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コボルトの谷

第35話 時間の経過 A

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「また、ここか……」

 僕はそう呟き、崖に短剣で印をつける。
 これで×マークが三つ目だ。

 その位置から、上を見上げると────

 頭上の崖の上からは、一本のロープがぶら下がっている。


 僕が崖の下に降りてきた時に、命綱として使ったものだ。


 
 このダンジョンでボスを出現させるためには、50キロメートルの距離を探索する必要がある。
 
 長い距離を歩かなければならない。

 役に立つかどうかは分からないが、壁面に印をつけておくことにした。



 この場所を出発する前に、短剣で×マークの印を崖に付けておく。


 それから、このコボルトの谷を南西方向に進み、探索を開始した。

 それからずっと、一方通行で進み続ける。

 五時間以上、南西方向へ進む────
 途中でロープと×印を見かけたので、その時に×印を一つ追加する。

 さらに南西へと進み続け、五時間ほど経過したところで、再び、目印を付けてあるこの場所に辿り着いた。


 同じ場所を、何度も周回している。

 ────ループしているんだろうな。


 スライムの森では霧の外に出ようとすると、元の場所に戻された。

 それと同じようなものだろう。

 




 『コボルトの谷』はダンジョンから出ようと思えば、出ることは出来る。

 このロープを伝って崖を登れば、脱出は可能だ。


 だが、ワープでの脱出は出来ない。


 探索を始める前に試してみたが、移動先の選択肢が表示されなかった。
 ────ワープは使えない。
 
 ダンジョン内では発動できない仕様なのだろう。

 
 『コボルトの谷』は北東から南西方向へと、大地を裂くように存在する。

 複雑に入り組んだ地形ではなく、まっすぐな一本道になっている。

 ただ、どれだけ進んでも、谷の終わりにはたどり着けない。
 同じ道をぐるぐると、周回するように出来ている迷宮のようだ。

 目印から目印へと歩いた時間から考えて、一周は約10キロメートルだと思う。


 僕は二周したから、探索距離は20キロメートルになっているはずだ。


 この谷から外に出ることなく、あと三周すれば、ボスが登場するだろう。



 

 探索を開始してから、かれこれ十時間以上歩いている。


 七時間ほど歩いたところで、日は沈みかけていた。

 夕焼けが空を赤く染めていく……。


 そして、日が沈むと、暗闇が世界を支配した。

 ────真っ暗だ。

 真っ暗なのだが、不思議なことに視界は良好だ。
 
 ゲーム世界だからか、この世界の僕は、夜目が効くように出来ているのか……。


 それは分からない。
 だが、真っ暗闇でも周囲の地形を把握できるし、モンスターとの戦闘も問題なくこなせる。

 昼間と比べると見えにくいことは確かだが、慣れると気にはならない。


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