上 下
68 / 122
コボルトの谷

第34話 崖の下へと B

しおりを挟む


「おお、サンキューな! やったぜ!! こっから出られる!!」


 崖の下には、三人組の冒険者がいた。

 彼らは崖を下りる僕を見て、近寄り声をかけて来た。


 多分、途中で切れていたあのロープを、使っていた冒険者パーティだろう。

 崖の下から上へあがれなくて、困っていた様だ。




 三人組の冒険者の内の一人が、僕に話しかけたリーダーらしきプレイヤーと話し始める。

「……なあ、別にこんな弱そうな奴に、金を払うことないんじゃないか?」

「あっ、ああ。そうだな。……でも、最初に払うって言っちまったし、今更……」

 ────相談し始めた。


「良いじゃねーかよ。別に、────なあ、お前! 良いよな? 俺たちがこのロープを使っても……別に減るもんじゃねーし」


 ……まあ確かに、減るものでは無い。

 ひょっとすると、耐久値の設定なんかがあるのかもしれないが……。

 あった場合は、ロープの耐久値は減るかもしれない。

 だけど、どうせ僕はこのロープを、この先使う予定はない。


 無料で提供しても、惜しいものでは無い。


「あっ、はい……別にいいですよ」

 僕は提案を了承した。

 値段交渉するのも手間なので、あっさりと引いておいた。



「やりぃ! 話が分かるじゃねーか、小僧!! そうだ、良いこと教えといてやるよ。────この谷でな。テントを使って朝起きるとな、ロープが途中から切れてて崖を登れなくなるんだよ。……どうやら、コボルトの奴らが、夜の間にロープを切っちまうみて―なんだ。────お前も気ぃ付けろ」

「あっ、はい……」


 なるほど、コボルトが夜にロープを切ったから、彼らは谷から出られなくなっていたのか……。

 『コボルトの谷』は『スライムの森』とは違い、出入りは自由にできる。

 だけど、テントを使用するとロープを切られてしまい、出られなくなるというトラップがある。



 僕は今回のチャレンジで、ボスを倒す気でいる。

 どのみちここから出る気はないので、ロープを切られても問題は無いが、このゲームの罠の傾向を知れたのは大きい……。

 今後、何かの役に立つかもしれない。

 


 三人の冒険者はロープを伝い、上へと登っていく────

「じゃあ、このロープ、ありがたく使わせて貰う」


 最初に僕に声をかけた人が、ロープに手をかけながら、僕にお礼を言った。
 

「あっ、はい……別にいいですよ。貴重な情報を提供して貰えましたし……」

 冒険者同士、持ちつ持たれつだ。


「そうか、改めて、ありがとう。────俺達もNPCの仲間が戦闘で死んじまって、パーティを立て直すのに金が要るんだ。……礼を出せなくて悪かったな────ああ、そうだ。この辺りに、ボスはいなかったぞ。俺たちはポイントを変えて出直す予定だが……谷の周囲はモンスターも強い。────駄目そうなら、すぐに崖を登った方が良い」


 色々と追加でアドバイスをしてから、崖を登って行った。
 
 僕としては、お礼は情報だけで十分だ。


 ……彼らはたぶん情報屋を利用せずに、攻略をしているのだろう。

 手探りで、ボスを探している。


 情報屋にお金を出して、情報を買っているプレイヤーは少ないのかもしれない。

 
 ────そういえば、情報料はかなり高額だった。

 利用したくても、お金に余裕がないのかもしれない。






 他のプレイヤーと接触すると、様々な情報が手に入る。
 ────意図せず、他所のパーティの進捗状況も、知ることが出来た。

 今日は二つのパーティと、会話をすることに成功した。



「……僕のコミュ力は、かなり上昇しているぞ」


 これは自惚れではなく、客観的な事実だ。

 少し高揚しながら、僕はダンジョンの攻略を開始した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

偽神に反逆する者達

猫野 にくきゅう
ファンタジー
 ・渓谷の翼竜  竜に転生した。  最強種に生まれ変わった俺は、他を蹂躙して好きなように生きていく。    ・渡り鳥と竜使い  異世界転生した僕は、凡人だった。  膨大な魔力とか、チートスキルもない──  そんなモブキャラの僕が天才少女に懐かれて、ファンタジー世界を成り上がっていく。  ・一番最初の反逆者  悪徳貴族のおっさんに転生した俺は、スキルを駆使して死を回避する。  前世の記憶を思い出した。  どうやら俺は、異世界に転生していたらしい。  だが、なんということだ。  俺が転生していたのは、デリル・グレイゴールという名の悪徳貴族だった。  しかも年齢は、四十六歳──  才能に恵まれずに、努力もせず、人望もない。    俺には転生特典の、スキルポイント以外何もない。

処理中です...