捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
上 下
205 / 375
番外編・うさぎのきもち

8.店員さんへ質問

しおりを挟む
 けれどこう言う人の方が、とっつき易くはある。初心者の下らない質問にも親切に答えてくれそうだ。

「あの、実は知合いから……うさぎを預かってまして」
「はい。あっ!と言うと既にうさぎを飼ってらっしゃる……」
「いえ、その、うさぎの世話をした事は無いんです」
「えっ……」

 色々考えて、同棲していた彼女が出て行きうさぎを置いて行ったと言う事実には触れない事にした。『人と話すのが苦手な店員』ってそもそもアリなのか?と言う所が根本的に気にならないでも無いが、きっと事情があるのだろう。臨時で仕方なく留守を預かっているのかもしれない。其処は突っ込まないとして、男女の付き合いに関してもあまり免疫が無いような気がしたのだ。

 と言うか、絶対無い。物凄いイケメン、と言う訳では無いが、俺はそこそこ女好きする容貌や雰囲気を持っていると思う。少しでも男慣れしている女性なら、スッと間合いに入る事が出来るし相手からも好意的な感情を向けられる事が多い。けれども一向に彼女からは頑なな強張りが消える様子はない。いや、一瞬消えたか。『可愛いですよね……』とうさぎについてコメントした時は素だった気がする。

 だからヨツバを世話する経緯については口にしない事にした。単純に格好悪いから、と言うのもあるが、俺の事情を口にしたら真面目そうなこの店員は唖然として盛大に引くだろうと考えたのだ。

「だから、餌のやり方とか全然分からなくて。専門店なら色々詳しい事が聞けるかなって―――あ、もちろん何か買わせていただきます。餌はまだたっぷりあるんですが、他に必要なものがあれば……」
「そんな……うさぎ初心者の方に説明も無く、うさぎを押し付けたんですか……?」

 すると彼女の顔色が目に見えて変わった。

「ひどいっ……うさぎが可哀想です。飼い主さん、何でそんな酷い事を……!」

 その豹変振りに俺は目を瞬かせた。これは……ブルブル震えているのは、怒っているのか?もしかして。

「いや、あの」
「ただでさえ、慣れない部屋に行くだけで怯えているって言うのにっ……なのに」

 俺は慌てて彼女の台詞を遮った。

「いや、違うんです。部屋は同じ部屋でその……ずっと飼われている場所からうさぎを動かしてはいないんです」
「え?」

 彼女は目を丸くして俺を見上げた。
 少しギクリとする。眼鏡と長い前髪でよく意識していなかったが、この店員、普通より大きくてヤケに綺麗な目をしているかもしれない。しかももしかすると全く化粧をしていないのではないだろうか?みのりはあまり俺の目の前で大っぴらに化粧はしなかったのだが、それでも偶然その作業を目にする事があったし、尋ねれば道具や仕組みについて教えてくれた。そう言う経験を持つ俺の目には俺の顔をマジマジと見つめる店員の顔はそう、映った。

「それはどう言う……」

 彼女の追及の言葉にハッとして、慌てて言い訳を継ぐ。

「あの、部屋を……そう、部屋の鍵を預かったので。時々様子を見てくれと頼まれまして」
「あっ……そうなんですね。それにしても変ですね。それなら何故世話の仕方を教えて置いてくれなかったんでしょう?」
「……」

 シツコイ。

 人慣れしていないと言う事がよく伝わって来る。普通聞かれたく無い事だと察して、追及は止めるところだろう……此処は。論点は俺とみのりの関係じゃなくて、うさぎの世話をどうするかなのだから。
 やはりここは諦めて、撤退に舵を切る事にしよう。大型ペットショップ!そっちがベストだ。店員はきっとビジネスライクにあっさり対応してくれる事だろう。

「あの、もう」

 その時、店の扉が開いた。
 小柄な眼鏡の店員が、途端にパッと明るい表情になる。

「いらっしゃいませ!」
「……」

 しかし相手は黙ったままだ。頷いたか何かしたのだろう、目の前の店員はニコニコと別人のように親し気な笑顔を振りまいている。

 何だ、やれば出来るんじゃないか。

 と、ビクビクオドオドされてばかりの俺は多少苛立ってしまう。

「チモシーでしたよね」
「お願いします」

 小柄な店員がピュッと商品を並べたワイヤーシェルフの元へ駆け寄った。
 途端に放り出される形になった俺は、その態度の急変に怒ると言うより―――血の気が引いた。

『お願いします』と言った声に聞き覚えがあるからだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

義娘が転生型ヒロインのようですが、立派な淑女に育ててみせます!~鍵を握るのが私の恋愛って本当ですか!?~

咲宮
恋愛
 没落貴族のクロエ・オルコットは、馬車の事故で両親を失ったルルメリアを義娘として引き取ることに。しかし、ルルメリアが突然「あたしひろいんなの‼」と言い出した。  ぎゃくはーれむだの、男をはべらせるだの、とんでもない言葉を並べるルルメリアに頭を抱えるクロエ。このままではまずいと思ったクロエは、ルルメリアを「立派な淑女」にすべく奔走し始める。  育児に励むクロエだが、ある日馬車の前に飛び込もうとした男性を助ける。実はその相手は若き伯爵のようで――?  これは若くして母となったクロエが、義娘と恋愛に翻弄されながらも奮闘する物語。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。 ※毎日更新を予定しております。

宇宙航海士育成学校日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 第四次世界大戦集結から40年、月周回軌道から出発し一年間の実習航海に出発した一隻の宇宙船があった。  その宇宙船は宇宙航海士を育成するもので、生徒たちは自主的に計画するものであった。  しかも、生徒の中に監視と採点を行うロボットが潜入していた。その事は知らされていたが生徒たちは気づく事は出来なかった。なぜなら生徒全員も宇宙服いやロボットの姿であったためだ。  誰が人間で誰がロボットなのか分からなくなったコミュニティーに起きる珍道中物語である。

【短編集】エア・ポケット・ゾーン!

ジャン・幸田
ホラー
 いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。  長編で書きたい構想による備忘録的なものです。  ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。  どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

悪役令嬢ですが婚約破棄されたこともあって異世界行くには妥協しません!

droit
恋愛
婚約破棄されて国を追放され失意の中、死んでしまった令嬢はそのあまりにみじめで不幸な前世から神により次の転生先と条件をある程度自由に決めてよいと言われる。前回さんざんな目にあっただけに今回の転生では絶対に失敗しない人生にするために必要なステータスを盛りまくりたいというところなのだが……。

【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?

ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。 【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。 その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ? (なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)

処理中です...