上 下
76 / 80

EX.????の夢見た世界【前】

しおりを挟む
あたしがヒロインのはずだった。

この世界は、あたしを愛していなければならないはずなのに。それなのに、どうしてこんなことになったのか。

薄暗い地下牢の中で、爪を噛みながら自問自答を繰り返す。

あたしの名前は、セシリア・マーガレット。

前世の記憶を持つ転生者だ。
前世のあたしはいわゆるオタクってやつで、どこにでもいる女子大生として平凡な日常を送りながら、いろんな乙女ゲームをやり込んでた。
大学に入ってからはバイトで貯めたお金を使って十八禁の乙女ゲームにも手を出し始め、そんな感じで出会ったのが『この世界は貴女を愛してる』ーー通称『セカ愛』だったってわけ。

『セカ愛』には四人の攻略対象がいて、あたしの推しはその名でも一番人気の王太子・エドワードだった。
キャラクターの紹介文に『甘いマスクが魅力的♡すべてがパーフェクトな正統派の王子様』って書いてある通り、エドワードはいつでも優しくて紳士的で完璧な王子様って感じ。
あたしはゲームの中で彼に甘い言葉を囁かれてるヒロイン・セシリアに自分の姿を重ねてうっとりしてたの。

もちろん他の攻略対象たちも好きだしルートも全部クリアしたけど、あたしの理想は白馬の王子様みたいな男の人だから、やっぱエドワードが一番好きだなって思った。
メイン攻略対象じゃないものの、顔とか性格ならエドワードの学友ポジのウィリアムも結構好きなタイプ。
こういう男にたっぷり愛を囁かれて甘やかされたいなって思わせてくる感じのキャラで、エドワードのルートだと公爵家ごと断罪されちゃうから、それだけが残念だった。
エドワードとウィリアムっていう系統の違うイケメンふたりに同時に愛されるとか、そういうのに憧れてたから。

前世はほんとに自分でも嫌になるくらいさえない女子大生だったけど、トラックに轢かれたかなんかで、あっけなく死んじゃったの。
目覚めたときには『セカ愛』のヒロインになってたんだから、びっくりよね。

これは神様があたしに与えてくれたご褒美に違いないと思った。
だって、好きなゲームの世界に転生するなんて、それこそ夢みたいな話でしょ?
しかも、悪役令嬢とかじゃなくてヒロイン。攻略対象たちに愛されることが最初から決まってる、可愛くて守ってあげたくなるような女の子。
さらに、何の努力もすることなく高度な光魔法を使いこなせるチートみたいな能力まで持ってるの。最高よね?

転生したら『セカ愛』のヒロインになってたあたしは、天から与えられた可愛すぎる容姿と前世で手に入れたゲームの知識を駆使して、すべてをあたしの理想通りにしてやろうと思った。
攻略対象のイケメンたちに溺愛されるハーレムを形成して、それ以外の男たちにも可愛いとか好きとか言われてちやほやされて。
ゆくゆくは、王太子であるエドワードの寵愛を一身に受ける可憐な王太子妃として周囲にかしずかれる存在になりたかった。
王太子妃になってからも、あたしのことを愛してくれるイケメンたちとの関係は続けて、楽しい毎日を過ごすの。

それなのに、この世界はほんとにバグが多すぎたわ!

まず、悪役令嬢のイザベラ。
婚約者候補のエドワードと親しくしてるヒロインに嫉妬していじめるキャラなのに、なぜか全然あたしに絡んでこない。この時点でキャラ崩壊が起きてるからおかしい。
イザベラにいじめられてるってことにしないと、あたしが可哀想だけど健気で可愛いヒロインでいられなくなっちゃうのよ?そんなのダメだわ。

次に、王太子のエドワード。
教会で猫を追いかけてたら…っていう出会い方も会話の始め方も何もかもゲームと一緒だったはずなのに、なぜか彼の隣にはウィリアムがいて、ふたりはあたしとたいして言葉を交わそうともせずに帰ってしまった。
そのあと学園で会ってもあんまりあたしと喋ろうとしてくれないし、なんかいつ見てもウィリアムと一緒にいるから「そんなに仲良かったんだ?」みたいな気持ちになったわ。

そして、公爵令息のウィリアム。
メイン攻略対象じゃないからゲームではそんなにたくさん出番がなかったけど、背高いしスタイル抜群で顔面もびっくりするくらい整ってて、ミステリアスな男の色気と物腰柔らかな振る舞いの相乗効果がほんとにやばかった。
ぶっちゃけ実物見てみたらエドワードよりもあたしの好みにドンピシャだったし途中から本命に据えてたんだけど、なんか塩対応多めで「どうしてあたしのこと好きになんないの?」って不思議でたまらなかったわ。
ウィリアムってエドワードルートでヒロインに横恋慕するキャラだから、あたしに恋をしなきゃおかしいのに。

極めつけは、まさかのウィリアムとエドワードがデキてるって事実。
ふたりがいちゃいちゃちゅっちゅっしてるのを見せつけられたけど、もうこれバグ以外の何物でもなくない?って思ってた。
だって、あたしはヒロインなのよ。攻略対象があたし以外のことを好きになるなんて、絶対ありえない!

ゲームをやり込んでたあたしからすればほんとにありえないバグだらけだったけど、ここは間違いなく『セカ愛』の世界。

ヒロインは、幸せになれなきゃダメでしょ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

完結【BL】紅き月の宴~Ωの悪役令息は、αの騎士に愛される。

梅花
BL
俺、アーデルハイド伯爵家次男のルーカス・アーデルハイドは悪役令息だった。 悪役令息と気付いたのは、断罪前々日の夜に激しい頭痛に襲われ倒れた後。 目を覚ました俺はこの世界が妹がプレイしていたBL18禁ゲーム『紅き月の宴』の世界に良く似ていると思い出したのだ。 この世界には男性しかいない。それを分ける性別であるα、β、Ωがあり、Ωが子供を孕む。 何処かで聞いた設定だ。 貴族社会では大半をαとβが占める中で、ルーカスは貴族には希なΩでそのせいか王子の婚約者になったのだ。 だが、ある日その王子からゲームの通り婚約破棄をされてしまう。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

お助けキャラに転生したのに主人公に嫌われているのはなんで!?

菟圃(うさぎはたけ)
BL
事故で死んで気がつけば俺はよく遊んでいた18禁BLゲームのお助けキャラに転生していた! 主人公の幼馴染で主人公に必要なものがあればお助けアイテムをくれたり、テストの範囲を教えてくれたりする何でも屋みたいなお助けキャラだ。 お助けキャラだから最後までストーリーを楽しめると思っていたのに…。 優しい主人公が悪役みたいになっていたり!? なんでみんなストーリー通りに動いてくれないの!? 残酷な描写や、無理矢理の表現があります。 苦手な方はご注意ください。 偶に寝ぼけて2話同じ時間帯に投稿してる時があります。 その時は寝惚けてるんだと思って生暖かく見守ってください…

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

処理中です...