91 / 375
捕まった後のお話
1.彼氏が出来ました。 <大谷>
しおりを挟む
亀田と大谷が付き合う事になった、その後のお話です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて『彼氏』が出来ました!
そう『彼氏(仮)』でも『彼氏(?)』でもなく、正真正銘の!本物の!ちゃんと「付き合ってくれ」と正面切ってド直球で告白され「お願いします」と返事をした誤解でも勘違いでも無い彼氏です……!
ふ……ふふふ……あ、涎が。いかんいかん。
タイピングの速度も上がる上がる。相変わらず職場では厳しい態度を崩さない亀田課長だけれども、ボサボサ頭で寝惚けている可愛い所を知っているからどんなに低い声を出されたって、全く気にならなーい!現に今も赤ペン指導中なんですが……赤いボールペンを持つ大きな手を見ていると、この手が私の頬を包んでそれから……なーんて、思い出してしまってニヤニヤが止まらない。
「聞いているのか?」
「え」
「大谷、今俺は何と言った?」
「え、ええと……」
ハーっと溜息を吐かれて気が付く。
あれあれ?あ……私全然聞いて無かった……?!
「す、すいません……!」
「……いいか、もう一回言うからよく聞けよ」
「は、はいっ……お願いします!」
うわーん!駄目だっ!色ボケだぁあ!
浮かれすぎててフワフワしちゃってるっ……!
職場でビシッとカッコ良くスーツを着こなし、銀縁眼鏡の下の怜悧な視線を光らせている亀田課長に、いつの間にか見惚れてしまっていた。あぁ、私の『彼氏』カッコいいなぁ……なんて。
クスン。呆れられちゃったかなぁ……。
亀田課長、職場では全然変わらないんだもん。
私だけなのかなぁ、こんな風に浮かれているのって。
……そうだよね、亀田課長にとっては私が初めての彼女じゃない。
もう三十八歳だしね、そりゃそうだよね。かつて付き合った相手が何人くらいいたのか、これまで皆の話を聞き流していたから正確には知らないんだけど……一人とか二人では無い筈。
余裕だよなぁ。
私みたいに浮かれ捲って、無意識に見惚れちゃうなんて―――ないんだろうなぁ。
「……」
うー……よしっっ!!
亀田課長にもっと好きになって貰えるよう、少なくとも呆れられて振られないよう、もっとお仕事頑張ろう……!
私は握りこぶしをギュッと握り込んだ。
「……だ。ここも、一段ズレてるから直してくれ。直ったら左端一か所止めで七部」
「あ、はい。直した後一度チェックしますか?」
「いい、大谷に任せる」
『大谷に任せる』……『任せる』……『任せる』……
亀田課長の低い声が私の耳に木霊した。
「お任せくださいっ……七部ですね!」
私はビシッと姿勢を正し、いつになく声に力を込めて返事をした。私の眼力と勢いに気圧されたように、亀田課長は目を見開き一拍遅れて口を開いた。
「おお……頼むぞ」
「はいっ!」
私はニッコリ笑って。それからクルリと背を向け張り切って自分の席に戻ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて『彼氏』が出来ました!
そう『彼氏(仮)』でも『彼氏(?)』でもなく、正真正銘の!本物の!ちゃんと「付き合ってくれ」と正面切ってド直球で告白され「お願いします」と返事をした誤解でも勘違いでも無い彼氏です……!
ふ……ふふふ……あ、涎が。いかんいかん。
タイピングの速度も上がる上がる。相変わらず職場では厳しい態度を崩さない亀田課長だけれども、ボサボサ頭で寝惚けている可愛い所を知っているからどんなに低い声を出されたって、全く気にならなーい!現に今も赤ペン指導中なんですが……赤いボールペンを持つ大きな手を見ていると、この手が私の頬を包んでそれから……なーんて、思い出してしまってニヤニヤが止まらない。
「聞いているのか?」
「え」
「大谷、今俺は何と言った?」
「え、ええと……」
ハーっと溜息を吐かれて気が付く。
あれあれ?あ……私全然聞いて無かった……?!
「す、すいません……!」
「……いいか、もう一回言うからよく聞けよ」
「は、はいっ……お願いします!」
うわーん!駄目だっ!色ボケだぁあ!
浮かれすぎててフワフワしちゃってるっ……!
職場でビシッとカッコ良くスーツを着こなし、銀縁眼鏡の下の怜悧な視線を光らせている亀田課長に、いつの間にか見惚れてしまっていた。あぁ、私の『彼氏』カッコいいなぁ……なんて。
クスン。呆れられちゃったかなぁ……。
亀田課長、職場では全然変わらないんだもん。
私だけなのかなぁ、こんな風に浮かれているのって。
……そうだよね、亀田課長にとっては私が初めての彼女じゃない。
もう三十八歳だしね、そりゃそうだよね。かつて付き合った相手が何人くらいいたのか、これまで皆の話を聞き流していたから正確には知らないんだけど……一人とか二人では無い筈。
余裕だよなぁ。
私みたいに浮かれ捲って、無意識に見惚れちゃうなんて―――ないんだろうなぁ。
「……」
うー……よしっっ!!
亀田課長にもっと好きになって貰えるよう、少なくとも呆れられて振られないよう、もっとお仕事頑張ろう……!
私は握りこぶしをギュッと握り込んだ。
「……だ。ここも、一段ズレてるから直してくれ。直ったら左端一か所止めで七部」
「あ、はい。直した後一度チェックしますか?」
「いい、大谷に任せる」
『大谷に任せる』……『任せる』……『任せる』……
亀田課長の低い声が私の耳に木霊した。
「お任せくださいっ……七部ですね!」
私はビシッと姿勢を正し、いつになく声に力を込めて返事をした。私の眼力と勢いに気圧されたように、亀田課長は目を見開き一拍遅れて口を開いた。
「おお……頼むぞ」
「はいっ!」
私はニッコリ笑って。それからクルリと背を向け張り切って自分の席に戻ったのだった。
0
お気に入りに追加
1,548
あなたにおすすめの小説
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる