96 / 120
リーズラグドの叡智
第70話 失敗 B
しおりを挟む「これが、お父様の策略――」
リィクララ様が、犯人を特定した。
だが、リィクララ様のお父様は、とてもいい人だった。
私のことを殺そうとしていたらしいが、私が死ぬような事故は一向に起こらない。
きっと、自分の娘と友達になった私を――
殺さないでおこうと、思い直してくれたのだ。
それなのに、なぜこんなことを――??
――そうか!
この魔物の襲撃が、私を殺すための策略なんだわ!!
でもその為に、自分の領地や娘までも犠牲にするなんて――
そんな悲しいことを、させてはいけない。
私は決めました。
メデゥーサとは、私が戦います。
ディーに確認すると、私の存在の力の半分で、勝てるだろうと言っていました。
……半分くらいなら、いいでしょう。
「その魔物の群れは、私が退治します!! 心配はありません、私には神様の加護があるのです」
そして、反対した人を説得して、押し切って、魔物を退治してやろうと、一人でこんなところにやって来てしまった。
一緒に来ようとしてくれた人たちを、押し留めて、『一人で大丈夫ですから』と大見得を切って――
私は、格好をつけたかったのだ。
お友達に、良いところを見せたかった。
半分くらいならいいだろうと、軽く考えていた。
その結果――
襲い来る大蛇と、戦うことになり――
少しずつではあるが、自分の存在が減っていく。
それを実感すると、怖くて仕方がない。
暗殺者に襲われても、まったく怖いと感じなかった。
リィクララ様や、ローレイン様のような叡智の人達から、凄いと褒めて貰えて、図に乗ってしまっていた。
スザンヌさんの様なしっかりした人から、『ソフィ様ほどの聡明なお方が大丈夫と仰るのですから、心配はありません』なんて――
太鼓判を押されて、得意になっていた。
皆に凄いと言われて、自分だったら魔物の群れも、どうにかできると軽く考えた。
だから私は――
失敗した。
迫りくる大蛇に対して、『拒絶』の発動が遅れた。
心を削られていく恐怖に、躊躇が生まれた。
どれだけ強力な能力を持っていようと――
それを扱う人間が、使いこなせなければ意味は無い。
私の目前に、迫りくる巨大な蛇。
次の瞬間、私は――
自分の意思とは無関係に、空を舞っていた。
私の身体は、風を切って宙を飛んでいる。
アレス様の、腕に抱かれて――
大蛇に丸吞みにされる直前に、駆けつけたアレス様が私のことを抱き上げて、跳躍し空中を走るように飛んでいる。
私はアレス様に、片腕で『お姫様抱っこ』されていた。
そして、アレス様のもう片方の手には、剣が握られている。
着地と同時に襲いくる、大中小の様々なサイズの蛇たち――
アレス様は片腕で剣を振るい、その全てを一振りで蹴散らしていく。
あの大きな蛇を、よく一回で斬れるなぁと、私は感心する。
感心している、場合ではない。
ピンチに駆けつけてくれたアレス様に、私は無茶をしたことを謝ろうとしたけれど、咄嗟に言葉が出なかった。
――なんて謝れば、いいのだろう?
久しぶりに会ったのだから、その嬉しさを伝えるのが先だろうか?
どっちが正解なのか判らずに、私の口からは何も言葉が出てこない。
やっぱりな――。
前々からうっすらと、そうではないかと思っていたが――
今、確信した。
私は頭が、悪いのだ。
ローレイン様は私のことを『底が知れませんね』なんて言って褒めてくれていたけれど、それは、ただ頭が悪くて、底が浅すぎて良く見えなかっただけなのだ。
馬鹿な私が――
アレス様になんて声をかけるか、迷っていると――
アレス様から優しく――
「遅くなって済まない。怪我はないか、ソフィ――?」
そう言って、気遣ってくれた。
だから、私は――
「……はい」
というだけで、よかった。
アレス様にこうして抱きしめられていると、心に力が湧いてくる気がする。
大きな蛇を吹き飛ばすのに、使った分の力があっという間に回復した気がする。
不思議だなぁ、と思った。
それから――
私のことをじっと見つるアレス様から目を逸らして、その胸に顔を押し付けた。
なんだか知らないが――
ちょっと、照れ臭かったのだ。
辺りには相変わらず大きな蛇が沢山いて、この先には親玉のメデゥーサが居るのだが、こうしてアレス様に抱かれていると、不思議ともう怖くは無かった。
3
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる