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番外編・うさぎのきもち
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別作として掲載していた番外編『うさぎのきもち』を挿入します。
なお、既掲載していた別作から文章体裁を見易いように修正しております。
が、内容についてほとんど変更はありません。
注!)進み具合によってはうさぎに夢を持てなくなる可能性があります。
また、今回のお話はうさぎが話の中心となるため、主人公及び登場人物の性格や行動が微妙かもしれません。
気になる方は閲覧に注意していただくよう、よろしくお願いします<(_ _)>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最近、帰宅恐怖症を拗らせる夫が多いと言う。
俺は『恐怖症』と言う訳じゃない。最近ただ何となく家に帰るのが億劫だってだけで。終業後、つい同僚を飲みに誘ってしまうんだ。別にみのりに不満があるって訳じゃない。けれども同棲三年目、お互い二十九歳になって何となく深刻な話題に到るのを避けてしまう自分がいた。今職場で上司と上手く行っていないのも関係しているかもしれない。そのイライラを抱えたままみのりと顔を合わせたくない、仕事の愚痴を女に零すのはカッコ悪いと言う意識が働いたのだと思う。だからそれを発散させてから帰ろう、と。どうにも自分に余裕が無い時に未来の建設的な話をするのは、具合が悪い気がしたのだ。
つまりは自分の事でいっぱいいっぱい。そんな状態で相手の人生を背負い込む覚悟まで決断できない、と言うのが正直な所。
だから、あとちょっとだけ。―――その時はそう思っていたんだ。
ある日、帰宅した部屋は真っ暗闇だった。
でもそれは珍しい事じゃない。最近はみのりが寝静まってから、そのベッドにもぐりこむ事が多かったから。
その日もシャワーを浴びて、それから寝巻替わりのスウェットに着替えてから寝室に入った。だけどベッドの中にいつも存在していた温もりが見当たらない。シン、と静まり返った部屋の中で首を傾げ、明かりを点ける。
そして、みのりがアパートの何処にも存在しない事に気が付いた。
スマホを確認するが、連絡は無い。もともとアイツは女の割に煩くないと言うか、意味の無い連絡を入れるタイプじゃない。それこそ俺に気のあるらしい派遣の女の子が送って来るような無駄なスタンプとか、世間話に満たないような「それ、聞いてどうしたいの?」って言うような子供みたいな質問とか。
つまりみのりは用事がある時しか連絡してこない。だからこそ遅くなって電車に乗り遅れたとか、友人の家に泊まるとかそう言う時は必ず連絡を寄越す筈なのに。
SNSで連絡を入れるが既読が付かない。
メールを送るが返信が無い。
とうとう電話を掛けてみたが―――コール音が虚しく続くだけだ。
事故か?事件か?
不安になって、みのりの実家に連絡を取ろうかどうか迷う。
県外の彼女の親と顔を合わせた事は無い……アドレス帳に登録してはいないが、手紙か何か残っていれば電話番号が分かるかもしれない。それとも友人に聞いてみるか……?いや、連絡先までは分からない。
何かあったなら、連絡が行くのは親族だ。婚姻届けなんて紙切れ一枚の違いしかないと考えていたが、こういう非常事態になって初めて必要性を痛感するに至る。
そうして初めて―――ダイニングテーブルの上の置手紙に気が付いた。
『出て行きます。落ち着いたらヨツバを引き取りに戻りますので、それまでよろしくお願いします。 みのり』
……『ヨツバ』?ヨツバって何だっけ。
そこでカサっと音がした。キッチン兼用のリビングの隅、布が掛かったケージの中から、タイミングを計ったように自分の存在を主張する存在に気付く。
『ヨツバ』―――思い出した。少し前に、みのりが飼いたいと言い出したうさぎの名前だ。飼い始めた当初、俺は新しく赴任した上司とそりが合わず余裕が無かった。やがてみのりの話題はうさぎ中心になり、俺はそれを適当に聞き流して来た。そう気晴らしの相手が出来れば気兼ねなく飲みに行けるな、と思ったくらいで。
なのにみのりは、その大事にしていた筈のうさぎを置いて出て行ったしまったのだ。
なお、既掲載していた別作から文章体裁を見易いように修正しております。
が、内容についてほとんど変更はありません。
注!)進み具合によってはうさぎに夢を持てなくなる可能性があります。
また、今回のお話はうさぎが話の中心となるため、主人公及び登場人物の性格や行動が微妙かもしれません。
気になる方は閲覧に注意していただくよう、よろしくお願いします<(_ _)>
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最近、帰宅恐怖症を拗らせる夫が多いと言う。
俺は『恐怖症』と言う訳じゃない。最近ただ何となく家に帰るのが億劫だってだけで。終業後、つい同僚を飲みに誘ってしまうんだ。別にみのりに不満があるって訳じゃない。けれども同棲三年目、お互い二十九歳になって何となく深刻な話題に到るのを避けてしまう自分がいた。今職場で上司と上手く行っていないのも関係しているかもしれない。そのイライラを抱えたままみのりと顔を合わせたくない、仕事の愚痴を女に零すのはカッコ悪いと言う意識が働いたのだと思う。だからそれを発散させてから帰ろう、と。どうにも自分に余裕が無い時に未来の建設的な話をするのは、具合が悪い気がしたのだ。
つまりは自分の事でいっぱいいっぱい。そんな状態で相手の人生を背負い込む覚悟まで決断できない、と言うのが正直な所。
だから、あとちょっとだけ。―――その時はそう思っていたんだ。
ある日、帰宅した部屋は真っ暗闇だった。
でもそれは珍しい事じゃない。最近はみのりが寝静まってから、そのベッドにもぐりこむ事が多かったから。
その日もシャワーを浴びて、それから寝巻替わりのスウェットに着替えてから寝室に入った。だけどベッドの中にいつも存在していた温もりが見当たらない。シン、と静まり返った部屋の中で首を傾げ、明かりを点ける。
そして、みのりがアパートの何処にも存在しない事に気が付いた。
スマホを確認するが、連絡は無い。もともとアイツは女の割に煩くないと言うか、意味の無い連絡を入れるタイプじゃない。それこそ俺に気のあるらしい派遣の女の子が送って来るような無駄なスタンプとか、世間話に満たないような「それ、聞いてどうしたいの?」って言うような子供みたいな質問とか。
つまりみのりは用事がある時しか連絡してこない。だからこそ遅くなって電車に乗り遅れたとか、友人の家に泊まるとかそう言う時は必ず連絡を寄越す筈なのに。
SNSで連絡を入れるが既読が付かない。
メールを送るが返信が無い。
とうとう電話を掛けてみたが―――コール音が虚しく続くだけだ。
事故か?事件か?
不安になって、みのりの実家に連絡を取ろうかどうか迷う。
県外の彼女の親と顔を合わせた事は無い……アドレス帳に登録してはいないが、手紙か何か残っていれば電話番号が分かるかもしれない。それとも友人に聞いてみるか……?いや、連絡先までは分からない。
何かあったなら、連絡が行くのは親族だ。婚姻届けなんて紙切れ一枚の違いしかないと考えていたが、こういう非常事態になって初めて必要性を痛感するに至る。
そうして初めて―――ダイニングテーブルの上の置手紙に気が付いた。
『出て行きます。落ち着いたらヨツバを引き取りに戻りますので、それまでよろしくお願いします。 みのり』
……『ヨツバ』?ヨツバって何だっけ。
そこでカサっと音がした。キッチン兼用のリビングの隅、布が掛かったケージの中から、タイミングを計ったように自分の存在を主張する存在に気付く。
『ヨツバ』―――思い出した。少し前に、みのりが飼いたいと言い出したうさぎの名前だ。飼い始めた当初、俺は新しく赴任した上司とそりが合わず余裕が無かった。やがてみのりの話題はうさぎ中心になり、俺はそれを適当に聞き流して来た。そう気晴らしの相手が出来れば気兼ねなく飲みに行けるな、と思ったくらいで。
なのにみのりは、その大事にしていた筈のうさぎを置いて出て行ったしまったのだ。
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(なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)
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