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捕獲されまして。<大谷視点>
50.捕まえました。【最終話】
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「抱いて下さい……!」
本当にトチ狂っていたとしか言いようが無い。
すると課長はパチクリと眼鏡をしていない整った瞳を瞬かせて、首を振った。
「今は無理」
「そ、そうですか……」
ん?今は?
「お前、持ってるの?」
「え?何をですか?」
「避妊具」
一瞬、時が止まった。
そして私は首をブンブンと振る。
そ、そうか……。全くそんな事思い付きもしなかった!経験値の無さが、こんな形で露呈してしまうとは。
するとフッと亀田課長の口元が緩んだ。それから大きな手が伸びて来て―――私の頬に辿り着く。茫然としている私の頬をその大きな掌が包み込んだ瞬間、耐えられなくなって、私は目を瞑った。
それからむにっと唇に何か柔らかい物が触れる。
んんん???
チュッチュッっと何度か角度を変えて、押し付けられたそれが―――最後に私の額に押し付けられた。そしてギュッと体が温かい大きなものに包まれる。
目を瞑ったままでもわかる―――亀田課長が、その大きな体で私を抱き締めていた。
「かっ課長……あの」
「……」
「私その、まだ言いたい事が……その、私、亀田課長の事が……」
「大谷」
私のたどたどしい台詞が、亀田課長の低くて温かい声に遮られた。
「もういい」
えっ……『もういい』って……どう言う……
「大谷、俺と付き合ってくれ」
ギュウっと拘束が強まって……私の頭は真っ白になった。
「……一回りも年上のオジサンでも良ければ……」
私は思わず息を飲んだ。何と……!課長がそんな事を気にするなんて、意外だった。そう言われれば私と亀田課長の年って結構離れていたんだっけって、今更ながらに気が付いた。いや、知っていたんだけど……課長の素の姿を見てから、そう言う意識が吹っ飛んでしまっていた。だっていつも色々あって、怒ったり慌てたり、笑ったり……楽しくて。話していて一緒にいる事に、まるで違和感が無かったから。
「……『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』でも良ければ……」
「ぷっ……!」
思わず噴き出してしまった!だって、本当に気にしているんだなって分かって可笑しくなってしまったのだ。
課長は拘束を解き、改めて私の両手を握って体を離した。その真剣な表情に、思わず笑いが込み上げて来る。さっきまで緊張し過ぎてて……緊張が一気に解けてしまった所為か、ツボに嵌ってしまい笑いが止まらない。
「アハハハ」
「……笑ってないで、どうなんだ?」
「はい」
ホッとしてニマニマ口元が緩むのが―――止まらない。
「こちらこそ、お願いします」
ニッコリ笑ってそう答えると、私の顔を穴が開くほど見つめていた課長の頬が……少し赤くなったような気がした。
チュッと、もう一度額にキスを落とされて、またしてもギュッと抱き込まれてしまった。
「ちょっと出掛けて来るから、待ってろ」
「え?何処に行くんですか」
「コンビニ」
「お腹空きました?すぐ用意できますけど……」
おじいちゃんの野菜も漬物もあるし、冷凍ご飯もある。
「お前、さっき自分で言った事忘れてるだろ」
自分で……あっ!!!
「気が変わったって言っても、もう聞けないからな」
「うっ……」
真っ赤になった私にニヤリと笑いかけ、亀田課長は素早く服を着替えて私の家を出て行ってしまった。それで扉を出る直前でもう一度、頬を大きな両掌で包まれて今度は唇にキスをされた。
その後、亀田課長は割とすぐに戻って来て。
課長の居ぬ間にと、改めてお風呂に入っていた私の髪が乾き切らない内に引っ張られて、アッと言う間に視界が反転。
覆い被さる真剣な双眸を茫然と見ていて思い出したのは―――課長に初めて捕まって壁ドンされたあの日の光景だった。
その時、唐突に理解した。
あの時既に……私は亀田課長に捕われてしまっていたのだ。
胸がきゅうっと締め付けられて。私はたまらず手を伸ばし、ガバッと課長の首に抱き着いた。
「捕まえた……!」
恥ずかしくなって思わずお道化た台詞を放った私は、あまりにも世間知らずだったかもしれない。(と、後々思った)あんな仕草一つで、一回りも上の経験豊富(?)な相手がアッサリ煽られてしまうだなんて……想像もしていなかったのだ。
【捕獲されまして・完】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
偶然ですが、ちょうど50話で最終話となりました。
両想いになれて、作者が一番ホッとしております。何とかオチがついて良かった……!
最後の方で、あまりにうータンの出番が少なくてがっかりされた方がいらっしゃったらスイマセン。結局人間同士でくっ付いてしまいました……!ちゃんと二人はうータンも大事にするので今回だけ、許してやってください。
亀田視点、後日談も投稿する予定ですので、またご訪問いただけると嬉しいです。
お読みいただき、有難うございました!
