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番外編・うさぎのきもち
8.店員さんへ質問
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けれどこう言う人の方が、とっつき易くはある。初心者の下らない質問にも親切に答えてくれそうだ。
「あの、実は知合いから……うさぎを預かってまして」
「はい。あっ!と言うと既にうさぎを飼ってらっしゃる……」
「いえ、その、うさぎの世話をした事は無いんです」
「えっ……」
色々考えて、同棲していた彼女が出て行きうさぎを置いて行ったと言う事実には触れない事にした。『人と話すのが苦手な店員』ってそもそもアリなのか?と言う所が根本的に気にならないでも無いが、きっと事情があるのだろう。臨時で仕方なく留守を預かっているのかもしれない。其処は突っ込まないとして、男女の付き合いに関してもあまり免疫が無いような気がしたのだ。
と言うか、絶対無い。物凄いイケメン、と言う訳では無いが、俺はそこそこ女好きする容貌や雰囲気を持っていると思う。少しでも男慣れしている女性なら、スッと間合いに入る事が出来るし相手からも好意的な感情を向けられる事が多い。けれども一向に彼女からは頑なな強張りが消える様子はない。いや、一瞬消えたか。『可愛いですよね……』とうさぎについてコメントした時は素だった気がする。
だからヨツバを世話する経緯については口にしない事にした。単純に格好悪いから、と言うのもあるが、俺の事情を口にしたら真面目そうなこの店員は唖然として盛大に引くだろうと考えたのだ。
「だから、餌のやり方とか全然分からなくて。専門店なら色々詳しい事が聞けるかなって―――あ、もちろん何か買わせていただきます。餌はまだたっぷりあるんですが、他に必要なものがあれば……」
「そんな……うさぎ初心者の方に説明も無く、うさぎを押し付けたんですか……?」
すると彼女の顔色が目に見えて変わった。
「ひどいっ……うさぎが可哀想です。飼い主さん、何でそんな酷い事を……!」
その豹変振りに俺は目を瞬かせた。これは……ブルブル震えているのは、怒っているのか?もしかして。
「いや、あの」
「ただでさえ、慣れない部屋に行くだけで怯えているって言うのにっ……なのに」
俺は慌てて彼女の台詞を遮った。
「いや、違うんです。部屋は同じ部屋でその……ずっと飼われている場所からうさぎを動かしてはいないんです」
「え?」
彼女は目を丸くして俺を見上げた。
少しギクリとする。眼鏡と長い前髪でよく意識していなかったが、この店員、普通より大きくてヤケに綺麗な目をしているかもしれない。しかももしかすると全く化粧をしていないのではないだろうか?みのりはあまり俺の目の前で大っぴらに化粧はしなかったのだが、それでも偶然その作業を目にする事があったし、尋ねれば道具や仕組みについて教えてくれた。そう言う経験を持つ俺の目には俺の顔をマジマジと見つめる店員の顔はそう、映った。
「それはどう言う……」
彼女の追及の言葉にハッとして、慌てて言い訳を継ぐ。
「あの、部屋を……そう、部屋の鍵を預かったので。時々様子を見てくれと頼まれまして」
「あっ……そうなんですね。それにしても変ですね。それなら何故世話の仕方を教えて置いてくれなかったんでしょう?」
「……」
シツコイ。
人慣れしていないと言う事がよく伝わって来る。普通聞かれたく無い事だと察して、追及は止めるところだろう……此処は。論点は俺とみのりの関係じゃなくて、うさぎの世話をどうするかなのだから。
やはりここは諦めて、撤退に舵を切る事にしよう。大型ペットショップ!そっちがベストだ。店員はきっとビジネスライクにあっさり対応してくれる事だろう。
「あの、もう」
その時、店の扉が開いた。
小柄な眼鏡の店員が、途端にパッと明るい表情になる。
「いらっしゃいませ!」
「……」
しかし相手は黙ったままだ。頷いたか何かしたのだろう、目の前の店員はニコニコと別人のように親し気な笑顔を振りまいている。
何だ、やれば出来るんじゃないか。
と、ビクビクオドオドされてばかりの俺は多少苛立ってしまう。
「チモシーでしたよね」
「お願いします」
小柄な店員がピュッと商品を並べたワイヤーシェルフの元へ駆け寄った。
途端に放り出される形になった俺は、その態度の急変に怒ると言うより―――血の気が引いた。
『お願いします』と言った声に聞き覚えがあるからだ。
