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捕まった後のお話
33.お茶を飲みます。 <大谷>
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「三好さん、気にしないでください。私も気にしてないですから……」
何とかそれだけ絞り出した。
そう、本当にそうなんです。
浮かれて三好さんに遠慮する事も忘れていた……色ボケ野郎なんですから。と言うかむしろ、あの週末なんか丈さんと連れ立って焼き鳥屋に入って行った三好さんに嫉妬しちゃったくらいで―――三好さんから絡まれた事に対する気持ちなど、すっかり吹き飛んでしまっていた。
そして何となく三好さんが丈さんに好意を持っている事は気付いていたのに、意図的では無いにせよ、結果的に出し抜く形になってしまった。
謝らなけれなならないのは、むしろコッチかもしれない。でも「三好さんの想い人と付き合ってしまってごめんなさい!」なんて頭の湧いたような台詞は、こちらも死んでも口に出せない。何様だっ!てハリセンで頭を叩かれるだろう。
「ありがとう、本当に大谷さんって良い人ね。だから……」
「え?」
「ううん、何でも」
そう言って首を振り、手にしたカフェラテに口をつける三好さん。そんな所作もサラリと涼やかで……あれ?この人を差し置いて、何で私、あの『亀田課長』と付き合えたんだろうって自問してしまう。どう考えても勝ち目ナシですよ。本当に彼女に対するアドバンテージってうさぎを飼っている事ぐらいだ。……やっぱ、おまけか。うん、子供のオモチャに申し訳程度についているお菓子。昔欲しかったあの子供用オマケ付きお菓子のガムとかチョコとか。それが私だ。
それに『良い人』なんて滅相も無い。オプションが『うさぎ』のみの悪役だし……多少のホラー要素とか突っ走りがあっても、そんな風に自分の過ちをサラッと認められる三好さんの方が断然素敵です、うん。
「それで―――木下さん達に何か言われたの?」
唐突に話題が変わって、口を付けて飲みかけていたソイラテを多めに飲み込んでしまった。
「―――っ」
「だ、大丈夫?」
「う……あ、はい。大丈夫です」
もう色々考え過ぎて、どうにも力が入らない。少し躊躇ったものの、結局キラキラ女子達に初めに言われた『お仕事大好きなんでしょ?』云々と言う嫌味についてツルっと漏らしてしまった。流石に辻さんの事は丈さんの事もあるし説明しづらくて、かろうじて避けた。
私の言葉を聞いて、三好さんは腕組みをして苦々しい顔をした。
「あー、分かるわ。私もそういうの、しょっちゅう言われてきたかも」
「え?三好さんがですか?正社員なのに……?」
意外だ。何となく私の中で、正社員が仕事に向上心を持って取り組むのは当り前で批難される事ではないって言う固定観念があったのだ。営業課の人達の働きぶりを見ていて、そんな印象を受けていた。あ、一人例外がいた。そういえば湯川さんってニコニコしているけどあんまり頑張っているってイメージないなぁ。でも彼は他のバリバリ働いている人に嫌味を言ったりしないしな。
「うん、ウチの課では無いけど……企画課に入る前かな?私お菓子の商品開発したくて結構アピール頑張ってたんだ。それが鼻につくって言う人がいてね、よく遠巻きに嫌味言われたものだわー」
「大変でしたね」
「うん、その人は全っ然仕事適当だったからね。要領は良いけど突き詰めないって言うか……あんまりお仕事好きじゃなかったみたい。でも取り巻き作るのは上手でね、私よりずっと人付き合いが上手くって。一時期ちょっと孤立気味だったかな?でも企画課に異動できて―――日常目にしなくなったら、気にならなくなったな。念願の仕事に付けて、夢中でそれどころじゃなくなっちゃった」
そう言って笑う三好さんの笑顔に屈託は無い。
「何故か異動した後、馴れ馴れしくなってビックリしたけど。私の事嫌って、コソコソ悪口吹聴してたくらいなのに―――何で擦り寄って来るのか不思議だった。どう考えても好かれているって思えなかったから」
