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冒険者編
第34話 冒険者始めました A
しおりを挟むガシッ……
俺は片手で大兎の角を掴み、闘気を込めた拳でそいつの顔面を殴りつけた。
ゴッ、と打撃の衝撃音が響き、大兎はその場に倒れ伏す。
「こんな感じで倒せ。わかったか?」
俺は大兎の首筋と足の付け根を短剣で切り裂き、血抜きを施しながら振り返り、アカネルとモミジリとイルギットの三人に声をかける。
血抜きのやり方は、冒険者ギルドで聞いた通りにした。
農場でも見たことがあるし、これで問題はないだろう。
俺たちがいる場所は、サイザルの北西にある草原。
町からは三キロほど離れた場所で、低ランク冒険者の狩場だ。
俺たちは冒険者として、初めての狩りに来ている。
狙う獲物は、大兎。
毛皮と角に価値があり、肉も食用として流通している。
この辺りの魔物の中では、一番高値で買い取られる獲物だ。
そのため、ギルド貢献度も稼ぎやすい。
少ない損傷で仕留めた方が高値が付くらしいので、素手で倒した。
「こんな感じでっ、て言われても……」
「えっ? 何あんた、ビビッてんの?」
乗り気でないイルギットをアカネルが煽る。
「アカネちゃん、あれは無理だよ」
「そうよ、バカね。あんたアレ、持ち上げることできる? やってみなさいよ」
アカネルを嗜めるモミジリに、イルギットが同調する。
「んっ、……確かに、重いわね」
「そんなのが、あのスピードで向かってくるのよ。受け止めるなんて無理よ」
大兎を持とうとして断念するアカネルに、イルギットが畳みかける。
「アカネちゃん、焦って怪我でもしたら大変だよ」
「……それも、そうね。無理だわ!!」
俺も三人の会話を聞きながら、それもそうかと思い、考え直す。
そういえば俺も、最初の時は大兎の攻撃をかわして切りつけて倒していた。
一番金の稼げる倒し方を見せたが、これはあの三人には早い。
……無理だ。
最弱のスライムに苦戦するレベルで、大兎と戦わせるのは無謀だった。
「予定より早く終わったし、空き時間に剣の稽古でもつけてやろうか?」
「いいのッ? そうね、まずは練習からよね」
俺はついさっき仕留めたばかりの、血抜きの終った大兎を荷車に載せる。
この荷車は冒険者ギルドで、レンタルしたものだ。
冒険者ギルドというだけあって、冒険に必要な物は揃っている。
大兎に関する情報なんかも購入した。
生息場所の情報は移り変わるので大雑把なものだったが、モンスターの性質は詳しく聞けた。
大兎は臆病だが好戦的という、相反する性格だ。
人間が一人でいると積極的に襲ってくるが、複数人でいると逃げ出すことが多い。
そのため、大兎を狙って狩るには、一人が囮になっておびき寄せてから、仲間のいる方に誘導して倒すのがセオリーだ。
この辺の情報は、ベテラン冒険者チームの下働きをしていれば、自然と手に入るものだが、囮に使われた新人が大兎に殺されることは、結構あるらしい。
情報は金で買った方が安全だ。
俺は他のチームの下働きなんて、今更する気はないしな。
俺の広域探知を使えば獲物の場所は分かるので、狙いの大兎は効率よく狩れた。
朝から出発して今は昼前、これなら剣の稽古の時間は後で十分に取れるだろう。
俺たちは帰り道で薬草やハーブを採取しながら、サイザルの町へと帰還した。
ハーブや香草は、露天に売られている。
それを購入して魔力反応を登録すれば、広域探知で探すことが出来るようになる。
俺はメモ用の紙も複数購入して、ハーブや香草をスケッチして記録している。
その後で乾燥魔法で水分を取り除いて保管しておく。
半分趣味のようなものだが、どこで何が取れるのかをこうして、記録して周ろうと思っている。
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