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聖女を追放した国の物語

第36話 余興 B

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 ……ッ!!
 そうだ!

 まだあるじゃないか、聖女の奥の手が――
 私は聖なる祈りのポーズで、『聖女の願い』を発動するために祈りを込める。
 
 転生特典の神聖力はもう使い切ってしまったけれど、私の『存在の力』を使えば、まだスキルは使用可能なはずだ。
 存在の力なんてものを、使いたくはないけれど――

 背に腹は代えられない。
 このままでは、恐怖で気が狂いそうになる。

 やるしかない。

 聖女の願いは――
 『目の前の化け物を、消して下さい』

 だが――

 『死神ディースをこの世界から消し去る権限はありません。聖女の願いはキャンセルされます。願いは受理できませんでした』

「は? えっ? いや、待って、そんな……」

 願いは受理されないって……。

 じゃあ、どうしろっていうのよ?

 こんな、――死神?
 なんでそんなのが、私の物語に出てくるのよ!!

「ああっ……」
 ……こんな奴、こんなッ、……どうやって、倒せば?



「倒す方法ならあるわ。それもとっても簡単な方法よ。さっきも言ったけれど、聖女の光は私に対して効果が薄いから、無駄打ちになってしまったけれど――それは相性の問題なの」

 つまり、こいつに有効な攻撃を当てれば――

「そうそう、賢いじゃない。良いことを教えましょう。私のこの身体は普通の人間のものよ。身体能力も普通の女と同等なの。栄養失調気味だから普通以下かしら?」


 なら……死神の弱点は、通常の物理攻撃だ。

 ふふっ、それにしてもコイツ……自分で自分の弱点をぺらぺらと解説しだしたわ。
 前世で読んだことのあるバトル漫画で、敵キャラがこれと同じことをしていたわ。

 その漫画を読んだとき、これ作った奴バカじゃないの?
 って思ったけれど――

 敵キャラは本当に、自分で勝手に能力の詳細を喋りだした。


 バトル漫画は、正しかった。

 コイツに対しては、物理攻撃が有効!!
 それならば、勝ち目はある。

 私の後ろには、大勢の兵士が控えている。





「ダルフォルネ!!」

 私は兵士全員で、あいつを攻撃させることにした。
 ダルフォルネに命令を出そうと、振り返り――

「……えっ?」


「う、うぉおおおお? ォォオオぉおあぁっぁアアアアアッ!!!!」

 ダルフォルネとその周りにいた兵士数名が、上空へと引っ張り上げられるように、空へと投げ出されるように飛んでいき――
 その後、上昇が終わると落下して、そのまま――

 建物や地面へと激突した。

 ドシャ……
 遠くで、人間の潰れた音がした。


 何が起こった?

 なに、今のは――??

「さて、なんでしょう? いくら俺様が心優しい親切な少女でも、敵に解説してやるほどの、お人よしではないのよ。それよりも、早く俺様を殺した方がいいわ。でないと次は、あんたが空を飛ぶことになってしまうかも?」

「ひっ、ひいィィ~~!!」

 私は聖女親衛隊と共に後ろに向かって走って逃げて、ダルフォルネの兵士たちの後ろに隠れて命じる。
 
「あ、あいつを殺しなさい!! ゆ、弓! 弓兵ッ。矢を放つのです!!」

 兵士たちは戸惑いながらも、私の命令に従い死神に矢を放った。

 死神に向かて放たれた矢は、奴に当たる直前に消えて――
 次の瞬間には、矢を射った兵士の身体に刺さり、その体を吹っ飛ばしていた。

「……は? な、なによ? どうなっているのよ!!」

 矢を跳ね返したっていうの?
 でも、体が吹っ飛ぶなんて、そんな威力で……?



「や、槍と剣で攻撃しなさいッ! ほ、ほらそこ、あんたと、そこのあなた!!」

 体が固まったように動かない兵士たちを、個別に指名して何とか動かそうとする。
 だがそいつらは、死神を恐れて動かない。

 ……役立たずが!!

 仕方がないので私はシュドナイ以外の聖女親衛隊に、死神を攻撃するよう命じる。

 私に指名された聖女親衛隊五人は、二人が槍を構えて突進し、三人が剣を振りかぶって斬りかかった。
 聖女親衛隊の攻撃が死神に当たったかに見えた瞬間、五人は弾かれるように後ろに吹き飛んだ。
 五人は自分の武器で、体を貫かれていた。
 腕は身体から引き千切られるように、もぎ取られている。
 




「っ、……あっ、ぁ――ッ、ぅう……」

 私はもう、何も言えなかった。
 ただ、恐怖が心を支配して、震えで立っていられずに座り込む。


「あら、もう終わり? 随分と怯えちゃって、可哀そうに――その様子じゃあ、もう立ち向かってはこれないわね。まあいいわ、『余興』はこれくらいで――」




 死神はそう言うと、こちらから背を向けて――
 
 広場の方に、向き直る。

 奴の目の前には――
 偽聖女の処刑を見るために、十万を超える民衆がひしめいている。

 死神は十万人の観衆の、その半分以上を――


 一瞬で殺した。
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