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幕間2 霊能力者で女子高生  鼓條 冥編

暗いトンネルも別に一本道ではない・・・どんなに恥をかこうとも闇の中を逃げて逃げ抜けば、きっと光が当たる場所がどんな人間にもある

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「ゆるさないいいいいいいっ、殺してやるうううううううううううっ・・・」
 黒いうごめく化け物が今度はサララ達ではなく、善朗を目掛けて迫ってくる。


「こらっ、主っ!気をつけんかっ、取り込まれたら、主も怨霊になるぞっ。」
 攻撃しようとせず、ただ化け物と向き合ってるだけの善朗に大前が怒鳴る。

「・・・んんんんっ・・・。」
 善朗は拳を握るも、どうしても化け物に対して、対応をためらって仕方がないようだった。


 善朗達が化け物と対峙する中、冥たちの方では、
「・・・これは私と貴方達が生み出した怪物よ・・・この子はふだんは大人しいだけの子だったのに・・・こんな風にしたのは貴方達にも責任はあるんだから・・・責任とって、取り込まれたら?」
 冥が怯えきったサララ達を見下すように腕組みをして、言葉を吐きかける。


「たたたっ、助けて・・・ししししっ、死にたくないっ。」
 サララ達はワラをもすがるように冥に近寄り、頭を床にこすりつける。

「この子はね・・・もう数十年も前にこの学校に通っていた・・・いいえ、通おうと思っていた子なの・・・普段は、旧校舎から出ないで、学校の雰囲気だけを楽しんでいたおとなしい子だったのに・・・。」
 冥が悲しそうな目を化け物に向けて、切なそうに言葉を搾り出す。

「・・・・・・。」
 ノゾミはそんな冥の顔を見て、自然と涙がこぼれた。

「・・・狭い世界が全てだと思う認識には『妬み』『嫉み』なんかの悪い感情が溜まり易い・・・集団催眠みたいなものだから、無くそうと思っても簡単になくなるものじゃない・・・そんな暗い感情が学校には様々なモノを呼び込んでしまう・・・そんな負の連鎖が、普段大人しかったあの子を狂わせてしまった・・・。」
 冥が悲しい目でサララ達を見ながら、どうしてこういう状況になったのかを説明する。

「あの化け物の核はあの子だけど、その周りにいるのは、全然関係ない浮遊霊や動物霊・・・ここまでくると弱い悪霊まで取り込んでる・・・あんた達があの子に殺されようと知ったこっちゃないけど・・・そうなれば、あの子は間違いなくひどい地獄に落ちる・・・あんたたちのために、あの子がそんな目に遭うのを、私は我慢できない・・・。」
 冥がサララ達に事のあらましを話し、話し終えるとサララ達をムゲに掻き分けながら、化け物とサララ達の間に割って入った。

「・・・・・・。」
 ノゾミは自然と冥から離れて、その場に残り、ジッと様子を見ている。


「善朗君っ!貴方が祓ってあげないと、その子もっと苦しむのよッ、しっかりしなさいっ!」
 冥は仁王立ちで、化け物を挟んだ反対側に居るであろう善朗に向かって叫ぶ。

「・・・ッ・・・。」
 善朗は冥の言葉に決意したのか、化け物に向かって、中段に刀を構えるように腕を前に出す。

「よし来たッ!」
 大前が善朗の構えを見ると、満面の笑みを零し、刀に姿を変えて、善朗の腕の中に吸い込まれた。


(・・・感情が入りすぎると、いけないからって君の名前までは冥さんが教えてくれなかったんだ・・・でも、君の生い立ちは聞いてる・・・君をちゃんと救う事は出来ないけど・・・君を今以上に苦しめないように・・・しないとね・・・。)
 善朗は涙を一杯溜めた瞳で化け物を見据える。

「すぅ~~~~っ・・・。」
 善朗が大前を握りこみながら息を吸い込んで、力を溜め込む。

「ゆるせないいいいいいいいいいっ、ゆるさないいいいいいいいいいいいっ・・・。」
 化け物が大きく身体を膨らませて、善朗を飲み込もうと迫る。


「はっ!!」
 〔ダパーーーーンッ!〕
 一刀だった。


 善朗が力を溜めて、大前を中段の構えから右上段に変えて、左下に勢い良く切ると、化け物は風船がはじけるように大きな音を立てて、霧散した。

「ッ?!」
 善朗は驚く。化け物が霧散すると、その化け物が居た場所にお下げ髪の良く似合う純朴そうな少女が笑顔を善朗に向けていた。

「善朗さん、お疲れ様です・・・この子は私が責任持って、連れて行きますので・・・。」
 少女の隣には、いつの間にか乃華が控えていて、善朗に微笑む。

「・・・ご迷惑をおかけしました・・・。」
 少女はそう言うと善朗に丁寧にお辞儀をする。

 少女がお辞儀をすると、天から光の柱が乃華と少女を包み込み、二人は光の中へと溶けて行く。


「・・・冥ちゃん・・・今まで、ありがとうね・・・。」
 少女が光に溶けるその瞬間、冥の方に向きを変えて、満面の笑みを言葉と共に冥に残していった。


「・・・ごめんね・・・チエちゃん・・・。」
 冥は誰にも聞こえない小さな声で唇を震わせながら、少女にそう答える。



 少女と乃華が光の柱に溶け、光の柱が天に昇った後、
「善朗君、お疲れ様・・・あの子はきっと救われたわ・・・行き先がどうあれ・・・ね。」
 冥がやるせないながらも、微笑んで善朗にそう告げる。

