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ゴブリンの巣穴

第47話 嗅覚 A

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 僕は襲撃者三名を撃退して、制圧することに成功した。


 その三名は怪我で戦闘不能で、僕は無傷だ。

 完勝と言っていいだろう……。


 ……うん。

 それは良いのだが……。


 ────この先、どうしよう?
 
 僕はちょっとだけ、途方に暮れていた。






 彼らは殺人犯だけあって、僕の言う事など素直に聞いてくれない。

 彼らが大人しく、こちらの指示に従ってくれるなら、村に連行して治安機関に引き渡すのがベストだ。


 ────だけど、彼らは極めて反抗的である。

 正直、僕の手に余る。



 ……。

 こうなったら……。

 いっそ、殺してしまうのはどうだろう────?



 彼らには、懸賞金がかかっている。

 その懸賞金は、殺しても支払われる。

 つまり────
 ゲームの運営は、彼ら三人の『死』を問題にしないと公言しているのだ。

 指名手配犯に対してであれば、殺害行為は不問に付される……。
  





 とはいえ────
 このゲームは、初見殺しが多い。


 彼らを殺すと、僕が『新しい殺人犯として、指名手配される』というような無茶苦茶な罠が仕掛けられている可能性も────

 いや、流石にそれは無いか……。

 考えすぎだ。

 そこまでの、不条理な仕掛けは無いだろう。



 このゲームをここまでプレイしてきて、大まかな傾向は把握できている。

 ・人を殺した場合でも正当防衛が認められれば、ペナルティは発生しない。

 ・プレイヤー同士の『喧嘩』に対して、運営は口出ししない。 


 『殺人』は禁止しているが、それ以外はルールを設けていない。……なるべく自由に、プレイヤーに行動させようとしている。

 そして、『指名手配犯を殺せば、新たに指名手配される』────というような、不条理な罠を仕掛けてしまえば、『懸賞金制度』が成り立たなくなる。

 『指名手配』という、殺人犯に対するペナルティが成立しなくなる。

 
 …………。

 ……そうだな。

 殺しても、お咎めはないと思う。

 その上、お金も手に入る。




 ……。

 殺るか……?


 う~ん……、けどなぁ……。



 僕は、結局────

 無力化した相手を、殺す気にはなれなかった。







 人は、立場で生きている。


 毎日学校に通う、普通の中学生だ。

 僕は友達がいなくても平気だし、一人でいても大丈夫な奴だ。
 自分が変わり者だという自覚はある。けれど────

 それでも、普通の学生でしかない。

 



 戦闘中であれば、いざ知らず────
 決着がついてから、『面倒臭い』という理由で殺してしまえば……。

 僕は冷泉と、心から笑い合えない気がする。
 
 ────なぜか、そんな気がした。




 このリアルなゲーム世界で、無力化したプレイヤーを殺してしまえば……。

 絶対に、引き摺ってしまうだろう。

 忘れようとしても、心から消えはしない……。


 こいつらの命を、背負いたくはない。
 
 僕はそんな────
 普通の人間だった。

 
 




 僕は三人組を、『自分で殺す』という選択肢を捨てた。

 だけど、このまま放置したら────
 彼らは傷を癒して、復讐しに来るかもしれない。


 ────その可能性があるので、放置も出来ない。

 ……厄介だ。



 …………。

 スズヨウさんの時と、同じような対処をするしかないか。

 この三人が、モンスターに襲われて死ぬ……。

 それを見届けてから、ここを離れよう。


 ……それも、気持の良いものでは無い。

 だが、この場合は、他に選択肢がない。

 仕方がないじゃないか。

 


 そもそも、僕はこいつらに襲われたんだ。

 
 そう考えると────

 こいつらの対処に、思い悩んでいることが、バカバカしくなってくる。


 取り敢えず……。

 三人を一か所にまとめてから、離れて様子を見るか……。


 僕は今後の方針を決めた。

 すると────

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