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番外編・うさぎのきもち
46.みのりの動機
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風間は知っていたのか。
うっすら予想していたとはいえ、ハッキリ断言されると少なからぬ衝撃を受けてしまう。
「……みのりから聞いたのか?」
「ああ」
みのりが俺に黙って風間と会っていた。更には苦手としていた風間にそんな個人的な事を話していたのだと言う。風間が耳に入れた噂話を真に受けて、みのりは俺の家を出て行ったのだろうか?だとしたら―――
俺の気持ちは急速に醒めて行った。
そんな真偽も定かでないことで?
一言も断りも無く、荷物を持ち出して出て行くなんて。しかもヨツバを、うさぎの世話に慣れていない男の手元に置き去りにして。
最初はみのりの突然の行動に腹が立った。連絡しても返しやしない。三年も一緒に暮らして来たのに……と。
暫くして頭が冷えて来て。自分にも非があったのだろう、みのりに捨てられたのも仕方がないのかもしれない―――そんな風に気持ちを収めようとしていた。迷惑で訳の分からない存在だったヨツバ。それがうさぎとの暮らし方が分かって来るに連れて、徐々に変わって来た。寂しいながらも男二人(いや、一人と一匹か……)の暮らしも悪いもんじゃないって思えて来ると、不思議なことにみのりの仕打ちに対する腹立たしさやもの悲しさも感じなくなって来た。
だけど一方でみのりは、俺の見えない所で風間とこっそり会っていたんだ。
風間に花井さんの事で嫌な噂話を聞かされたかもしれない。だけどそれを俺に一言も確認せずに風間の話を鵜呑みにして、ヨツバを押し付けるようにして出て行ってしまった。事情も何も知らせず、居場所も書かず置手紙一つだけ残して。それなのに俺はこんな事態になっても、みのりが俺にハッキリ別れを告げずに他の男に乗り換えるなんて、想像もしていなかったんだ。例え俺に愛想を尽かして切るにしても、彼女はそう言うケジメだけはつける人間なのだと思い込んでいた。
だけど……そうであれば、みのりの不可解な行動に説明も付く。
意外過ぎて全くそんなこと、思いつきもしなかった。
「みのりは……お前の所にいるのか」
何も言わずに出て行ったのは、気まずかったから。みのりの性格から言って、ひょっとすると自分でも受け入れがたかったのだろう。俺から、俺の同僚の風間に乗り換えた事を、後ろ暗く感じているのかもしれない。
そしてどちらが先なのか分からないが、俺がみのりを裏切っていたのだと思っていたのなら―――ヨツバを置いて行ったのは俺に対して当てつけだったのだろうか……? 俺が苦労すれば良い、そんな風に思ってアイツを置き去りにして。それは飼い主に突然放り出された、ヨツバにとっても良い迷惑だったに違いない。
だとすると―――俺はみのりの事を本当に何もわかっていなかったって事になる。
嫌な事があれば、キッパリ言う女だと思っていた。嘘が苦手で、俺に小うるさいと思われようが、自分の意見を言わずにいられないヤツで、その代わり面倒見が良い所があった。
ただどうしても自分で譲れないペースってモノがあって、俺が家事に手を出すのにあまり良い顔をしなかった。口には直接出さなかったが、そう言う雰囲気を常に発していた。だから俺は自分の仕事に関わる事以外、ほとんどアイツに何もかもお任せで―――それを悪いとは思いつつ依存していたと思う。他人と一緒に暮らして行くには役割分担ってもんが大事で、それは手を出す事ばかりじゃなくて空気を読んで手を出さない事も大事だと思っていた。俺は自分のやり方にあまり拘りが無い方だし、やって貰えるなら多少自分のやり方と違っても文句も無いし、楽だとか有難いとか思えるタイプだった。だから、それで俺達は上手く行っているんだって、思い込んでいたんだ。
だけど違ったのかもしれない。三年間、上手く行っていると思っていたのは男の側だけで、みのりは―――女の側からみれば、不満を溜め込むばかりの三年間だったのかもしれない。
だからヨツバを置いて行ったのだろうか? 俺にうさぎの世話をさせて、苦労させることで腹いせに代えるつもりだったのか?
俺がみのりだと思っていた彼女は、実は表面上の彼女で―――本当のみのりは俺の認識とは違っていた。
だからこそ苦手だと言っていた風間に心変わりをしたのだろうか。そして俺を捨てて、風間と付き合うようになったのだろうか?