「何か目的があったんですかね」
そんな掌返し、疑ってしまうのは当然だ。
「私もそう思ったんだけど―――今改めて考えると、彼女、私の事羨ましかったのかなって思うんだ」
「『羨ましい』って……羨ましかったら、自分も三好さんの真似して頑張れば良いのに」
ポロリと疑問が口に出た。
すると三好さんがニッコリして、頷いた。
「そう、大谷さんはそう考えるよね。だから人が羨ましかったら、自分も頑張ろうって前向きに考えられる。でもそれがどうしてか出来ない人は―――羨ましい対象を攻撃して足を引っ張るの。羨ましい感情を自分に起こさせる相手を目障りだから躓かせて排除してやろうってね」
「えー……」
思いっきり引いてしまう。目障りだったらソッポを向けば良いんじゃないか?と思う。私ならは嫌な事にあったり嫌な人に会ったら、すぐにうータンの方に目を向けて逃げ出しちゃう。
「……迷惑な考え方ですね」
「うん、私も思った。迷惑だなぁって、嫌なら私に構わなければ良いのにって。だから、大谷さんは木下さん達の嫌味は真に受けなくて良いと思う。本当に直すべき所なら、もっと大きな声で指摘するでしょう?うっすら聞こえるように言っていても率直に言わないのは、きっと自分が間違っているって彼女達も十分承知しているからだと思う。大谷さんは間違ってない。彼女達が勝手に大谷さんを羨ましがって―――でも自分は同じことする勇気も根気もなくって、イライラを的外れに貴女にぶつけて解消しているだけなんだから」
目の前の視界がクリアになったような気がする。
三好さんってスゴイな。きっとこんな風に割り切れるようになるまで、色々な苦労をしてきたのじゃないだろうか。
「三好さん、有難うございます。何だか―――とても肩の荷が下りたような気がします」
本当に肩が軽くなった。もしかして今まで木下さん達の生霊みたいなものが憑いていたのかもって思うくらい。いや、呪いか。『呪い』って……人の不幸を願って、その事を言葉にする事なのかもしれない。とすると、私は呪いの影響を正面から真面に受けとめちゃった訳で。三好さんは差し詰め、陰陽師か神社の神主さん……いや、巫女さんか?お祓いでもして貰った気分だ。
私が両手を握って感謝の思いで彼女を見つめると、三好さんは居心地悪そうに身じろぎした。
「でも結局私も彼女達と一緒だったの。それに気付いてやっと、そう言う気持ちを理解する事が出来たんだ」
「三好さんは全然……」
「私、亀田課長の事が好きだったの」
ドキン!と心臓が跳ねた。
み、みよしさん……今日はホラーと言うよりガチンコ勝負?!それともドッキリ??
私はいきなり話題に投下された、確信に触れる台詞に胸をズキュンと撃ち抜かれてしまった。
だけど三好さんが私に向ける視線はとても穏やかで真摯で……怖がりな私は一瞬逃げ出したいと思ったのだけれども、何とかそれを受け止めて居住まいを正した。
「それで嫉妬しちゃって暴走して……セクハラがどうとか、道徳的な言い訳してたけど、単に羨ましかっただけなの。大谷さんの事が」
何と言って良いか分かららず、私は押し黙ってしまう。
そんな気はしたけれども。していたんだけれども―――実際に面と向かって告白される衝撃はスゴイ。と言うかやらかしちゃった自分を認めて、口に出せる三好さんがスゴイ。
「……私もその、」
私は勇気を振り絞って口を開いた。真っすぐ私を見ている、三好さんを正面から見据える。
「亀田課長の事が、好きです」
「うん」
三好さんはニコリと笑って頷いた。
「だと思った……!なのに、否定するからますます腹が立ったのよね!」
そしてあっけらかんと言い放った。
図星過ぎて、言葉にならない。
そう、迷惑そうな顔をしながら―――私だって丈さんとの交流を楽しんでいたのだ。そしてハッキリ意識はしていなかったけれど、きっともうあの時は既に彼の事を慕わしく思っていたのだと思う。
だからそんな私の矛盾や嘘に、三好さんは反発したのだろう。お互い意識してそうした訳ではないのだけれど。
思わず目を合わせて―――二人で笑ってしまう。
