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追放された聖女の物語

第72話 悪魔へと至る道程 5 A

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 ここは西の大国。
 チャルズコート王都、場末の安宿。

 私は悪魔ベルゼブブと共に、この国の最高司祭の元に使いに出した、シュドナイの帰りを待っている。


 この国に潜入してから私は、悪魔ベルゼブブと『戦力』の増強に努めている。

 この国の聖女、ローゼレミーを殺害する為に――



 

 私は再び『聖女』になりたい。
 その願いを叶える為に、悪魔ベルゼブブは召喚された。
 

 願いを叶えるためのヒント――
 聖女の関する知識を、このお喋りな悪魔は提供してくれる。

  


 聖女は破壊神が封じられている国から選ばれる。
 このままピレンゾルに滞在していても、聖女には選ばれない。

 リーズラグドの破壊神は、すでに消滅している。
 移動可能な周辺国で聖女の力を得られる可能性があるのは、西と北の大国。
 
 私は西の大国に、狙いを定めた。


 聖女の力を得るために、まずはチャルズコートへと潜入し滞在する。

 この国の聖女が、死ねば――
 次の聖女が女神ガイアによって、選出されることになる。


 そして、聖女に選ばれるのは、この私になるはずだ。
 この悪魔は私を、その方向へと導いている。




 シュドナイが最高司祭チェルズスカルと接触しているのも、悪魔の助言に基づいてのことだ。

 最高司祭チェルズスカルは、残虐で冷酷な男だそうだ。
 人からそう見えるように、振舞っているきらいがある。
 
 自分でカッコいいと思っているのか、冷酷キャラを演じて、過剰に残虐になることがある男らしい。


 権力者に逆らった民衆は、徹底的に弾圧する。
 
 最近でもチャルズコートが管理している小国で、飢饉に耐えかねて反乱を起こした村の住民を、老若男女問わずに皆殺しにしている。


 そのチェルズスカルと対立しているのが、聖女ローゼレミーだ。

 この国の聖女は、神様から授かった聖女の力は、力のない人々を助けるために使うべきだと主張する甘ちゃんらしい。

 『冷酷司祭』と『甘ちゃん聖女』は、事ある毎に対立し、敵対関係にある。

 聖女殺害の話を持ち掛ければ、乗って来るだろうと踏んで、接触を試みた。





 使いに出していたシュドナイが、無事に帰還した。

 シュドナイは最悪、始末される危険もあったが生きて戻った。


 チェルズスカルは、私との面会を希望してきたそうだ。

 直接会って、判断したいらしい。
 ――ここまでは、順調ね。



「どないする? 聖女はん。殺される可能性もあるけど……虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うしな?」

 ベルゼブブは、白々しく私に聞いて来た。
 答えは決まっているだろう。

 わざわざチェルズスカルのパーソナル情報や、聖女との対立関係を教えて、露骨に『コイツと組め』と示唆しておいて――


 聖女を殺す為には、最高司祭の協力が必要なのでしょう?
 危険だろうと、やってやるわ。




 数日後――
 私はシュドナイ、そして悪魔の分体のハエの一匹と共に、チャルズコートの中央神殿を訪問した。

 チェルズスカルは、そこそこのイケメンだった。

 ただ腰まで伸びた長髪は、私の好みでは無かった。
 だがまあ、許容範囲と言って良いだろう。


 この男が相手であれば、『演技』を使って篭絡しても良いだろう。



 悪魔ベルゼブブ情報――

 チェルズスカルは、美醜にこだわる面食いだ。
 男女問わず、美しい者を重用し、醜いものを毛嫌いする。




「其方が、ローゼリアか……それで、何ゆえ我が国の聖女を害そうとする? 悪魔を召喚し、手を組んでまで――返答次第では、命は無いものと思え!!」

 予想外にチェルズスカルは、怒りと疑いを露わにしてきた。


 ――考えてみれば当然か。

 いくら仲が悪いと言っても、聖女がいなくなれば、一時的とはいえチャルズコートは大きく国益を損なうことになる。
 それに悪魔を召喚して、その助力を得ていると言えば、警戒もするだろう。



 私はチェルズスカルを仲間に引き入れるために、聖女殺害後の見通しを説明する。

 聖女を殺害しても、問題はない。
 この悪魔の見立てでは、私がその後継に選ばれるはずだと説明した。




 だが、奴は話に乗ってこなかった。
 疑り深い奴だが――

 それも、そうか。

 チェルズスカルから見れば、私が聖女を引き継ぐ確証がない。
 悪魔の助言など、にわかには信じがたいだろう。

 私はここ数か月の間、一緒に生活していてだいぶ慣れたが――
 言葉を発するハエだ。

 いきなり信じる方が、どうかしている。
 

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