捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
上 下
375 / 375
新妻・卯月の仙台暮らし

59.願いを込めます。【最終話】

しおりを挟む
本日二度目の投稿となります。
前話未読の方は、そちらからお読み下さい<(_ _)>

『新妻・卯月の仙台暮らし』最終話です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 丈さんの腕にしがみつくようにして少し急ぎ足で参道を歩く。
 神社の敷地に入って最初に上った階段の一番上、小さな高台になっている場所まで来て一旦足を止めた。
 右手には八上姫の手前に跪く大国主命の、精巧な砂像が展示されている。その二人の様子を微笑ましく見守っている、キューピッドになったうさぎも一緒だ。三体の砂の像に目を細め、それから真っすぐと参道の向こう、階段が差し示す方向に向き直る。

 少しだけ、二人とも無言でその美しい光景に見入った。

「見晴らし、良いね」
「ああ、日本海が一望できるな」

 階段を降りた処にある一つ目の鳥居、その向こうには国道越しに日本海が広がっている。

「また来たいね」
「そうだな」

 水平線に視線を残したまま、丈さんはそう頷いた。それから一つ深呼吸をして振り向き、隣に並んで立つ私にニッコリと微笑んだ。それは一緒に暮らす私が珍しいと感じるくらい、無邪気な笑顔だった。

「じゃあ、うさぎにお願いして行くか」
「うん!」

 もう一度、丈さんとここへ戻って来よう。

 スッキリとした気持でそう思う。
 アレコレ悩んでいた日々が嘘みたいに、晴れやかな気分。それはこの聖域の清涼な空間に邪気をすっかり振り落として貰ったかのように。

 これから先、またいつか……旅行前にあったようなとんでもない勘違いや小さなすれ違いを経験するかもしれない。
 でもきっと大丈夫。だって、私達は神様に誓ったのだから。『一緒にうータンを大事にして、楽しく暮らして行こう』って。
 誓いを破ったら、怖ーい神罰が下るんだもん! うさぎの神様の神罰って言うと……神話のうさぎさんみたいに例えば毛を毟られる? じゃあ、円形脱毛症とか、なっちゃうのかな?
 うん、それは嫌だ。丈さんは男だから禿げてもまだ大丈夫かもしれないけれど、私は困る。禿げるのは嫌だ……!

 丈さんが袋から二つ結び石を出して、掌の上に置いた。私と丈さん、一つずつそれを手に取る。

 結び石は五つ。二つは鳥居の上に奉納した。だから持ち帰る分を一つだけ残して、私達はそれぞれ白い小石を手に取ってうさぎにお供えする。階段を上がった処、脇の台座の上に後足で立ち上がり遠い海を見やるうさぎの足元に―――白いすべすべの結び石を、願いを込めて慎重に置いた。

「うさぎさん、また会いに来ますね」

 そう呟いて、二人で手を合わせる。
 時間が無いから、一瞬だけだ。顔を上げると丈さんと目が合った。

 ご利益があったら。今度は三人で、お礼参りが出来るかもしれない。―――来れるといいな。

「じゃあ、帰るか」
「うん!」

 と大きく頷いた時に、大変なことを思い出した!

「しまった! そう言えば『うさぎ焼き』まだ食べてない……!」

 もっと余裕があると考えていたから、第一鳥居の横にある売店のうさぎ焼きは後で食べようと思っていたんだ。なのに第二鳥居で随分と時間を掛けてしまったから……ヤバい! 急がねば間に合わない……!!



「急ごう! 丈さん……!!」



 そう叫ぶと、少し呆気に取られた感じの丈さんの手を、再びひったくるように掴み。私は慌てて、海を臨む境内の階段を駆け下りたのだった。






追伸:無事確保したうさぎ焼きは、もっちりとした歯ざわりでとっても美味しかったです!


【新妻・卯月の仙台暮らし・完】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


滑り込みで何とか大賞期間中に『新婚編』にオチを付けることが出来ました。
これもお読みいただいた方々、お気に入り登録をしていただい方々、それから貴重な一票を投票していただいた方々のお陰です<(_ _)>
執筆の後押しをしていただき、ここまでお付き合いいただき誠に有難うございました!

なお番外編またはおまけ話など一応設定はあるのですが、この後は暫く他の連載を優先する予定です。いつ手を付けられるか分かりませんので、一応完結表示といたします。
が、いつか再度追加できた時そちらでまたお会い出来ると嬉しいです(^^ゞ お時間とご都合がついたら、チラっと覗いてやってください!