三好さん―――カッコ良すぎます……!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2017.3.25誤字修正(時雨様へ感謝)
何とかそれだけ絞り出した。
そう、本当にそうなんです。
浮かれて三好さんに遠慮する事も忘れていた……色ボケ野郎なんですから。と言うかむしろ、あの週末なんか丈さんと連れ立って焼き鳥屋に入って行った三好さんに嫉妬しちゃったくらいで―――三好さんから絡まれた事に対する気持ちなど、すっかり吹き飛んでしまっていた。
そして何となく三好さんが丈さんに好意を持っている事は気付いていたのに、意図的では無いにせよ、結果的に出し抜く形になってしまった。
謝らなけれなならないのは、むしろコッチかもしれない。でも「三好さんの想い人と付き合ってしまってごめんなさい!」なんて頭の湧いたような台詞は、こちらも死んでも口に出せない。何様だっ!てハリセンで頭を叩かれるだろう。
「ありがとう、本当に大谷さんって良い人ね。だから……」
「え?」
「ううん、何でも」
そう言って首を振り、手にしたカフェラテに口をつける三好さん。そんな所作もサラリと涼やかで……あれ?この人を差し置いて、何で私、あの『亀田課長』と付き合えたんだろうって自問してしまう。どう考えても勝ち目ナシですよ。本当に彼女に対するアドバンテージってうさぎを飼っている事ぐらいだ。……やっぱ、おまけか。うん、子供のオモチャに申し訳程度についているお菓子。昔欲しかったあの子供用オマケ付きお菓子のガムとかチョコとか。それが私だ。
それに『良い人』なんて滅相も無い。オプションが『うさぎ』のみの悪役だし……多少のホラー要素とか突っ走りがあっても、そんな風に自分の過ちをサラッと認められる三好さんの方が断然素敵です、うん。
「それで―――木下さん達に何か言われたの?」
唐突に話題が変わって、口を付けて飲みかけていたソイラテを多めに飲み込んでしまった。
「―――っ」
「だ、大丈夫?」
「う……あ、はい。大丈夫です」
もう色々考え過ぎて、どうにも力が入らない。少し躊躇ったものの、結局キラキラ女子達に初めに言われた『お仕事大好きなんでしょ?』云々と言う嫌味についてツルっと漏らしてしまった。流石に辻さんの事は丈さんの事もあるし説明しづらくて、かろうじて避けた。
私の言葉を聞いて、三好さんは腕組みをして苦々しい顔をした。
「あー、分かるわ。私もそういうの、しょっちゅう言われてきたかも」
「え?三好さんがですか?正社員なのに……?」
意外だ。何となく私の中で、正社員が仕事に向上心を持って取り組むのは当り前で批難される事ではないって言う固定観念があったのだ。営業課の人達の働きぶりを見ていて、そんな印象を受けていた。あ、一人例外がいた。そういえば湯川さんってニコニコしているけどあんまり頑張っているってイメージないなぁ。でも彼は他のバリバリ働いている人に嫌味を言ったりしないしな。
「うん、ウチの課では無いけど……企画課に入る前かな?私お菓子の商品開発したくて結構アピール頑張ってたんだ。それが鼻につくって言う人がいてね、よく遠巻きに嫌味言われたものだわー」
「大変でしたね」
「うん、その人は全っ然仕事適当だったからね。要領は良いけど突き詰めないって言うか……あんまりお仕事好きじゃなかったみたい。でも取り巻き作るのは上手でね、私よりずっと人付き合いが上手くって。一時期ちょっと孤立気味だったかな?でも企画課に異動できて―――日常目にしなくなったら、気にならなくなったな。念願の仕事に付けて、夢中でそれどころじゃなくなっちゃった」
そう言って笑う三好さんの笑顔に屈託は無い。
「何故か異動した後、馴れ馴れしくなってビックリしたけど。私の事嫌って、コソコソ悪口吹聴してたくらいなのに―――何で擦り寄って来るのか不思議だった。どう考えても好かれているって思えなかったから」
「何か目的があったんですかね」
そんな掌返し、疑ってしまうのは当然だ。
「私もそう思ったんだけど―――今改めて考えると、彼女、私の事羨ましかったのかなって思うんだ」
