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コボルトの谷
第40話 渾身の一撃 A
しおりを挟む「てめぇ!! よくも!!!!」
もう一人が、僕に向かって殴りかかって来た。
彼はファイティングポーズを取り、拳を小刻みに繰り出しながら、口で『シュッ、シュッ!』と効果音を付けて接近してくる。
仕方ない────
こちらも迎え撃つ構えを取った。
拳を握り両腕を上げて、ファイティングポーズを取る。
……僕はもう、この村から出て行く身だ。
多少強引にトラブルを解決しても、後腐れは無い。
「おっ! やる気かぁ?」
そいつは僕の間近に迫ると、威嚇するようにシャドーボクシングを続ける。
当たるか当たらないかのパンチ、いや、軽く当ててきている。
僕はじっくりと腰を溜めて、わざとゆっくりパンチを繰り出す。
そして『スロウ』を使い、時を止める。
全身に力を込めて、身体を動かす────
間近に迫った敵に向けて、カウンターパンチを打ち込む。
……これは、すごい威力になるぞ。
『膂力』を上昇させたおかげで、以前よりも動きやすい。
僕は目の前にいる敵の、顔面を狙い拳を進める。
『スロウ』を解除────
バゴッ!!!!
僕の拳が、敵の顔面にめり込んだ。
衝撃音と共に、殴りかかってきた敵が吹っ飛ぶ。
地面に倒れている敵は、鼻血を出して気を失っていた。
「ふぅ……」
敵を倒したが、こちらも無傷ではない────
僕の拳も、かなり傷んでいる。
それに『スロウ』使用時に動いた代償で、全身が痛い。
僕に絡んでいた二人組の内、『暴力反対』と言って騒いでいた奴は、何が起こったのか理解できずにいる。
暫く呆然としていた。
僕の攻撃で相方がやられたと気付き、大声で騒ぎ始める。
「ひ、人殺しー!!! 誰か助けて下さいッ!!! 人殺しです!!! いきなり襲われました!!!! 人殺しです!!!!!」
────もう少し、実験してみよう。
僕は叫んでいる男に近づく。
「おっ! やんのか? やんのか、コラッ!!」
そう言って、僕を威嚇してきた。
────無視して、男の目の前まで接近する。
左手を握り締めてから、『スロウ』を使用した。
時の止まったかのような世界で、魔力操作を行う。
先ずは左拳に魔力を集めて、闇属性に性質変化させる。
そして、その魔力を物質化する。
イメージは鋼鉄────
僕は拳の表面を覆うように、鋼鉄を作り出す。
これで準備は完了だ。
そのまま左腕を動かし、目の前の男の腹を目がけて、拳を突き出した。
動かない岩を全力で押す様に、前身に力を込めて拳を動かす。
男の鎧に僕の拳が接触、『スロウ』を解除する。
僕は叫んでいた男の腹を、思いっ切り殴った。
ドゴッォオオオオオッッッ!!!!!!!
男は吹っ飛んで、地面に倒れる。
冒険者の鎧が凹んでいた。
────だが、死んではいない。
気を失っているだけだ。
僕は左手で、グーとパーの動作を繰り返し、損傷を確かめる。
「これでも、まだ痛みはあるな……」
だが、右手と違い、殆ど違和感はない。
────良い実験が出来た。
僕は宿屋に戻って、ログアウトすることにした。
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