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私!! 南萌絵!!

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 私は ミナミ 萌絵モエ。高校生でアイドルをやってるの! 学園が無くなっちゃう~っとかじゃなくって趣味でやってるんだけどね! まぁあんまり売れてないんです……あはは。

 だけどアイドルは誰にでも夢をあげる仕事で、とっても楽しいから大丈夫! しかも! 最近はちらほらファンの人が増えてきてるんだよ! いやぁ~いっつも頑張ってるからね~嬉しいな♪

 とと、ダンススタジオに着いちゃった。
 遅れたから怒られるかな~……
 でもお詫びのお菓子を持ってきたから大丈夫!!

「遅くなっちゃってごめ~ん!! お詫びにお菓子いっぱい持ってきたから許して!!」

「もぉー、もえー遅い! 今度の今度はお菓子くれるからって許さないよ!」

 この子は私と同じグループの、河合カワイ彩乃アヤノちゃん!

 あやのちゃんは、ダンスが得意でいつも私にダンスを教えてくれてるんだ!
 もうキレッキレもキレッキレでカッコいいんだよ!

「あやの、もえは楽しく練習がしたかったんだろう。そんなに責めてあげるな」

 この子も私と同じグループの、鈴宮凛ちゃん!
 りんちゃんはね! 歌が上手くて、私も聞いてたらライブ中でも聞き入っちゃうぐらい上手いんだよ!!

 澄んでるっていうか、迫力があるっていうか。

 もうすっごいんだよ!
 しかもロングの黒髪がぐっど!!


「むぅ……凛はいっつも、もえの味方に」

「? 私は誰の味方にはなってないけど」

「もぉー! そういう訳じゃなくって!!」

「も、もぉ~喧嘩は駄目だよぉ」

「もえのせい!」

 そ、そんなぁ
 こういう時は、話題転換をっ

「あ、そういえばあの動画見たー?」 

「あー、あれねー。なんというか……エモい」

「分からなくもないね」

「でしょ? めちゃめちゃエモいでしょ?」

 こういう風に、価値なんか一切ない、のんびりした時間を作るのも立派なアイドルだって教えてもらったからね、ちゃんと上手く出来てよかった。

 ん? なんか視線が。

「もー二人ともなにー、そんなに私の事見て、私の事が好きになっちゃった?」

「違うわ!! いやね、もえにはアイドルとして負けるなーって」

「同感、勝てないよ」

「いやいや! なんでなんで? 私音痴だし、ダンス苦手だし……」

 正直私が二人の足を引っ張ってるって自覚あるし……

「そうだね、だけど歌がうまかったら、歌手にもなれるでしょ?」

「ダンスが上手かったらダンサーにもなれるー」

「だけどね、もえ。見ている人に夢を与える事が一番上手なのが、もえだけなんだよ」

「つまり、一番アイドルなのは、もえってこと」

「あやのちゃん……! りんちゃん……!」

「……あはは! ちょっともーシリアス過ぎるよーじゃあ練習しよ!練習!」

「そうだね、やろっか」

「よっしゃ! やろ!」

「じゃあ! やっぱり最初は!! 私たちの初めての歌!!」

「「「目指せ!!アイドル!!」」」 

 ドアが開く。
 私達は、その時はプロデューサーの人かな?

 と、そう思っていました。

「え、誰ですか?」

 凛ちゃんは、その入ってきた何かに喋りかけた。
 何にせよ、ここにいるのはおかしかったから。

 入ってきた何かは言った。

「私は萌絵だよ?」



───────────────

 私は ミナミ 萌絵モエ

 高校生でアイドルをやってるの!
 あんまり売れてないけどね……とほほ……


 だけどアイドルは誰にでも夢をあげる仕事で、とっても楽しいから大丈夫!
 しかも! 最近はちらほらフアンの人が増えてきてるんだよ!