「『羨ましい』って……羨ましかったら、自分も三好さんの真似して頑張れば良いのに」
ポロリと疑問が口に出た。
すると三好さんがニッコリして、頷いた。
「そう、大谷さんはそう考えるよね。だから人が羨ましかったら、自分も頑張ろうって前向きに考えられる。でもそれがどうしてか出来ない人は―――羨ましい対象を攻撃して足を引っ張るの。羨ましい感情を自分に起こさせる相手を目障りだから躓かせて排除してやろうってね」
「えー……」
思いっきり引いてしまう。目障りだったらソッポを向けば良いんじゃないか?と思う。私ならは嫌な事にあったり嫌な人に会ったら、すぐにうータンの方に目を向けて逃げ出しちゃう。
「……迷惑な考え方ですね」
「うん、私も思った。迷惑だなぁって、嫌なら私に構わなければ良いのにって。だから、大谷さんは木下さん達の嫌味は真に受けなくて良いと思う。本当に直すべき所なら、もっと大きな声で指摘するでしょう?うっすら聞こえるように言っていても率直に言わないのは、きっと自分が間違っているって彼女達も十分承知しているからだと思う。大谷さんは間違ってない。彼女達が勝手に大谷さんを羨ましがって―――でも自分は同じことする勇気も根気もなくって、イライラを的外れに貴女にぶつけて解消しているだけなんだから」
目の前の視界がクリアになったような気がする。
三好さんってスゴイな。きっとこんな風に割り切れるようになるまで、色々な苦労をしてきたのじゃないだろうか。
「三好さん、有難うございます。何だか―――とても肩の荷が下りたような気がします」
本当に肩が軽くなった。もしかして今まで木下さん達の生霊みたいなものが憑いていたのかもって思うくらい。いや、呪いか。『呪い』って……人の不幸を願って、その事を言葉にする事なのかもしれない。とすると、私は呪いの影響を正面から真面に受けとめちゃった訳で。三好さんは差し詰め、陰陽師か神社の神主さん……いや、巫女さんか?お祓いでもして貰った気分だ。
私が両手を握って感謝の思いで彼女を見つめると、三好さんは居心地悪そうに身じろぎした。
「でも結局私も彼女達と一緒だったの。それに気付いてやっと、そう言う気持ちを理解する事が出来たんだ」
「三好さんは全然……」
「私、亀田課長の事が好きだったの」
ドキン!と心臓が跳ねた。
み、みよしさん……今日はホラーと言うよりガチンコ勝負?!それともドッキリ??
私はいきなり話題に投下された、確信に触れる台詞に胸をズキュンと撃ち抜かれてしまった。
だけど三好さんが私に向ける視線はとても穏やかで真摯で……怖がりな私は一瞬逃げ出したいと思ったのだけれども、何とかそれを受け止めて居住まいを正した。
「それで嫉妬しちゃって暴走して……セクハラがどうとか、道徳的な言い訳してたけど、単に羨ましかっただけなの。大谷さんの事が」
何と言って良いか分かららず、私は押し黙ってしまう。
そんな気はしたけれども。していたんだけれども―――実際に面と向かって告白される衝撃はスゴイ。と言うかやらかしちゃった自分を認めて、口に出せる三好さんがスゴイ。
「……私もその、」
私は勇気を振り絞って口を開いた。真っすぐ私を見ている、三好さんを正面から見据える。
「亀田課長の事が、好きです」
「うん」
三好さんはニコリと笑って頷いた。
「だと思った……!なのに、否定するからますます腹が立ったのよね!」
そしてあっけらかんと言い放った。
図星過ぎて、言葉にならない。
そう、迷惑そうな顔をしながら―――私だって丈さんとの交流を楽しんでいたのだ。そしてハッキリ意識はしていなかったけれど、きっともうあの時は既に彼の事を慕わしく思っていたのだと思う。
だからそんな私の矛盾や嘘に、三好さんは反発したのだろう。お互い意識してそうした訳ではないのだけれど。
思わず目を合わせて―――二人で笑ってしまう。
三好さん―――カッコ良すぎます……!!
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