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聖女を追放した国の物語

第11話 先手

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 俺は馬を走らせて、王国の東へと向かっている。

 共は騎馬隊が二十人。

 俺は単騎で向かう気でいたが、親衛隊は付いてくると言って譲らなかった。
 速度が落ちなければ問題は無いので、同行を許可した。


 それでも戦争に赴く王子の軍勢としては、少なすぎるにもほどがあるが、今は速さを何よりも重視している。


 出発前に集めた情報では、王国の東に領地を持つ貴族の大半は国王とゾポンドートのどちらにつくのか、旗幟を鮮明にはしていない。

 東の大貴族であるゾポンドートの動員兵力は最大で一万二千はある。
 財政難や流通の混乱の影響で、集められるのは多くて一万と予想している。

 対して国王側は自前で二万五千の動員能力がある。残る三つの大貴族に参戦を促せば最大で三万、少なくとも二万以上は集めることが出来る。
 だが、こちらも財政事情は厳しくなってきており、魔物の出現も重なって諸侯に負担をかけるのは難しい状況だ。



 できれば他の大貴族に借りを作らずに事態を収めたい。
 そのため、国王は自前の二万五千の兵のみで、ゾポンドートを迎え撃つつもりのようだ。二万五千の兵力で、一万に対しての防衛戦――

 勝利は確実だろう。





「でもそれだと、被害が大きくなるんだよ。攻め込まれると――」

 王国の財政はどこも悪化中だ。
 自領に被害は出したくない。

「では二万五千でゾポンドート領に攻め込んでは? 楽勝とは行きませんが、十分勝ちは見込めます」

「それだと、味方の損害が増えてしまう。それに遠征にはそのぶん金もかかる。国王が戦力を落とせば、ゾポンドート以外の大貴族も謀反に走る可能性も出てくる。」


 それに、もう先手を取られているしな。
 敵はすでに、動き出している。

 軍の編成には時間がかかる。
 攻め込みたくても、もう遅い。



「そこで、アルデラン伯爵ですか――」

 馬を休めるための休憩中に、親衛隊隊長リスティーヌと今後について話し合う。

 会議では、東に向かうとしか言ってなかった。
 王都にいる貴族令嬢に政治工作を依頼する手紙を出して、すぐに出発したから詳しく説明する時間もなかった。
 
 休憩時間を利用して、考えを話しておこう。



 王国の東の大貴族はゾポンドートだが、それ以外にも中小の貴族領は点在している。ゾポンドートはそれらの貴族に対して、自分の傘下に加わり国王と戦うように要求している。

 今の時点で明確にゾポンドートに付いている地方領主は三つで、国王派は五つ。残りの態度保留の貴族は七つ。


 国王派をしっかり繋ぎ止めて、態度保留中の貴族を取り込む。
 これが当面の目標だ。


 俺が向かっているアルデラン伯爵は国王派で最大の戦力を動員できる貴族だ。
 俺とも面識があるし、魔物討伐やら農業指導やらで恩を売り、関係も良好だ。



 しかし、領地がゾポンドートの隣で王都への通り道にあるので、真っ先に狙われるだろう。アルデラン伯爵の最大動員兵力は千で、単独ではとてもゾポンドートに対抗できない。
 そうなれば、戦わずに降伏して敵の傘下に加わる可能性もある。


 アルデラン伯爵を、ゾポンドートより先に抑える。

 それがこの戦いの、俺の最初の一手になる。


「もし、アルデラン伯爵がすでにゾポンドートへ下っていた場合は――」

「その時には、私が父を切り伏せます!!」

 俺とリスティーヌの会話に割って入ったのは、アルデラン伯爵の娘のルイーザ。

 彼女は俺の親衛隊だ。
 そういった縁もあってアルデラン伯爵は、こちらの味方に付いたのだが――

「……その時には、俺がやるよ」

 ルイーザに父殺しなんて、させたくはないからな。
 そうした事態を避けるためにも、早くアルデラン領へと向かわなければならない。



 休憩も終わり、移動を再開しようとしたところに、東の方角から伝書鳥がやってきた。情報ギルドには、戦況をこまめに知らせて欲しいと頼んである。

 ゾポンドートの先遣部隊はもうすでにアルデラン領に入り込んで、自分たちの陣営に加わるようにとアルデラン伯爵を圧迫している。
 それに対して不意を突かれた格好のアルデラン伯爵は、戦力の召集が間に合わずに、少数兵力で籠城中だという。
 


「どうなさいますか? アレス王子――」

「向かう先に、変更はない」


 俺は馬に飛び乗ると、部隊の先陣を切った。

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