※昨年七月の豪雨災害で、卯崎島のモデルとして参考にさせていただいた大久野島も土砂災害に見舞われたそうです。
 ネット上の情報ですが、現在一部山頂など立ち入り禁止区域はあるものの、周回道路、休暇村及び資料館などは通常通りオープンしているとのことです。うさぎさん達も今は通常通り暮らしているようです。

 この度の災害により被災された皆様ならびにそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方々に謹んでお悔やみ申し上げます。
 大久野島および、被災地の皆様の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
 


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(92件)

きみ
2019.02.28 きみ
ネタバレ含む
ねがえり太郎
2019.03.01 ねがえり太郎

何とか区切りの良い所まで辿り着きました(´▽`)

亀田夫妻、今度は子連れで来れると良いなぁ、と思っています。
しかし、その前に別の人がこの神社を訪れるかもしれません…。

七海リクエスト、ありがとうございます(^^ゞ
『平凡~』については、今ネタ帳に脇役メモしかないので、黛夫妻ネタはこれから妄想が湧いて来るのをじっくり瞑想(迷走?)して待とうと思っています。その間、終わり掛けの別作に手を付けるかも…(^^;)

その内アイデアが湧いて来たら、ポカっと追加しようと思いますので、よろしくお願いします。
…と言いつつも、意外と直ぐ追加しちゃったらツッコミ入れてください(笑)

感想ありがとうございました~!(^◇^)

解除
MIYAKO
2019.02.26 MIYAKO
ネタバレ含む
ねがえり太郎
2019.02.26 ねがえり太郎

あら。神話コーナー、もう無いんですね。
大きなうさぎさん、見たかったなぁ。残念です(´・ω・`)

うさぎさんのお菓子の製造場所が近いって、良いですね!羨ましい。
うさぎお菓子の中では、うさぎ型のフィナンシェとチョコが好きです(`・ω・´)キリッ
なんと言っても見た目が可愛いですし。更に美味しいから、お土産に良いですよね。

トラブル続きとのことで、お疲れ様です。
うータンやヨツバを雇って派遣うさぎ会社をやれたら、MIYAKO様の所にすぐに派遣するんですが…!
出来れば可愛いモノと美味しいモノで、自分を少しだけ甘やかしてやってください!('ω')ノ

感想ありがとうございました~!

解除
MIYAKO
2019.02.25 MIYAKO
ネタバレ含む
ねがえり太郎
2019.02.26 ねがえり太郎

初感想、ありがとうございました!

作者も一度、白兎神社にお詣りさせていただきました。うさぎメインの神社、楽しかったです。鳥取砂丘からリフトで上がった売店で、梨のソフトクリームも食べましたよ。とても美味しかったです(´▽`) あとうさぎ系お菓子以外では個人的には『砂の丘』が気に入ってます(`・ω・´)キリッ

北栄町の青山剛昌ふるさと館を目指した旅の途中で見掛けて『あれは何だろう?』と急遽立ち寄った場所が、白兎神社でした。卯月のように鳥取にこの神社があることを知らなかったので、偶然の遭遇にトキメキました。

この旅行がきっかけで、未定だった戸次の実家に鳥取をねじ込んだ次第です(笑)うさぎ土産をどうしても出したかったので。なお、表に出て来ないまま終わりそうな裏設定では、戸次の両親が鳥取出身で定年後Uターンしたことになっています。なので戸次は鳥取弁を話せません。

新婚旅行編を書いていると作者も、また鳥取に行きたくなって来ました。
今記憶と照らし合わせながら、資料やネットで白兎神社を調べているのですが、海岸に繋がる二階のテラスの存在を初めて知りました。あの時気付いていれば……展示があったんですね。次に行った時は二階にも足を運ぼうと思います('ω')ノ

感想ありがとうございました(^^)/
白兎神社経験者の方から感想をいただけて、とても嬉しかったです!

※誤字修正があって、再送信しました。

解除

あなたにおすすめの小説

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

義娘が転生型ヒロインのようですが、立派な淑女に育ててみせます!~鍵を握るのが私の恋愛って本当ですか!?~

咲宮
恋愛
 没落貴族のクロエ・オルコットは、馬車の事故で両親を失ったルルメリアを義娘として引き取ることに。しかし、ルルメリアが突然「あたしひろいんなの‼」と言い出した。  ぎゃくはーれむだの、男をはべらせるだの、とんでもない言葉を並べるルルメリアに頭を抱えるクロエ。このままではまずいと思ったクロエは、ルルメリアを「立派な淑女」にすべく奔走し始める。  育児に励むクロエだが、ある日馬車の前に飛び込もうとした男性を助ける。実はその相手は若き伯爵のようで――?  これは若くして母となったクロエが、義娘と恋愛に翻弄されながらも奮闘する物語。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。 ※毎日更新を予定しております。

宇宙航海士育成学校日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 第四次世界大戦集結から40年、月周回軌道から出発し一年間の実習航海に出発した一隻の宇宙船があった。  その宇宙船は宇宙航海士を育成するもので、生徒たちは自主的に計画するものであった。  しかも、生徒の中に監視と採点を行うロボットが潜入していた。その事は知らされていたが生徒たちは気づく事は出来なかった。なぜなら生徒全員も宇宙服いやロボットの姿であったためだ。  誰が人間で誰がロボットなのか分からなくなったコミュニティーに起きる珍道中物語である。

【短編集】エア・ポケット・ゾーン!

ジャン・幸田
ホラー
 いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。  長編で書きたい構想による備忘録的なものです。  ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。  どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

悪役令嬢ですが婚約破棄されたこともあって異世界行くには妥協しません!

droit
恋愛
婚約破棄されて国を追放され失意の中、死んでしまった令嬢はそのあまりにみじめで不幸な前世から神により次の転生先と条件をある程度自由に決めてよいと言われる。前回さんざんな目にあっただけに今回の転生では絶対に失敗しない人生にするために必要なステータスを盛りまくりたいというところなのだが……。

【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?

ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。 【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。 その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ? (なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。