「・・・・・・。」
 善朗は光の柱が消えた天井を少し見た後、サララ達に視線を送り、にらみつけた。

「ヒッ?!」
 サララ達は化け物を倒した少年に睨まれて、さっきとは別の恐怖を身に宿す。


「おいっ!お前達、こんな夜遅くに、何してんだっ!?」
 そうこうしていると、廊下の奥のほうから、懐中電灯を持った用務員のおじさんがかけてきた。


「うううううっ・・・うわああああああああああああっ!」
 サララ達は用務員のおじさんの姿を見て、自分達が悪夢から帰還した事を実感し、仲間同士で抱き合って、大声で泣いた。

「・・・あれっ?!」
 ノゾミはその時に気付く。あの少年とグラマラスな女性の姿がなくなっていることに・・・。

 その後は冥が事情を説明して、用務員のおじさんは納得して冥達を開放してくれた。用務員のおじさんも今夜何が起こるかは大体上から聞いていたので、あっさりとしたものだった。




「あんた達ッ!」
「ハイッ!」
 冥がジャージ姿のサララ達を一喝する。サララ達は恐怖から救ってくれた冥に最早頭があがらなく、直立不動で元気に返事をする。


「・・・もういじめなんて、くだらないことはしないようにね・・・あの子はいなくなったけど、さっきも言ったように学校にはこの手の怪異はいくらでもあるんだから・・・今度巻き込まれても、あんた達は助けないわよっ。」
 冥が仁王立ちでサララ達に凄む。

「・・・・・・。」
 サララ達はお互いに抱き合って、申し訳なさそうに怯えている。

「良い事教えてあげるわ・・・もし、あの化け物に飲み込まれていたら・・・・・・地獄に落ちるよりもひどいことになっていたわよ・・・しかも、永遠に死ねずに弄ばれながら苦しみ続ける・・・ねっ。」
「いやあああああああああああっ、うわああああああああああああああんっ」
 冥がサララ達に顔を近付けて、悪魔のような笑顔でもしもの世界を教えてあげた。すると、サララ達はまた腰を抜かして、失禁してしまい、大泣きしてしまう。

「冥さん、それもいじめになるんじゃ?」
 ノゾミがクスクスと笑いながら冥に忠告する。

「・・・いじめじゃないわよ・・・真実だもの・・・貴方も気をつけることね・・・いじめられたなら、立ち向かいなさいっ!・・・立ち向かえないなら、恥じゃないわ・・・にげなさいっ・・・貴方が思っているよりも、ずっっっっと世界は広いわよっ。」
 冥がノゾミの言葉に恥ずかしくなって腕組をして、空に目を向ける。そして、ノゾミにお返しとばかりに助言した。

「・・・うん。」
 ノゾミは微笑んで冥の言葉を受け止める。

 ノゾミにとって、冥の言葉がどれほど説得力があるかは分かっていた。確かにノゾミ達にとっては学校という狭い世界が全てではあるが、冥にとっては、そんな学校は一つの場所でしかない。それは違う世界を持っている冥だからこそ言える言葉だった。

「あっ、そうそう・・・あんた達、またしょうもないことをしないように、ノゾミには定期的に報告してもらうから・・・しっ・か・り・見てるからね・・・。」
「うわああああああああああああんっ!」
 冥が忘れないようにサララ達に更に脅しを掛かる。サララ達は泣きながら頭を何度も上下に振って、意思表示だけはしていた。

(ありがとう、冥ちゃん・・・。)
 これは、もう殆ど学校に来ない冥のかわりにノゾミがいじめられるのを防ぐためのものだとノゾミは理解し、心の中で感謝した。

「・・・それじゃぁね・・・また、どこか出会いましょう・・・。」
 冥はそう言いながら、ノゾミ達を置いて、独り歩き出す。



「ッ?!」
 ノゾミにはその時、一瞬だけその瞳にしっかりと映った光景があった。



 冥の傍らにさきほどの少年とグラマラスな美女が並んで歩いている光景。
 そして、ノゾミは全てを理解した。


 あぁっ、私が恋をしたあの少年はもう生きては居ないのだ・・・と。


 少女にとっては暗い怖い悪夢の中に颯爽と現れ、救い出してくれた少年はどれほど、王子様に見えただろうか?少女はそんな別世界に居る王子様と笑顔で話が出来る冥の姿に憧れと共に少し嫉妬をした。

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