本当にトチ狂っていたとしか言いようが無い。
すると課長はパチクリと眼鏡をしていない整った瞳を瞬かせて、首を振った。
「今は無理」
「そ、そうですか……」
ん?今は?
「お前、持ってるの?」
「え?何をですか?」
「避妊具」
一瞬、時が止まった。
そして私は首をブンブンと振る。
そ、そうか……。全くそんな事思い付きもしなかった!経験値の無さが、こんな形で露呈してしまうとは。
するとフッと亀田課長の口元が緩んだ。それから大きな手が伸びて来て―――私の頬に辿り着く。茫然としている私の頬をその大きな掌が包み込んだ瞬間、耐えられなくなって、私は目を瞑った。
それからむにっと唇に何か柔らかい物が触れる。
んんん???
チュッチュッっと何度か角度を変えて、押し付けられたそれが―――最後に私の額に押し付けられた。そしてギュッと体が温かい大きなものに包まれる。
目を瞑ったままでもわかる―――亀田課長が、その大きな体で私を抱き締めていた。
「かっ課長……あの」
「……」
「私その、まだ言いたい事が……その、私、亀田課長の事が……」
「大谷」
私のたどたどしい台詞が、亀田課長の低くて温かい声に遮られた。
「もういい」
えっ……『もういい』って……どう言う……
「大谷、俺と付き合ってくれ」
ギュウっと拘束が強まって……私の頭は真っ白になった。
「……一回りも年上のオジサンでも良ければ……」
私は思わず息を飲んだ。何と……!課長がそんな事を気にするなんて、意外だった。そう言われれば私と亀田課長の年って結構離れていたんだっけって、今更ながらに気が付いた。いや、知っていたんだけど……課長の素の姿を見てから、そう言う意識が吹っ飛んでしまっていた。だっていつも色々あって、怒ったり慌てたり、笑ったり……楽しくて。話していて一緒にいる事に、まるで違和感が無かったから。
「……『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』でも良ければ……」
「ぷっ……!」
思わず噴き出してしまった!だって、本当に気にしているんだなって分かって可笑しくなってしまったのだ。
課長は拘束を解き、改めて私の両手を握って体を離した。その真剣な表情に、思わず笑いが込み上げて来る。さっきまで緊張し過ぎてて……緊張が一気に解けてしまった所為か、ツボに嵌ってしまい笑いが止まらない。
「アハハハ」
「……笑ってないで、どうなんだ?」
「はい」
ホッとしてニマニマ口元が緩むのが―――止まらない。
「こちらこそ、お願いします」
ニッコリ笑ってそう答えると、私の顔を穴が開くほど見つめていた課長の頬が……少し赤くなったような気がした。
チュッと、もう一度額にキスを落とされて、またしてもギュッと抱き込まれてしまった。
「ちょっと出掛けて来るから、待ってろ」
「え?何処に行くんですか」
「コンビニ」
「お腹空きました?すぐ用意できますけど……」
おじいちゃんの野菜も漬物もあるし、冷凍ご飯もある。
「お前、さっき自分で言った事忘れてるだろ」
自分で……あっ!!!
「気が変わったって言っても、もう聞けないからな」
「うっ……」
真っ赤になった私にニヤリと笑いかけ、亀田課長は素早く服を着替えて私の家を出て行ってしまった。それで扉を出る直前でもう一度、頬を大きな両掌で包まれて今度は唇にキスをされた。
その後、亀田課長は割とすぐに戻って来て。
課長の居ぬ間にと、改めてお風呂に入っていた私の髪が乾き切らない内に引っ張られて、アッと言う間に視界が反転。
覆い被さる真剣な双眸を茫然と見ていて思い出したのは―――課長に初めて捕まって壁ドンされたあの日の光景だった。
その時、唐突に理解した。
あの時既に……私は亀田課長に捕われてしまっていたのだ。
胸がきゅうっと締め付けられて。私はたまらず手を伸ばし、ガバッと課長の首に抱き着いた。
「捕まえた……!」
恥ずかしくなって思わずお道化た台詞を放った私は、あまりにも世間知らずだったかもしれない。(と、後々思った)あんな仕草一つで、一回りも上の経験豊富(?)な相手がアッサリ煽られてしまうだなんて……想像もしていなかったのだ。
【捕獲されまして・完】
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偶然ですが、ちょうど50話で最終話となりました。
両想いになれて、作者が一番ホッとしております。何とかオチがついて良かった……!
最後の方で、あまりにうータンの出番が少なくてがっかりされた方がいらっしゃったらスイマセン。結局人間同士でくっ付いてしまいました……!ちゃんと二人はうータンも大事にするので今回だけ、許してやってください。
亀田視点、後日談も投稿する予定ですので、またご訪問いただけると嬉しいです。
お読みいただき、有難うございました!
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