うっすら予想していたとはいえ、ハッキリ断言されると少なからぬ衝撃を受けてしまう。
「……みのりから聞いたのか?」
「ああ」
みのりが俺に黙って風間と会っていた。更には苦手としていた風間にそんな個人的な事を話していたのだと言う。風間が耳に入れた噂話を真に受けて、みのりは俺の家を出て行ったのだろうか?だとしたら―――
俺の気持ちは急速に醒めて行った。
そんな真偽も定かでないことで?
一言も断りも無く、荷物を持ち出して出て行くなんて。しかもヨツバを、うさぎの世話に慣れていない男の手元に置き去りにして。
最初はみのりの突然の行動に腹が立った。連絡しても返しやしない。三年も一緒に暮らして来たのに……と。
暫くして頭が冷えて来て。自分にも非があったのだろう、みのりに捨てられたのも仕方がないのかもしれない―――そんな風に気持ちを収めようとしていた。迷惑で訳の分からない存在だったヨツバ。それがうさぎとの暮らし方が分かって来るに連れて、徐々に変わって来た。寂しいながらも男二人(いや、一人と一匹か……)の暮らしも悪いもんじゃないって思えて来ると、不思議なことにみのりの仕打ちに対する腹立たしさやもの悲しさも感じなくなって来た。
だけど一方でみのりは、俺の見えない所で風間とこっそり会っていたんだ。
風間に花井さんの事で嫌な噂話を聞かされたかもしれない。だけどそれを俺に一言も確認せずに風間の話を鵜呑みにして、ヨツバを押し付けるようにして出て行ってしまった。事情も何も知らせず、居場所も書かず置手紙一つだけ残して。それなのに俺はこんな事態になっても、みのりが俺にハッキリ別れを告げずに他の男に乗り換えるなんて、想像もしていなかったんだ。例え俺に愛想を尽かして切るにしても、彼女はそう言うケジメだけはつける人間なのだと思い込んでいた。
だけど……そうであれば、みのりの不可解な行動に説明も付く。
意外過ぎて全くそんなこと、思いつきもしなかった。
「みのりは……お前の所にいるのか」
何も言わずに出て行ったのは、気まずかったから。みのりの性格から言って、ひょっとすると自分でも受け入れがたかったのだろう。俺から、俺の同僚の風間に乗り換えた事を、後ろ暗く感じているのかもしれない。
そしてどちらが先なのか分からないが、俺がみのりを裏切っていたのだと思っていたのなら―――ヨツバを置いて行ったのは俺に対して当てつけだったのだろうか……? 俺が苦労すれば良い、そんな風に思ってアイツを置き去りにして。それは飼い主に突然放り出された、ヨツバにとっても良い迷惑だったに違いない。
だとすると―――俺はみのりの事を本当に何もわかっていなかったって事になる。
嫌な事があれば、キッパリ言う女だと思っていた。嘘が苦手で、俺に小うるさいと思われようが、自分の意見を言わずにいられないヤツで、その代わり面倒見が良い所があった。
ただどうしても自分で譲れないペースってモノがあって、俺が家事に手を出すのにあまり良い顔をしなかった。口には直接出さなかったが、そう言う雰囲気を常に発していた。だから俺は自分の仕事に関わる事以外、ほとんどアイツに何もかもお任せで―――それを悪いとは思いつつ依存していたと思う。他人と一緒に暮らして行くには役割分担ってもんが大事で、それは手を出す事ばかりじゃなくて空気を読んで手を出さない事も大事だと思っていた。俺は自分のやり方にあまり拘りが無い方だし、やって貰えるなら多少自分のやり方と違っても文句も無いし、楽だとか有難いとか思えるタイプだった。だから、それで俺達は上手く行っているんだって、思い込んでいたんだ。
だけど違ったのかもしれない。三年間、上手く行っていると思っていたのは男の側だけで、みのりは―――女の側からみれば、不満を溜め込むばかりの三年間だったのかもしれない。
だからヨツバを置いて行ったのだろうか? 俺にうさぎの世話をさせて、苦労させることで腹いせに代えるつもりだったのか?
俺がみのりだと思っていた彼女は、実は表面上の彼女で―――本当のみのりは俺の認識とは違っていた。
だからこそ苦手だと言っていた風間に心変わりをしたのだろうか。そして俺を捨てて、風間と付き合うようになったのだろうか?
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