 いやぁ~いっつも頑張ってるからね~
 嬉しいな♪

 それで毎日放課後、皆で集まって駄弁ったりしてるんだよね~

「もぉー、もえー遅い! って、駄弁ってるんじゃなくって練習でしょ?」

 この子は私と同じの、河合カワイ彩乃アヤノちゃん!
 あやのちゃんは、才能がスッゴいあるんだよ!

「あやの、もえは自分のペースで行きたいんだ、急かしてやるな」

 この子も私と同じの、鈴宮凛ちゃん!
 りんちゃんはね! 天才なんだよ!

「むぅ……凛はいっつも、もえを甘やかすぅ」

「? 私はあやのも甘やかしてるつもりだけど」

「もぉー! そういう訳じゃなくって!!」

 喧嘩は駄目だよぉ……
 私のために争わないでっ

 あっそうそう、今日のお昼の番組見た? 面白かったよねー

「あ! 見た見た! 面白かった!」

「私も見たよ、とっても面白かった」


 だよね! だよね!
 だけど嫌いな芸人が出てたからチャンネル回しちゃったんだよね……

「あー分かるー」

「そうだね、分かるよ。下品だよね」

 しかも! しかもしかもしかもしか!
 今日ずっと工事の音がうるさくて寝れなかったんだよねー

「あーうるさかったよねー」

「本当に人の事も考えてほしいよねー」

「もぉーほんとープッツンしちゃうとこだったもん!」

「ハハハやっぱりもえは面白いなー」
「しかもかわいいし!」

 えへへ~嬉しいなぁ~
 で……なにしに来たんだっけ?

「躍りの練習に決まってるでしょーが?!」

「ハハハ、もえのそういう所好きだよ」

 てへへ褒められちゃった

「てゆーかさ! てゆーかさ!」

「ん?」

「なに? もえ」

 こういうほんわかした空気好きだなぁーって!

「……んーまぁ、そうだねぇ」

「分かるよ、もえ」

 だけど……よし!
 頑張ってもっと売れる様にならなきゃ!
 じゃあ練習しよっか!!

「私達の」

「初めての曲」


「目指せ!! アイドル!!」




「五月蝿い!!!」


「毎日毎日毎日毎日毎日毎日……いい加減にしなさい!! その一人芝居も大きな声で……気持ち悪いったらありゃしない!!」

 え? おばさん誰?
 いきなり私達の控え室に入ってきて。

「というか、もえって誰? アンタはよし子でしょ!!」

 違うよ。
 よし子じゃないよ私、萌絵だよ?

「私はね? アンタの事を思って言ってるんだよ? ずっと部屋に引きこもってて、もう四十でしょ? いい加減バイトでも」

「キィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

「ちょっと!よし子!!」

 私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵、私は萌絵。

 私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生、私は高校生。


……よし!

「私、南萌絵! 高校生でアイドルをやってるの!!」

 アイドルは、誰にでも夢をあげる仕事だもん!

