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聖女暗殺事件

第62話 破滅へと至る道筋 2 A

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 僕がローゼリアの追放を言い渡してから、半年ほどが経った。

 今この国、ピレンゾルには――
 隣国リーズラグドから、アレス王子がやってきて滞在している。

 彼は外交交渉を行う全権大使の使者として、訪れていた。


 僕は挨拶程度に、少し顔を合わせただけで――
 交渉は国王や、外務大臣と行っている。


 彼から受ける第一印象は『力強さ』だった。
 覇気に満ちていて、自信を持って決断し行動する。

 ――そんな人物だ。


 元々の性格というよりは、これまで積み重ねてきた実績が、彼をそうさせているのだと思う。
 
 確か、邪竜王という強力なモンスターを、退治したんだったか――
 そんな話を聞いたことがある。

 ローゼリアの聖女十字軍も、彼が壊滅させたそうだ。

 ――どこまで本当かは分からないが、自ら戦場に出て剣を振るう武人であることは確かだそうだ。

 そうでなければ、話を盛ることも出来ないだろう。





 交渉の期間中に、アレス王子を狙った暗殺者が、何人か捕らえられた。
 ――昨日も、メイド服を着た暗殺者が、食事に毒を盛ろうとしていたらしい。

 そういえば、僕の兄二人も、暗殺されたことを思い出す。
 自分が狙われたわけでもないのに、その日は食事が喉を通らなかった。

 ――毒が入っているのではと、無意味に怯えた。

 戦場で活躍しているというアレス王子でも、これには参っているだろう。
 

 僕は交渉の席でそれとなく、アレス王子の様子を伺ってみた。

 彼は暗殺者に狙われた直後だというのに――
 全く気にも、留めてなかった。
 
 怖くは無いのだろうか――?




 あれは、二か月ほど前だったか――
 僕の部屋に、不審な手紙が置かれていたことがあった。

 差出人はローゼリア。


 手紙の内容は――

 ピレンゾルを出国する際に、置き土産を残しておいた。
 これはまだ、序章に過ぎない。
 必ずお前と、この国を破滅させてやる。
 覚悟しておけ――

 そんな内容の手紙だった。

 ――怖かった。
 なんなんだ、あの女は……。 


 手紙の内容もそうだが、これの配達手段がわからず不気味だった。

 あの元聖女は――
 僕の部屋にどうやってこれを……?


 第一王子の僕の部屋は、常に護衛に護られている。

 彼らに気付かれることなく、侵入して手紙を置いて立ち去る。
 そんな芸当、出来るわけがない――

 だが現実に、手紙は置かれていた。


 背筋が凍り、手が震える。
 ――僕は怖くて仕方が無かった。


 モンスターを退治しているというアレス王子に、あいつの退治を依頼してみるか本気で迷ったが、結局辞めた。

 あまりにも情けないし、ローゼリアのことは国家機密だった。
 彼に喋る訳にはいかない。




 リーズラグドで捕虜となった、ピレンゾル兵の返還交渉は難航していたが――

 なんとか上手く、交渉がまとまってくれた。
 
 僕の母の実家の、兵士や領民も多く捕まっている。
 彼らが故郷へと帰ることができる。


 アレス王子は両国の間の懸案事項を、この機会に一気に片付けようと、意欲に燃えている様子だった。
 最後に彼が交渉の席で、武力に訴えたのは頂けなかったが、それも熱意の表れと好意的に捉えておこう。


 全体として交渉では無理難題を吹っ掛けてくるという事もなく、淡々と事実関係を積み重ねて、妥協点を探っていくという姿勢だった。

 
 ローゼリアはよく彼のことを『阿呆王子』といって罵っていたが、そうは見えなかった。欠点と言えば、少し短気なところがある程度だ。



 ただ、彼に関して言えば――

 理解に苦しむことはある。


 それは複数の女性を、相手にしていることだ。

 それも自ら好んで、積極的に――

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