと引っ張ってくれる。内気なマコトがそれなりに高校生活を楽しめているのも彼女のおかげだ。
「俺、絶叫系は苦手なんだけど……」
「いいからいいから」
一応口では抵抗しながらも、マコトはマリカに引っ張られていく。
そんなこんなで内心はデートにしか見えない状況を楽しみながらも、マコトは彼女に連れ回されてアトラクションを巡った。
元々入場チケットを用意したのはマコトの方だ。ここの職員である父親の伝手で格安でペアチケットを手に入れたのだ。
今日のマコトには胸に秘めた決意がある。
夜のナイトパレードの時、マリカに告白しようと思っていた。
二年生に進級すればクラス替えがある。マリカと離ればなれになってしまうかもしれない。その前に彼女としっかりとした絆を結びたかった。
そんな思いを抱きながらマリカと二人昼食をとる。
「よし! 本日のメインイベントが始まるよ。行こう真壁くん!」
食後のコーヒーを飲み終わった辺りで、スマホで時間を確認したマリカが勢いよく立ち上がる。
「メインイベント?」
「マクガインショーだよ!」
「マクガイン?」
「え!? 知らないの? アルヴィスランドのオリジナルヒーローマクガイン! すっごい人気なんだから!」
そう言えばパンフレットに載っていた気もするが、子供向けのショーと思ってスルーしていた。
「え~と……遠見さんヒーローとか好きなの?」
マコトの問いにマリカはしまった! という顔をする。
「ち、違うの! 弟が好きだから……」
「確か遠見さんの兄弟ってお兄さんだけじゃなかったっけ?」
「うっ……そうですよ! ウルドラマンも鬼面ライダーもハイパー戦隊シリーズも全部観てます! 特撮ヒーロー大好きですよ!」
マリカは逆ギレ気味に開き直って叫んだ。
「お兄ちゃんの影響だったんだけど……今ではすっかりハマってて……」
涙目になりながら顔を伏せる。
「真壁くん、この事は誰にも言わないでくれる?」
「も、もちろん!」
上目遣いに視線を向けられ、マコトは何度も頷く。
彼女の意外な一面を知る事が出来たし、何より二人だけの秘密なんて本当に恋人同士の様だと胸が高鳴った。
「ありがと。――よーし! じゃあマクガインに会いに行こう!」
マリカは元気な笑顔を取り戻し、拳を天に突き上げるのだった。
◆
マクガインショーの会場は人でごった返していた。
子供とその親ばかりかと思ったが、カップルの姿も多い。本当に人気があるようだ。
チケットの席は後ろの方だった。中には朝から並んで最前列の席を確保する猛者もいるらしいとはマリカの弁だ。腰を下ろした二人はショーの始まりを待つ。
始まったショーの筋書きはオーソドックスなものだ。ステージに現れた怪人とその手下達がアルヴィスランドの征服を宣言、司会のお姉さんを人質に取る。
そこでお姉さんが観客に呼びかける。
「大変だ。みんな! マクガインを呼ぼう!」
子供達がヒーローの名前を呼ぶ。マコトの隣のマリカも大声を張り上げていた。
そして現れる赤いスーツのヒーロー・マクガイン。何やら鋭角的な意匠が所々に施されてトゲトゲしているが、なかなか格好いい。
マクガインは悪の手下達をバッタバッタとなぎ倒していく。マコトの目から見てもその動きはキレキレだった。
意味もなくバク転やジャンプを繰り出すのだが、何らかの仕掛けはあるにしてもその高さが半端じゃない。
最後には五メートル程もジャンプして必殺キックで怪人を倒す。もちろん実際に当ててはいないが、普通ジャンプしたら真下に落ちるはずが斜めに落下している。ここにも何か仕掛けがあるのだろう。
最初はマリカに付き合って観ていたマコトだったが、いつの間にか手に汗握って心の中でマクガインを応援していた。
ちなみにマリカは周囲の目など気にせず、子供達と共に大声でエールを送っていた。
見事怪人を倒したマクガインはステージの上から子供達の声援に応えて手を振り、ショーは幕を閉じる。
その後、サービスとしてマクガインとの握手会が開催される。チケットの番号で抽選がかけられ、三十名が権利を得る事が出来た。
その抽選になんとマコトとマリカも当たってしまった。マリカはもちろん大喜びだったが、マコトとしてもあれだけの動きを見せるスーツアクターに興味が湧いて列に並ぶ。
そしていよいよマコトの順番が回ってきたその時――
「なんだ、あれ?」
誰かが空を見上げながら声を上げた。
周囲の皆も上を向いてそれを指さす。
「とうとう来たか……オーバースキン共め」
目の前のマクガインも空を見上げて呟いた。
「え?」
マコトも振り返って天を仰ぐ。
真っ青な空に浮かぶ一本の銀色のライン。
そのラインは無数の歯の様な部品が互いに噛み合って構成されていた。
それは蒼穹を繋ぎ合わせるかのような巨大なファスナー。
――西暦2146年3月24日。その日、人類とナノマシン生命体〈オーバースキン〉との戦いが幕を開けた。
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