 私はアイドルだよ。

「目指せ!! アイドル!!」


───────────────

「私は萌絵だよ?」


「は? アンタ何言ってんの?」

 彩乃ちゃんが怒鳴った。

 私はまだ、何が起こっているのか状況を飲めていなかった。

「すみません。ここは関係者しか立ち入れないので、お引き取りを」

 凛ちゃんが、丁寧に帰ってもらおうと促した。
 勇気があったと思う。
 私はまだ何もしていない。

「なんで? 私、同じグループでしょ?」

 私は喋っていない。

「い、いえそれは違います」

 凛ちゃんは驚いて、言葉に詰まった。
 だって、言葉に一切躊躇がなかったから。

「もぉー冗談はやめてよー凛ちゃん。彩乃ちゃんもー、からかってるー?」

 私は喋ってない。

「すみませーん、ほんっとうに迷惑なので帰ってください」
 彩乃ちゃんが、帰ってもらおうと、近づき、強めに言った。

「迷惑だなんて酷いなー、彩乃ちゃん」

 私は喋っていない。
 彩乃ちゃんに触れた。

「私達のグループにアンタみたいなオバサん゛ッ……」

 彩乃ちゃんが刺された。

「キィアアアアアアアアアアアアア」

 私も、凛ちゃんも叫んでない。

「オバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃないオバサンじゃない」

 何度も、何度も繰り返し言い続けて、彩乃ちゃんのお腹や顔を刺し続けていた。

 私は泣いていた。

 叫びたかったけど、口が震えて、声を出そうとしても嗚咽しか出来なかった。

「フー゛ッ゛!! ン゛ー゛ッ゛!! フー゛ッ゛!!」

「ヒッ」

 凛ちゃんが、初めて取り乱した。

 慌てて外へ逃げようとした。

 だけど、長い、ロングの髪を掴まれ、転けた。


「りんちゃん、なんで逃げるの? なんで? なんで? 褒めて?」

 私は喋っていない。

「もえ!! 逃げて!!」

 私に向かって凛ちゃんが叫ぶ、普段の冷静な凛ちゃんの姿はなかった。


「萌絵は私だよ?」

 私は喋っていない。

 私は凛ちゃんを殺していない。

 凛ちゃんを、何度も、何度も、刺して刺して。

 とても上手な歌を出す喉を裂いて、裂いて。


 私は、咄嗟に椅子の影に隠れた。


 夢でありますように、夢でありますように
夢でありますように、夢でありますように、夢でありますように、夢でありますように。

 何度も願った。

「アイドルは夢をあげる仕事なんだよ!」

 私は喋ってない。

「目指せ!! アイドル!!」
───────────── 
「……以上です」 
 目の前の警察官さんが、私はあの時あった話を全て話した。

「以上……ねぇ。で、その犯人の~オバサンっていう人の顔の特徴は覚えてる?」
 警察官さんが、私に優しく語りかける。

「覚えてないです。というより、思い出せないんです」

「そっか、ごめんね。辛いこと思い出させちゃって」

 違う。
 私は、ちゃんと、しっかり、くっきり覚えている。
 全部事細かに言うのは可能だった。

 だけど、だけど、言いたくなかった。

 というか、言っても信じてもらえないだろうと思った。

 思い出す顔が、私と同じ顔をしていた。

 というより、私だった。
 だけど、私は、あの時三人一緒だった。
 私は途中から入ってきてない。
 私は彩乃ちゃんに怒鳴られてない。
 私は凛ちゃんに帰るように促されてはいない。

 私は、オバサンじゃない。

 オバサンじゃない。オバサンじゃない。オバサンじゃない。オバサンじゃない。オバサンじゃない。オバサンじゃない。オバサンじゃない。オバサンじゃない。

 違う、私はミナミ萌絵モエ
 私は本物のミナミ萌絵モエ

 え? 私は南萌絵ミナミモエ
 minami萌絵moeは私?

 南萌絵みなみもえは誰?

 アイドルは夢をあげる。

 私はアイドル?

 アイドルは私?

 アイドルは夢?

 私は夢?

 私はいる?


「もえちゃーん」「がんばってー」「応援してるよー」


 見たことがないファンだ。

 私の知ってるファンじゃない。

 私のアイドル生活は?

 違う、違う、違う。

 私が萌絵。
 後から入ってきたのが私。

 いや、違う。

 先にいたのが萌絵。

 あれ?

 いたんだっけ?

 萌絵っていたんだっけ?

 私は誰だっけ?
 
 アイドルは夢をあげる仕事……?

 私は夢?
 
 ぷかぷか浮かぶ夢?

 ふわりふわり空中に浮いちゃう夢?

 あっ浮遊感。

───────────────

『高校生アイドル殺人事件の唯一の生き残りだった南萌絵さんが、昨日自殺した事が判明しました。
病院での……』


「うわーマジか俺推してたのになー」

「へーてかさ、この南萌絵って娘」

「顔老けてね?」
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