「あの、実は知合いから……うさぎを預かってまして」
「はい。あっ!と言うと既にうさぎを飼ってらっしゃる……」
「いえ、その、うさぎの世話をした事は無いんです」
「えっ……」
色々考えて、同棲していた彼女が出て行きうさぎを置いて行ったと言う事実には触れない事にした。『人と話すのが苦手な店員』ってそもそもアリなのか?と言う所が根本的に気にならないでも無いが、きっと事情があるのだろう。臨時で仕方なく留守を預かっているのかもしれない。其処は突っ込まないとして、男女の付き合いに関してもあまり免疫が無いような気がしたのだ。
と言うか、絶対無い。物凄いイケメン、と言う訳では無いが、俺はそこそこ女好きする容貌や雰囲気を持っていると思う。少しでも男慣れしている女性なら、スッと間合いに入る事が出来るし相手からも好意的な感情を向けられる事が多い。けれども一向に彼女からは頑なな強張りが消える様子はない。いや、一瞬消えたか。『可愛いですよね……』とうさぎについてコメントした時は素だった気がする。
だからヨツバを世話する経緯については口にしない事にした。単純に格好悪いから、と言うのもあるが、俺の事情を口にしたら真面目そうなこの店員は唖然として盛大に引くだろうと考えたのだ。
「だから、餌のやり方とか全然分からなくて。専門店なら色々詳しい事が聞けるかなって―――あ、もちろん何か買わせていただきます。餌はまだたっぷりあるんですが、他に必要なものがあれば……」
「そんな……うさぎ初心者の方に説明も無く、うさぎを押し付けたんですか……?」
すると彼女の顔色が目に見えて変わった。
「ひどいっ……うさぎが可哀想です。飼い主さん、何でそんな酷い事を……!」
その豹変振りに俺は目を瞬かせた。これは……ブルブル震えているのは、怒っているのか?もしかして。
「いや、あの」
「ただでさえ、慣れない部屋に行くだけで怯えているって言うのにっ……なのに」
俺は慌てて彼女の台詞を遮った。
「いや、違うんです。部屋は同じ部屋でその……ずっと飼われている場所からうさぎを動かしてはいないんです」
「え?」
彼女は目を丸くして俺を見上げた。
少しギクリとする。眼鏡と長い前髪でよく意識していなかったが、この店員、普通より大きくてヤケに綺麗な目をしているかもしれない。しかももしかすると全く化粧をしていないのではないだろうか?みのりはあまり俺の目の前で大っぴらに化粧はしなかったのだが、それでも偶然その作業を目にする事があったし、尋ねれば道具や仕組みについて教えてくれた。そう言う経験を持つ俺の目には俺の顔をマジマジと見つめる店員の顔はそう、映った。
「それはどう言う……」
彼女の追及の言葉にハッとして、慌てて言い訳を継ぐ。
「あの、部屋を……そう、部屋の鍵を預かったので。時々様子を見てくれと頼まれまして」
「あっ……そうなんですね。それにしても変ですね。それなら何故世話の仕方を教えて置いてくれなかったんでしょう?」
「……」
シツコイ。
人慣れしていないと言う事がよく伝わって来る。普通聞かれたく無い事だと察して、追及は止めるところだろう……此処は。論点は俺とみのりの関係じゃなくて、うさぎの世話をどうするかなのだから。
やはりここは諦めて、撤退に舵を切る事にしよう。大型ペットショップ!そっちがベストだ。店員はきっとビジネスライクにあっさり対応してくれる事だろう。
「あの、もう」
その時、店の扉が開いた。
小柄な眼鏡の店員が、途端にパッと明るい表情になる。
「いらっしゃいませ!」
「……」
しかし相手は黙ったままだ。頷いたか何かしたのだろう、目の前の店員はニコニコと別人のように親し気な笑顔を振りまいている。
何だ、やれば出来るんじゃないか。
と、ビクビクオドオドされてばかりの俺は多少苛立ってしまう。
「チモシーでしたよね」
「お願いします」
小柄な店員がピュッと商品を並べたワイヤーシェルフの元へ駆け寄った。
途端に放り出される形になった俺は、その態度の急変に怒ると言うより―――血の気が引いた。
『お願いします』と言った声に聞き覚えがあるからだ。
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(なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)
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